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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
最強の妖精憑き
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旅先の最初の被害者

 お茶会は凄惨な終わり方をした。女は怖い、と僕は男爵家の家訓を目の当たりにしてしまった。ブルブル震える僕に、いつものリリィお嬢様の姉たちに戻った彼女たちは、必要なお金を僕に渡して、リリィお嬢様のことを頼んだ。

「リリィが本気になったら、誰も見つけられないわ」

「ダンは、見つけられるでしょう」

「だって、ダンは、リリィの妖精だもの」

「はい」

 妖精の子孫である僕たちには、特殊な縛りがあった。一生に一人だけの主を持つ縛りだ。

 僕の父は、その縛りで、旦那様から一生離れられない。僕にとっては、リリィお嬢様だ。リリィお嬢様が奥様のお腹に宿った時から、それは決まっていた。

 僕だけの、たった一人の主。リリィお嬢様がどんなに妖精憑きの力を使っても妖精の祝福で結ばれた僕には、彼女の居場所など、手にとるようにわかる。

 そうして、馬を走らせて見つけた場所は、男爵領の近くの街だった。路地裏で、うずくまって、リリィお嬢様は泣いていた。馬も何もないのに、どうやって来たのか不思議だが、五体満足無事なので、安心した。

「リリィお嬢様、探しましたよ」

「ダン、ダン、酷い事があったの。男の子たちが、助けてっていうから、行ったら、大きな怖い男たちがお金出せっていうの。出せないっていったら、男の子たちが殴られたの!? 可哀想だから、お金全部渡したのに、少ないって、男の子たちがまた殴られたの!! 酷いのよ!!!」

「そうだったのですか。それは酷い男たちですね。それで、無事だったのですか」

「泣いて助けてって言ったら、みんな、いなくなったのぉ。怖かったよー」

 僕の胸に縋りついて泣くリリィお嬢様。もう大丈夫ですよ。不埒なやつらは、きっと、妖精がどうにかしたのでしょう。

 僕は、リリィお嬢様を安全な宿屋の一室に閉じ込める。外は危ないので、僕の妖精としての力で、外からは開けられないように、リリィお嬢様が出たことがわかるようにした。

「さあ、リリィお嬢様、ここで休んでください」

「でも、お金がっ」

「僕が持っています。大丈夫ですよ。僕は、買い物をしてきます。リリィお嬢様、欲しいものがありますか?」

「買い物、でも、怖い」

 一緒に行きたいけど、怖い目にあったばかりだから、リリィお嬢様は迷っていた。

 連れて行きたいが、万が一のことがある。それに、リリィお嬢様の前で暴力をふるった男たちがうろついているかもしれない。

「ここで待っていてください。ここは安全です」

「ダン、ねえ、消毒して。気持ち悪いの」

 不安になると、あの男どもに無体にされた時のように、消毒を求めてくる。僕は男なんですよ、とは言えない。

「リリィが望む通りに」

 買い物は、明日にすることになった。







 食事は宿屋の一階から持ってきてすませた。リリィお嬢様は落ち着いたようで、久しぶりのベッドでぐっすりと眠った。万が一、起きるといけないので、薬を使った。朝まで起きないだろう。

 僕は宿屋を出て、リリィお嬢様に酷いことをした男たちを探した。こういう探し物は、妖精が得意だ。リリィお嬢様に憑いた妖精が、僕を導いてくれる。見えたり聞こえたりするわけではないが、感じるのだ。

 そして、路地裏の奥の、廃墟に行けば、うめき声があちこちから湧いていた。

「リリィ、あなたは素晴らしい」

 妖精憑きの力によって、あの無体なことをした怖い男たちは、手やら足やらが千切れ、人以外に変異していた。それらは、苦痛に呻き、転がっている。

 リリィお嬢様の金を奪うとは、ただで済むはずがない。暴力を見せただけでも、許さない。怖がらせて、こんな姿になったのは当然だ。

「た、助けてっ!」

 その中で、二人の男の子だけ、五体満足だった。この二人が、リリィお嬢様がいう、殴られていた子どもだろう。

「お前たちは、リリィお嬢様を騙したな」

「ごめんなさい!」

「許してください!!」

 土下座して謝る二人。顔が似通っているので、兄弟だろう。

 しかし、この兄弟はリリィお嬢様に許されている。僕の手を下すわけにはいかない。

 今日の新聞で、男爵家が元に戻ったことが書かれていた。そのお陰で、男爵家の邸宅は、元の通りだろう。僕は、持ってきた魔道具で、この異形どもを男爵邸の地下に送った。父が気づいて、どうにかしてくれるだろう。

 残ったのは、無事だった兄弟二人である。人外の力を見せつけられ、恐怖する。その二人の前に、リリィお嬢様から奪われたであろう金が入った袋を投げ落とした。

「これから、手紙を書きます。その金を持って、男爵領に行きなさい。行き方はわかりますか?」

「ここから、出たことがない」

「仕方がありませんね。男爵領の端にでも飛ばしてあげます。あとは、自力で行ってください。僕はダンです。僕の名前とこの手紙を男爵領で会った人に見せれば、旦那様のところに連れていってくれます」

「助けてくれるの?」

「リリィお嬢様が許したんです。助けるしかないでしょう」

 仕方なく、彼らは魔道具で、男爵領の近くに飛ばした。

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