誘拐されました
「やあやあレルくん、ご機嫌いかがかな?」
知らない相手から急に話しかけられ、思わず飛び退いてしまう。
「······あんた誰?」
「ボク?ボクはサヤ。まあそんなことはともかくボクとお茶でもどうかな?」
サヤと名乗った人物はシルクハットを被り黒いスーツに身を包んでおり、ちらちら見える灰色の耳と尻尾から恐らく猫の獣人だと言うことがわかる。
「すまないが今から予定があってな」
「それは残念だ······」
知らない奴と関わっている暇は残念ながらないのだ。
しかも俺の名前を知ってるやつなんてロクなもんじゃない。
「心が痛むけど強引に連れて行くことにするよ」
そう聞こえた時には既に首元に衝撃が走り視界がボヤけ始めていた。
「またね〜」
あっけらかんとした声だけが酷く脳にこびり付いていた。
__________________________
「レル遅いですね〜」
「夕方には帰るって言ってたのにもう6時だよ」
レルが帰ってこないことにカレンが怒っているがもちろん私も怒っている。
しかし連絡の一つも寄越さないなんてレルらしくない。
いつもは遅れそうなら分霊を送るなり携帯でメッセージを送ってくるなりするのに。
「あいつ事故にでも巻き込まれたか?」
「それなら対策課なりなんかがこっちに連絡くれますよ」
「じゃあまたあのミア?っていう獣人じゃないの?」
「「あー」」
全然ありえる。
レル曰く世界くらいなら余裕で滅ぼせるらしいしそれで食事に無理やり誘われて連絡がとれないとか。
「あいつレルにご執心で独占欲強そうだから多分どっかのレストランにでもいるって」
「ミアの話してますか〜?」
「わっ!」
気付けばカレンの後ろにちょうど話題のミアが出てきた。
「私の話が聞こえたついでにレルさんに会いに来たんですが今はいらっしゃらないんでしょうか?」
「ええ、4時間前にふらっと出かけてから連絡がつかないのよ」
「それは妙ですね、探しに行きましょうか?」
いつの間にかカレンが私の後ろで冷や汗を流しながらミアを見つめている。
「ええ、ぜひよろしくお願いします」
「わかりました」
そう言ってミアは普通にドアから出ていった。
「カレン、大丈夫?」
「······あいつの気配全く感じなかった」
「私もよ。でもあの子は多分害意がなければ多分何もしてこないわよ」
「それでもいやなものはいや!」
「まあそのミアが探してくれるって言うんならいいじゃねえか」
「そうですね。······竹林さん、まかないでラーメンお願いしてもいいですか?」
「おう、待ってろ」
まさかレルが重大な事件に巻き込まれているとはつゆ知らず私は厨房から香る芳醇な香りに胸を躍らせるのだった。