八つ当たりと呪い
「エリィ、すぐ帰ってくるからね」
「うん!」
エリィは留守番させた。村には絶対に行かせられない。リリィお嬢様も、村には行かせたくなかったが、彼女の足を止められない。
「リリィお嬢様、どうして、こんなことを」
人はもううんざいだ、と言っていた彼女が、人を助けようとする。今更ながら、不思議だった。
「だって、エリィ、私たちがいなくなったら、一人じゃない。それに、もう一人、生まれるのよ。いつまでも山の中にいるわけにはいかないわ」
「それでは、男爵領に戻りましょう」
「そうね。だから、山小屋の食べ物、全部、あげちゃお」
「ええ、ええ、そうしましょう!」
リリィお嬢様は、エリィの将来と、これから生まれる赤ん坊のことを考え、山小屋を捨てることにした。ただ、捨てるのはもったいないので、村人にあげてしまおう、と決めたのだ。
男爵領に戻る。リリィお嬢様がやっと、そう決心したことに、僕は油断した。
あの山の子どもがいた場所に到着すると、そこには、農具やらなにやらをかまえた村人たちがいた。
どれも、剣呑な目をしている。
「あら、連れてきてくれたのね。私では、持ちきれないの。手伝って」
「おばちゃん、ごめん!」
子どもが謝ると同時に、村人はリリィお嬢様の頭に農具を打ち付けた。
「あ、何?」
痛みはあるが、それよりも、驚いて、リリィお嬢様は倒れた。僕はリリィお嬢様がこれ以上、怪我をしないように上に乗った。
「お前らが! 山の実りを独り占めにしてたのか!?」
「てめぇらのせいで、俺たちが苦しんだんだ!!」
「死ねぇ!」
「このヤロー!!」
酷い言いがかりだ。天候も山の実りも、全ては運でしかない。三人家族で得られるものなど、たかが知れるというのに。
飢えて、苦しくて、助けもなくて、その中で、リリィお嬢様は苦労なく、「可哀想」と言っている。それは、村人たちの怒りに火をつけた。
リリィお嬢様は人を悪く思わない。村人に言いがかりに、涙する。
「ごめんなさい、私、採り過ぎちゃった、のね」
泣いて謝るリリィお嬢様。
「リリィ、リリィ、しっかりするんだ!!」
体だけでリリィお嬢様を守るが、最初の一撃が、致命傷となったのか、彼女の瞳から生気が消えていく。
「お願い、エリィを、助けて。私の娘、助け、て」
それが、リリィお嬢様の最期だった。
リリィお嬢様が死ぬと、僕は、解放される。僕は、リリィだけの妖精だ。リリィのために生きて、リリィの願いだけを叶え、幸せに導く。
こんな最期になるなんて、僕はなんて役立たずな妖精なんだ。
村人たちが、僕の妖精の力に吹き飛んだ。見えない力に、村人たちは恐れた。
血だらけで、僕はやはり人間だから、もう死ぬだろう。力をふり絞って、僕は、あの子どもを探した。
いた! 子どもは、僕の姿に恐れて、足がすくんで、動けなくなっている。その子どもの頭を鷲掴みする。
「オ前ニ決メタ」
まだ、可愛い娘のエリィが無事だ。全ての力を、エリィのために使い切る。
「オ前ハ、一生、エリィノ下僕ダ! エリィヲ守レ!!」
妖精の呪いが降りかかる。この子どもは、一生、エリィから離れられない。何があっても、エリィを守り、望みをかなえなければいけない。それは、一生だ。




