大仕事①
「『デリバリー』通りまーす!」
そう叫びながら汐街道を全速力で走る。
ここから海辺の港町までのデリバリー。
所要時間は8時間で制限時間も8時間。
マジでキツイ。
いくら災害対策課で働いていたとは言え、ただのヒューマンに8時間ぶっ通して走らせるのは流石に酷だ。
数十分程走り続けると規制線が張られているのが遠くに窺える。
「『デリバリー』通りまーす!」
大声で叫ぶと近くにいた警官がこちらに気付き、両手をクロスさせる。
「······通りまーす!」
「ここから先はクラスA災害発生中!通るなら自己責任、それか迂回でお願いします!」
「了解でーす!」
クラスAならなんとかなるかな。
どうせ数十人程度の死人だ。
そう考えているとでかい針山のようなものが見えてきた。
というより道に飛び出している感じか。
「うへぇ······」
高さは4m弱で、まだまだ生えてきそうだ。
歩いて通れそうな隙間もないし、何よりそんなことしている暇もない。
······渡るか。
アサルトライフルを胸元から取り出し、登れるようにひとつひとつ階段状に壊していく。
恐らくこのトゲがあるのは3キロほど。
「頑張るか」
そう小さく呟き、トゲの先端に足をかけた。
「うぉっと」
一瞬ぐらついたが何とか体勢を戻し、走り始める。
幸いにもトゲは等間隔に並んでいるため、もう体勢が崩れることはなかった。
「はぁっ······はあっ······」
つ、疲れた。
足がガクガクして走れないため、今は歩いている。
ふと空に何かが飛んでいるのが確認できる。
よく見るとそれは大きな鳥のカタチをしていて、悠々と俺の頭上を通過しようとしている。
空を仰いで視界から消えてしまうかと思われたその影は旋回して真っ直ぐ俺に標的を定めた。
中心に人のカタチが確認できたためハーピーかと思ったが、その顔は見慣れたイルさんの顔だった。
「クラスA災害で足止め食らってるって聞いたんだけど?」
「上を渡ってきました」
「······そう、なら先に着いて待ってるわね」
俺も連れてって、と言おうとしたが後の祭り。
その背中は段々と小さくなっていった。
「走りたくねぇ〜」
結局は走るのだが。
しばらく走っているとまた警官が道を塞いでいた。
っざけんな、この道は一直線だけで迂回できないの知ってんだろうが。
「『デリバリー』でーす」
「この先はクラスC災害発生中です。災害対策課が来るまでここに待機していてください」
「ふーん、Cだとそこそこヤバい感じ?」
「生まれたばかりの出来損ないエンジェルが暴れてます。通りたいなら自己責任でならどうぞ」
「はいよー」
「できれば殺しといてくれると助かります」
「出来たらね」
この警官も面倒くさがりだな。
対策課待つの面倒だから一般人に殺せって、無責任過ぎるでしょ。
あそこ光ってるし多分あそこかな。
「グギャァァァァァァァァァァァ!」
家ぶっ壊してるあいつが出来損ないエンジェルか。
1.5メートルクラス。
······ギリ。
············ギリ殺せそうかな。
岡持ちを置いてからアサルトライフルを取り出し、スコープを覗く。
そしてナイフを腰に差す。
真紅に染まった左目を撃つ。
「ギィィィィィィィ!!!」
撃ち続けながら近付き、ナイフを取り出す。
「ガァァァァァァァァァァ!!!」
3メートル程度まで近付いた瞬間、銃を投げ捨てて右手のナイフで首の横側、頸動脈がある場所を刺す。
「ガッ······」
その瞬間に左手にダガーを顕現させ、首を撥ね飛ばす。
「あっ······」
小さな断末魔をあげて名も無きエンジェルは地面に伏した。
ナイフの血を払い、腰に差し直す。
そしてダガーを消失させ、岡持ちと投げたアサルトライフルを取りに戻る。
ふと胴と首の繋がっていないエンジェルを見る。
天輪は貰っておこう。
いつか恋人にでも渡そうかな、なんてね。
欲しがる人がいたらあげよう。
胸元のポケットにアサルトライフルと天輪をしまう。
「久々に戦闘すると疲れるなぁ」
軽く伸びをするとまた遠くに鳥が見える。
近付いてくる間にイルさんだということは把握した。
「エンジェルが暴れてるって聞いたんだけど?」
「殺しました」
「死体は?」
「対策課が来るらしいんで問題ないです」
「そう······」
「天輪いります?」
「いらないわ」
それは残念だ。
「もう戻ってこなくても大丈夫ね?」
「大体なんとかしますので大丈夫です」
それを聞くとイルさんは飛び立って行った。
······また乗せてもらうの忘れてた。
つーかなんでイルさんは進行方向から来たんだ?
まあいっか。
とにかく走らないと。
後ろから災害対策課のヘリが見えたから急がないと。
パッと見、血塗れな俺が悪者だ。