第一王子アインズ
第一王子アインズ様は、側室腹の生まれである。正室腹であれば、王太子となるはずだったが、側室腹であったため、後ろ盾もないことから、王太子とはならなかった。
とりあえず、王太子は保留である。
リスキス公爵家は、王族の次に力のある貴族である。その貴族の養子が第一王子と一緒に教育を受ける、ということに、正妃のほうが怒り狂った。リスキス公爵家が第一王子の後ろ盾になったようなものである。
が、リスキス公爵はいう。
「嫡男ではなく、養子ですよ。元は貧乏男爵の五男なので、とても正妃様のお友達には出来ません。もちろん、私は中立です。どちらの味方でもありませんよ」
何人もの王族が降嫁しているような家である。だからといって、負けてはいない正妃様。次は公爵夫人にアタックする。
「公爵は、養子のことを男爵家とバカにして、酷いではありませんか。公爵夫人も、元は男爵令嬢ですのに」
「あら、私の母は、国王様の乳母ですが、何か?」
藪蛇だった。現国王とは、乳姉弟の関係である。
貴族って、こわっ。
そんなキャッキャウフフしているお茶会を後目に、僕はアインズ様と厳しい教育を受けていた。
教師陣は容赦がない。
「殿下、ロベルトに負けてはいけません」
「すみません、勝ってしまって。では、おやつはいただきます」
兄弟姉妹間では、勝負事はかなり厳しい。おやつの取り合いなんて普通だから、手加減が出来なかった。王室のおやつ、美味しい。
こういうの、手加減するべきだろう、と最初はしたのだけど、リスキス公爵にむちゃくちゃ叱られた。王族も、負けることが必要だ、と言われ、仕方なく、本気を出した。
勉強でも、剣術でも。
もともと、田舎育ちの僕は、身体能力が優れていた。勉強は、領地経営にまで口を出すほどで、元侯爵令嬢である母に鍛えられていた。
結果、アインズ様は連戦連敗となった。
「ご馳走様でした、アインズ様」
「全部食べた!?」
「いいですか、アインズ様、勝負の世界は厳しいものなのです」
「普通、残したりするものではないか!!」
「僕の兄と姉は、まだ学で勝てなかった僕のおやつを横から奪っていきました。貧乏男爵家で甘味の譲り合いなんて、ありません」
「なんて恐ろしい家なんだ」
全くだ。
年長者が譲るなんて心がけはない。貧乏なので、甘味があったら取り合いである。
アインズ王子の解答を見てみる。
「僕に勝てないのは仕方がありません。年上の兄姉も、今では僕に勝てませんから。昔の恨みに、甘味は独占していました」
「優しそうな顔して、えげつないな、お前」
「アインズ様、世の中は弱肉強食です。いつ弱者になるかわかりません。強者であり続けるためにも、頑張りましょう。あ、ここ、前も間違えましたね」
「くっそぉー!」
不敬罪、何それ、みたいに不敬罪のことをしまくっている僕に、教師陣は呆れていたが、口出ししない。それもこれも、リスキス公爵から言われてやっているだけである。
美味しいおやつをたくさん食べたいからではない。
そうしていると、第二王子のサキト様がこっそりとドアを開けて中を覗いてくる。
「サキト、入っておいで」
母親たちはともかく、兄弟間の仲はよい。サキト様はまわりの目を気にしながら、勉強部屋に入ってきた。
「お邪魔して、すみません」
「では、お茶とお菓子を用意しましょう」
「まだ食べるのか」
僕は侍女に人数分のお茶とお菓子をお願いする。僕の分もある。
「毒見ですよ、毒見」
「毒殺する必要なんて、かけらほどもないだろう」
正妃と側室間の仲は悪いわけではない。側室側としては、運悪く早く生まれてしまっただけで、次の王は第二王子を押している。
国王には、四人の男子がいる。一人目は側室腹であったが、残る三人は正室腹である。第二王子に万が一のことがあっても、次がある。
「いいですねぇ、力のある人たちは。毎日、こんな甘いものが食べられるなんて、羨ましいです」
相伴に預り、満足である。
僕の反応に、アインズ様とサキト様は顔を見合わせて笑った。
リスキス公爵の意図は、正直、よくわからない。王子様方と仲良くさせてはいるが、権力争いの参加はしないように言われていた。
公爵夫妻の目的は、もっと別のところにあった。
ある日、教師陣から、聖域への慰問の課題を出された。
「王都近辺では、何かと王妃様が気にされるでしょう。せっかくですから、最果ての聖域に行ってみてはどうでしょうか」
リスキス公爵からの提案だった。
「聖域のことは、王家にとっても大事なことですし、そうですね。まずは、遠いところからにしましょう」
アインズ王子は、その提案を受け入れた。