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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
妖精の祝福を受けた王子
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運命の人

 海の聖域付近には、連絡はしなかった。抜き打ちで行ったのは、帝国側に情報が漏れるのを避けるためである。

 隠密行動に長けた叔父上の部下たちは、色々と優秀だ。馬で近くまで移動し、その後は夜闇に紛れて海の聖域付近に移動する。それに着いていく俺と側近のスレイ。叔父上には鍛えられたなー。

 まだ、帝国の船はあった。あの船が出航して、もう一度戻ってくるまで、海の近辺にいないといけない。どこら辺はがいいのかな、とそれぞれ見回っていると、子どもが暴行されている現場を見てしまう。

 ありし日の妖精が人買い男に暴力を受けていた光景が頭に浮かんだ。

 気づいたら、スレイが止めるのも聞かず、走っていた。

 十歳にも満たない、ガリガリに痩せた少女が、男数人に殴る蹴るをされている。


『お腹の子、あなたの』


 見つけた!?


 ガリガリに痩せて、髪と瞳は真っ赤と、あの妖精の面影などない。だけど、わかる。この少女は、俺のものだ。

 そして、少女を保護した。








 少女が寝ている間に、見張りをおいて、俺は捕まえた男たちを縄で拘束したまま、座らせた。

「俺は、第四王女様だ。さて、王族の暴行未遂罪になるんだが、それって、どうなるの?」

「処刑でしょう、当然」

 スレイは焚火の火をいじりながら答えた。

 焚火の火がバチンっと派手にはじけた。赤い炎が男たちを照らす。誰もが死んだような顔をしている。

「俺たちは、悪くない」

「そうだ、あのガキが悪い」

「何が?」

「………」

「何が悪いのか、答えてくれないと、わからないなー」

 アナ嬢の夫となったハインズが笑顔で拘束された男たちを見下ろす。目が笑っていない。

 アナ嬢の兄カイトは、蔑むように男たちを見下ろす。

「あの子どもは、何だ。答えろ」

「………」

「足からいこう」

 俺は、燃えている木を一本焚火から抜いた。

 叔父上の部下たちは、力をあわせて男たちの足を無理矢理、俺のほうに出させた。しばらく、肉料理が食べられなくなるな。

 まずは、靴を脱がせて、足の裏に火を押し当てた。

 悲鳴はない。ハインズとカイトが二人の男の口をおさえこんでいる。他の拘束された男は、震えて見ている。

「さて、無事なやつ、どうだ。話すか? 次は、どこがいいかなー」

 拷問されるのは、ハインズとカイトにおさえられている男二人である。拷問されるのを恐れて、頑張って、話そうとしているけど、ううーううーしか言えない。たぶん、舌もおさえられている。よく、噛まれずに出来るね、二人とも。

「か、買ったんだ! 金貨十枚で、あのガキを買ったんだ!!」

 仲間が可哀想だからか、それとも、次は自分だと思ったのか、白状した。







 話はこうだった。海のエリカ様の次代が決まらず、困っていたところに、ダメな男から赤ん坊を金貨十枚で買って、それを次代として育てた。

 最初は、豊漁だったという。ところが、次の年は酷かった。そして、あのダメな男がまた金をせびりに、ということを五年続いたので、ダメな男を殺した。

 ところが、その現場をたまたま来ていた海のエリカ様に見られてしまった。慌てて、海のエリカ様も同じく殺した。

 まだ、海のエリカ様のための儀式が終わっていない子どもを海に投げ捨てると、なんと、儀式を終わらせてしまい、正式な海のエリカ様となった。

 しかし、彼女になってから、海の聖域がどんどんと赤くなってきた。どんどんと赤く、不気味になっていくことから、海の街の住人全員で、子どものせいだと、虐待の限りを尽くしたという。






「どうしますか、ザクト様」

 スレイは拷問でボロボロにされた男たちを冷たく見下ろして聞いてくる。

「街のこと? このどうしようもない男のこと?」

「ここで、あの少女のこと、と言わないのですね」

「あの子は保護する一択だ。誰にも渡さない。もう決まっている」

「………なるほど」

 俺の様子がいつもと違うのにスレイも気づいていた。

 赤い焚火を見ていると、あの少女のことばかり考える。

「あの子は、俺のものだ。金貨十枚で買ったというのなら、それ以上の金を出す。あの子のこれまでの奇跡分払えというなら、何年も何十年もかけて払ってやる」

「この街に、あの子の奇跡の代償は払えるのですかね」

 妖精の子どもを金貨十枚で買った街。その奇跡は、どこまでだったのか、今の俺にはわからない。

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