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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
妖精の祝福を受けた王子
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海に呼ばれて

 結局、数年間、あの妖精の情報はなかった。あったのはあった。しかし、見知らぬダメ男に連れていかれ、それっきりだたそうだ。その情報を得た時、その見知らぬダメ男を探したのだが、何故か、いなくなっていた。

 妖精が恋した子爵の次男を探したが、なんと、伯爵家ごと落ちぶれて、どこにいったのかわからなくなっていた。妖精の祝福がなくなるって、すごいな。

 俺も、結局、妖精が去っていったのだから、また、体が弱くなってもおかしくないのだが、そういうことはなかった。それどころか、あの妖精にあってから、病気一つしなかった。どうしてなのかわからず、北の砦まで行って、アランに聞いてみた。

「子爵の次男が妖精をたった金貨十枚で売ってしまうからですよ。金貨十枚以上のものを与えたのに、たったそれだけで売ってしまったから、負債が残ったんです。妖精から受けた恩恵はもっと莫大です。妖精が望んだのは、ただ、子爵の次男の傍にいること。それは、金貨十枚なんて安いものじゃない。金貨万枚以上ですよ」

「そういうものなんだ」

「王弟殿下に聞いてみなさい。かの聖女の価値を金額にしたら、なんて聞いたら、金にしようとした奴ら全部殺されますよ」

「ああ、うん、わかった」

 叔父上の例えはわかりやすい。

「あなたの健康は、金貨十枚程度のものだったんですよ」

「やっすぅ!」

「妖精の価値観が違います。人間にとってたかが水一杯が、妖精にとっては金貨百枚になることがあります。種族が違うのですから、価値観が違って当たり前です。あなたの一生分の健康なんて、長く生きる妖精にとっては、些細なことなのですよ。だから、あなたは大丈夫です」

「ありがとうございます」

 魔法使いアランは、俺の心配をすっきりさせてくれた。

「そういえば、帝国のほうが騒がしいですね。何かあったのですか?」

「わかるの?」

「帝国のほうから、妖精憑きが来ています。数年前にも来ていましたよ。こちらに来る様子がありませんでしたから、無視していましたが、今回は、大がかりですね」

 アランは妖精憑きなので、同じ妖精憑きの動きがこんなに離れた北の砦からでもわかるらしい。

「私はね、妖精の動きとかが見えますからね。そこら辺の妖精憑きとは違います。私の後の筆頭魔法使いは、残念ながら、耳だけでしたから、私の居場所まではわからないでしょうね」

「実はアラン、すごいの?」

「実はすごいんですよ。残念ながら、王弟殿下には負けますが。彼が視認出来る妖精憑きでしたら、世界最強でしたね。あなたは、王弟殿下を見て学びなさい。あの方は、妖精を視認できなくても、王族として、しっかりと制御出来ています」

「う、うーん」

 学んでいるが、自信がない。規格が違いすぎた。






 王都に戻れば、王宮は大騒ぎとなっていた。帝国からの使者が来て、帝国の皇女が最果ての聖域にいる、というのだ。その証拠として、一枚の肖像画が持ち込まれた。

 よく、最果ての聖域に行く、第一王子がその肖像画を見たところ、最果てのエリカ様と瓜二つだったという。そこから、皇女返還を帝国の使者が要求した。

 誰も、帝国には逆らえないので、言われるままかに見えた。

「な、なんだこれはっ!」

 突然、帝国の使者の一人が両耳をおさえてうずくまる。

「これはこれは、帝国の魔法使い殿。お、アランの次の筆頭魔法使いと呼べばいいか」

 叔父上が悠然と帝国の使者の前に出た。

「貴様、妖精憑きの王弟か!?」

「お前は耳だけの妖精憑きか。情けないな、アランなんか、俺が隣りにいても平然としてるぞ。お、妖精盗っちゃったか。仕方がないな、可哀想だから返してやるから、無理難題はいうな」

