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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
最強の妖精憑き
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盗賊山賊にご注意

 馬は売ることとなった。馬で旅を進めたかったが、荷物もなく、馬を養うには、金がもったいない。それに、

「ダン、ダン、あっちに行きましょう! ほら、歩いて!!」

 リリィお嬢様は、何故か、歩く旅を希望した。疲れるだろうに、と心配したが、田舎育ちで、農作業もしているから、あんまり気にしてない。体力はあった。

 時々、不安になって、リリィお嬢様は消毒を宿屋でも外でも求めた。夜は怖い、と腕の中で抱いて眠ることもあった。

 これまで、たくさんの人に囲まれて、平民になると信じて生きてきたリリィお嬢様。未来とは違う道に、不安を感じてはいたのだろう。それでも、僕と一緒だから、と明るく考え直していた。

 一応、男爵家は戻ったことも伝えた。帰るのは、簡単だし、帰るものと思っていた。

「お父様、怖い」

 いつぞやの激怒した旦那様のことが、相当、怖かったようだ。伯爵家の令嬢を怒らせて、一度は男爵位を返上までさせてしまったことは、リリィお嬢様にとっては、相当、怒られる部類に感じたようだ。

「旦那様は大丈夫ですよ」

「お父様、怒ると怖いの。あのサウスだって、殴られたのよ! 怖いっ!!」

「女性に手をあげるような人ではありませんよ。失敗したって、叱ることもありませんよ」

「失敗じゃない! 男爵領のみんなにも迷惑をかけたの!! 失敗なんて、小さいことじゃない!!! きっと、みんな、怒ってる!!」

 悪戯程度は笑って許されるが、今回の事は、人生までかえてしまうことだった。

 実際、伯爵家が持っていた伯爵領は、ものすごい災害に見舞われ、もう、人が住めなくなっている。あの伯爵家だって、一族ごと、リリィお嬢様に呪われたので、一族郎党、どんなことになっているか、想像出来ない。

 リリィお嬢様は、今も、あの伯爵令嬢を許していない。口には出さないが、伯爵領の惨状が、それを物語っていた。心の広すぎるリリィお嬢様にも、我慢の限界があったのだ。それはそれで、すごいことをしたものだ、あの伯爵令嬢。

 怖い、怖い、と言って、男爵領とは逆の、山の聖域方面に向かっていく。そっちのほうがまずいのだが。

「リリィお嬢様、せっかくですから、中央都市はどうですか? そちらのほうがいいですよ」

「学校で習ったのだけど、あそこは、人が多いの。もう、人はうんざり」

 旅先で、いっぱい騙されてしまったので、リリィお嬢様は人と接するのが怖くなっていた。

 男爵領に戻れば、きっと、部屋に閉じこもって出てこないだろう。それはそれで、僕は嬉しいが、旦那様が心配される。

「山のほうは、昔は犯罪者の流刑地だって言ってたけど、それも大昔のことでしょ。小さい村がいっぱいなんだって。山奥に行けば、誰にも気づかれずに暮らしていけるわよ」

 教科書のみでの知識で、リリィお嬢様はいう。教科書を破られても全て暗記している彼女は、学校でも、相当、優秀だったのだろう。

 騙されやすく、人に優しい彼女に、人は優しくない。皮肉なことに、それが、リリィお嬢様を孤独にした。






 そうして二人旅をしていると、山のほうに近づけば、山賊なり盗賊なり出会ってしまう。

 だいたい、夜だ。

 リリィお嬢様に無体なことは出来ない。かなり強力に妖精が彼女を守っている。たぶん、山賊や盗賊の目には、僕しか見えない。リリィお嬢様は、妖精が隠していた。

 眠っているリリィお嬢様を起こさないように立つ。今日は薬を飲ませていないので、音をたてないようにしないと。

 闇に紛れて、僕は駆けだした。人数はいるが、狐やリスをナイフ一本で仕留める僕の敵ではない。野生の獣のほうが素早い。

 相手の足や腕を切り落とす。切れ味が悪くなっても、ナイフなんて一杯しこんでいる。ついでに、相手の武器を奪って、それも使って、掃除をすませた。

 うめく彼らにいう。

「さっさと帰れ」

「こんなことして、ただで済むと思っているのか!?」

「お前たちのほうがただで済んでないじゃないか。帰って、もう来るな」

 諦められない数人が、武器を持つ。

「ダン!!」

 時間をかけすぎた。気づいたリリィお嬢様が、木の棒なんて持って走ってくる。こんな真っ暗なのに、見えるのか!?

 盗賊たちはリリィお嬢様に気づいた。にやりと笑い、彼女に向かう。

 数人はナイフを投げて永遠に動けなくしたが、数が多い!

 リリィお嬢様の胸倉をつかむ男。その時、リリィお嬢様の恐怖が爆発する。

 僕はとっさに、その男の腕をナイフで切り落とそうとした。しかし、ナイフに人を斬る感触がない。その前に、リリィお嬢様の妖精憑きの力で、引き千切られたのだ。

 人の腕が千切れるのなど、リリィお嬢様は生まれて初めての光景だった。男爵領では隠され、領民全員が、リリィお嬢様には見せなかった。男爵領に戻れば、彼女はこんな怖い思いもしなかっただろう。

 声もなく座り込むリリィお嬢様。彼女の傍で、悲鳴をあげてのたうち回り盗賊たち。リリィお嬢様の傍に、千切れた盗賊の腕が落ちた。

「あ、あああ、ああああああーーーーーーーー!!!」

 リリィお嬢様が壊れた。まずいっ!

「リリィ、リリィ、大丈夫ですよ」

「ダン、ダーン、ダーーーーンーーーーー」

 僕が抱きしめると、泣いて落ち着く。妖精憑きの力の暴走はおさまった。

 しかし、盗賊たちは、無事ではなかった。たぶん、このら一帯の盗賊や山賊は、無事ではないだろう。

 リリィお嬢様に薬を飲ませ、眠らせてから、近くに転がる、まだ無事な盗賊たちを見る。

「悪いことをするには、代償を払わないといけないのですよ」

「助けてくれっ」

「こんなのはイヤだ!?」

 どんどんと異形となっていく彼ら。殺してやりたいが、リリィお嬢様が望まないことを僕は出来ない。

 仕方がないので、また、男爵邸の地下室に彼らを送った。もう、あの地下室は、いっぱいだろう。寿命でいくつか死んでいればいいが。

 その夜、いくつかの山賊や盗賊の拠点を見つけては、取返しのつかない事になっていたため、そちらは、殺してあげた。リリィお嬢様の目に入っていないものまで、責任をとる必要はない。

 そうして、それからは、山賊や盗賊に襲われない旅となった。

 リリィお嬢様は、その夜の出来事を覚えていたが、死体すらない光景に、夢だと思ったようで、「怖い夢を見たの、消毒して」とねだってきた。仕方のない人だ。

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