山の子ども
山のほうでは、不作が続いていた。気の毒だが、こういうのは、自然の話である。妖精憑きがいるいないは、本当に関係がない。
リリィお嬢様の目にうつらせないようにしているが、外に出歩くようになってしまったので、防ぎようがない出来事がおこった。
妖精憑きのエリィは、留守番でも安全だったため、僕とリリィお嬢様は山を歩いて、食料を探した。小屋の傍に畑を作っていて、それで十分なのだが、リリィお嬢様が山歩きをしたがった。お陰で、貴重な香辛料などが手に入った。
「ねえ、ダン、今日はお肉に味がつくの!?」
「もちろんですよ。運が良かったですね」
「でも、子どもには、濃い味はダメなんですって。家の本に書いてあったの」
「そうですか。では、エリィは薄味にしましょう」
「うん!」
喜び歩く彼女の行く先に、子どもがうずくまって、草を食べようとしていた。
「ダメよ、それは!!」
リリィお嬢様は慌てて子どもから草を取り上げた。
「これは、お腹がうーんと痛くなる草なの! 食べちゃダメよ」
「そんなぁ。じゃあ、何食べればいいんだよぉ」
お腹が空いた子どもがボロボロと涙をこぼして泣き出した。
「お腹空いたの? ダン、ダン、この子、可哀想よ!」
「はいはい。ほら、これを食べて」
リリィお嬢様のいうことは絶対である。僕には逆らえないので、持ってきたお弁当を渡す。
随分と、食べていないのだろう。それどころか、飲み水すらない様子に、僕はいやな予感がした。これは、悪いことが起こる。
「ダン、ダン、ほら、この子の村、食べ物がないんだって。持ってるもの、全部、あげよう!」
「はいはい」
全ては、リリィお嬢様のお望み通り。せっかく収穫した山の恵みを籠ごと、男の子に渡した。
「親はどうした、親は」
山の中は、まあまあ物騒である。僕が熊やらイノシシやらを定期的に駆除しているといっても、安全ではない。
「みんなで、食い物探して、山に入った。俺も手伝えって」
「ダン、可哀想」
「そうですね」
すぐにほだされる。どうにか、この子どもと引きはがしたい。このままでいくと、手伝うとまで言い出しそうだ。
「坊主、この籠持って帰れ。いいか、僕たちのことはいうなよ」
「わかった」
「言っても、見つからないだろうがな」
山小屋には妖精の加護をつけたので、許された者しか入れない。
そうして、山の恵みで子どもを村に帰らせた。
その日から、リリィお嬢様は考えこむようになった。じっと、エリィを見ては考える。
「リリィお嬢様、ほら、食べてください」
「お腹、気持ち悪いの」
「母ちゃん、お腹に赤ちゃんがいるって」
妖精憑きのエリィは、リリィお嬢様が妊娠していることを妖精から聞いた。
とても良いことが起こった。二人目に、僕は喜ぶ。
ところが、リリィお嬢様はそうではない。何故か、ずっと悩んでいる。
妊娠しているので、小屋にいてほしいと願っても、何故か、リリィお嬢様は山歩きをする。満足に食事も出来ないので、体力だってないだろう。心配でならない。
そして、いつぞやの子どもがいた所に行けば、やはり、あの子どもがいた。あげた籠はからっぽだ。親に言われたな。
「どうしたの? また、お腹が空いたの? 食べ物が足りないの?」
「リリィお嬢様、もういけません! もう、一人の体ではないのですよ!!」
「でも、この子にも親がいるわ。きっと、私みたいに、子どものことを心配している。なのに、ここにいるってことは、きっと、大変なことが起こっているのよ!!」
優しい優しいリリィお嬢様の言葉に、子どもは泣いて、つたない言葉で説明した。
例年にない不作に、弱い年よりや赤ん坊は死んでいるという。どうにかしようと、山の恵みを求めるが、うまく手に入らなくて、大変なことになっていた。
国に被害を報告しているが、山の者は先祖が犯罪者ばかりなので、なかなか手を差し伸べてくれない。
結果、大人も子どもも、動ける者はみんなして、山の恵みを探しているという。
「可哀想に。そうだわ。小屋にはいっぱい食べ物があるわ。持っていきましょうよ!」
「いけません!! それは、絶対にいけません!!」
「そんな、どうして?」
「いやな予感がするんです。このことは、関わってはいけない!!」
「エリィは大丈夫よ!」
大丈夫じゃないのは、リリィお嬢様だ。エリィは言った。リリィお嬢様には妖精が憑いていない。
あれほどの惨状を起こしているリリィお嬢様のまわりには、妖精が一体もいないということは、祝福がなくなってきているのだろう。僕の祝福だけで、今のリリィお嬢様は無事でいるだけだ。
「食べ物、あるの!?」
「お前たちは、お前たちでどうにかしろ! リリィお嬢様を巻き込むな!?」
「ダン、酷い事言わないで。大丈夫よ。きっと、大丈夫」
「………リリィお嬢様の、仰せの通りに」
リリィお嬢様の望みは、全て、僕が叶える。