「き、きさまぁ!」

「妖精憑きの力比べで、俺はアランに勝ってる。さて、お前は勝てるかな?」

 耳を抑えて、ただ睨み上げるしかない帝国の使者。見えない戦いは、叔父上の圧勝のようだ。

「兄上、アインズに先導させなさい。アインズ、せっかくだから、魔法で帝国の皆さまを連れて行け」

「は、はい!」

「帝国の皆さん、無理に連れて行かないようにお願いします。最果てのエリカ様は、普通の女の子ですから、優しく、接してください。俺の妖精は見ている」

 叔父上の最後の言葉は脅しだ。帝国の使者たちは、妖精憑きの力を理解しているようで、すっかり大人しくなり、第一王子についていった。

「すまない、キリト」

「王国は帝国には弱いからな、仕方がない。良いことに、妖精憑きに対しては、帝国は弱いからな。上手に使ってくれ」

「ああ」

 叔父上は、帝国が魔法で移動したのを確認してから、王宮からいなくなった。きっと、王都のエリカ様の様子を見に行ったのだろう。






 その夜、夢を見た。ものすごく波の音が煩い。その煩い波の合間に、子どもが泣いていた。波が煩くて、子どもの声が聞き取りにくい。一生懸命、聞いているが、男の子なのか、女の子なのか、わからない。

 そして、真っ暗な海が、どす黒く輝いた。






 朝、起きたら、寝汗がすごかった。ずっと、波の音だけを聞いていた。何かの予兆なのは確かだ。しかし、それを調べるために、北の砦に行っている暇はない。すぐに行かないといけない。

 着替えもそこそこに、俺は父上の執務室に直接行った。

 親に会うのも、それなりに予約をとらないといけないのが王族である。父上は忙しいので、時間単位で予定が組まれている。こういうことはしていけない、と厳しくしつけられていたが、それどころではない。胸騒ぎが広がっていく。

「父上、良いでしょうか」

「入れ」

 中に入れば、父上と叔父上がいた。

「叔父上がいたのですか」

「何かあったのか」

「海に行かなければなりません」

 父上と叔父上が顔を見合わせる。

「丁度、誰が海に行くか話し合っていた」

「帝国の船があるから、それを見張りをしなくちゃいけなくてな。たぶん、一度は帝国は戻るだろう。そして、次は、皇女を迎えに帝国の船が来る。その時に、王族が出迎えないといけなくなる」

「ぜひ、やらせてください」

「しかし………」

 年齢とかのことを見れば、父上が迷うことはわかる。それに、これは、第二王子が行くべき案件である。第二王子を王太子に推したい母上は、この役目で、第二王子の力を見せつけたかった。

「兄上、言ってはなんだが、サキトを王太子いするのはやめたほうがいい。サキトは、王に向いていない」

「私だって向いていない」

「国王ってのは、一番賢くて一番強いやつがやればいいわけじゃない。国のために、どれだけ犠牲になれるかだ。俺は、無理だ。犠牲になりすぎる。ほどほど、犠牲になれる程度がいいんだ。サキトは、犠牲で死ぬ。兄上、ほどほどでいいんだ」

「………ザクトは、ほどほどなのか?」

「え、ザクトは無理だろう。頭もほどほど、剣の腕前もほどほど。出来るのは、俺の手伝いだ。せっかく育てたんだから、取り上げないでくれ」

「わかった。じゃあ、ザクトに行ってもらおう」

 叔父上のお陰で、俺は海に行けることとなった。





 行くことになったが、俺一人で行くわけにもいかない。俺は、叔父上の部下を連れて行くこととなった。

「万が一の俺の跡継ぎはお前だからな。ちゃんとやれよ」

「え、無理」

「ほどほどでいいの。俺みたいなことやんなくて」

「無理」

 本気で無理だと思う。叔父上、ほどほどでも、叔父上の半分以下だよ。

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