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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
男爵家の苦労人
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リスキス公爵

 リスキス公爵家と貧乏男爵家は遠縁の関係である。どれくらい遠縁かというと、リスキス公爵家の祖父の代の妹が貧乏男爵家に嫁入りしたくらいの昔である。僕にとっても曾祖母にあたる。

 曾祖母は、もともとはどこかの貴族の嫡男の婚約者だったが、昔からはやりすたりのない真実の愛とやらに男のほうが目覚めてたらしく、人前で婚約破棄された。

 そこを救ったのが、曾祖父だとか。曾祖父に一目ぼれした曾祖母は貧乏男爵家だというにも関わらず、猛烈に求愛し、結婚。貧乏男爵家を支えるため、その当時の王太子の乳母にまでなったそうだ。

 ちなみに、曾祖母と婚約破棄した件の嫡男は、廃嫡されたとか。逆恨みしていたとかで、貧乏男爵領にまでやってきたらしいが、そこから消息不明である。こわっ。


 わざわざ養子をとらなければならないのは、リスキス公爵夫妻には、未だに子どもがいないからだ。仲睦まじい夫婦として、社交界では噂されるが、子宝には恵まれなかった。

 諦めたわけではないが、側室みたいなものを迎えるのを公爵が嫌った。親戚からもいろいろと言われて、何かふっきれたのだろう。煩いので、とりあえず、養子をとろう、という話となった。


 リスキス公爵としては、もっと近い縁の者を養子にしたほうが、有意義だろうに、と僕は思った。


 そこら辺の話し合いをするために、僕と嫡男である兄のロイド、そして当主である父と一緒に王都にあるリスキス公爵の邸宅に行くこととなってしまった。

 男爵領を離れることが生まれて初めての僕は戦々恐々である。外は魑魅魍魎の巣窟、と教えられている。

 王都にある学園に通っている兄は、それなりに現実を知っているが、緊張はしていない。他人事である。

 そして、父は能天気に、今日の天気もいいね、なんて馬車の外を見て話している。天気なんて、どうだっていいよ。

 一人ガチガチの僕は、失礼がないか、と邸宅に入っても、緊張が解けなかった。

 父は馴れているようだし、使用人たちも、僕のことをほほえましい、と見てくれる。室内は緊張するだろう、と庭に用意されたテーブルと椅子に案内された。

 先にいたリスキス公爵夫妻と簡単な挨拶をして、僕たちは席についた。

「いやいや、本当にすまない。君の大事な息子を養子にお願いするのは、申し訳ないと思っているよ」

「いえいえ、僕には五人の息子に五人の娘がいますから、大丈夫ですよ」

「しかし、これほど優秀な息子を手放させるのは、心苦しい」

「いえいえ、息子はあと四人いますから」

 話が平行線である。

 公爵家としては、優秀な息子を養子に貰うのは心苦しい、と言っている。

 男爵家としては、子どもが五人から四人に減っても大丈夫、と言っている。

 価値観が違う。不利なのは、男爵家なのに、父は全くそうは思っていない。

 跡取りである兄はというと、ニコニコと笑って、父のいうことを頷いている。悪いが、兄はどれもこれも、騙されまくりである。

「公爵様、発言してもいいでしょうか」

「好きなだけ言いなさい」

 笑顔で許可をくれる公爵。

「僕よりも、血統的にも近い方は他にいると思います。そちらの方ではいけないのですか?」

「ああ、ダメダメ、腐ったリンゴからは、病気が広がるだけだ」

「そうですか」

 すでに、調べた上での打診だった。

「私も妻も、ロベルトくんのことを気に入っているんだよ。君は、物の見方がしっかりしているし、立場もわかっている」

「ありがとうございます」

「実家のことが心配だろうから、我が家が後ろ盾になろう。また、君が男爵家を手助けしてもかまわない」

 男爵家のことをよくわかっている好条件を提示してくれた。





 一度持ち帰ってから検討します、と男爵領に戻ったが、僕のリスキス公爵家への養子行は決定事項となった。





 リスキス公爵家へ行く準備をしていたある夜、母に呼ばれた。

 母の実家から送られた紅茶をふるまわれた。母とこうしてゆっくりとするのは、記憶の中では初めてかもしれない。物心ついた頃には、僕は苦労人であった。

「ロベルト、これから話すことは、大切な心得だと聞いてください。領民たちも知っての通り、男爵家は、妖精憑きがとても生まれやすい血筋です。そのためか、領地外にあまり血筋を出されません。だから、あなたがリスキス公爵家に養子に行った場合、リスキス公爵夫妻には子が出来る可能性が高いです」

 母は、僕がリスキス公爵夫妻の子どもにいらぬ嫉妬を抱くことを恐れていた。

 大貴族といっていいリスキス公爵家の養子となれば、大出世である。野心ある貴族は、大喜びであろう。

「まあ、その時は家に帰るだけなので、また、受け入れてください」

 僕は軽く考えていた。正式な跡継ぎが出来れば、僕は用無しとなる。だったら、実家に帰ればいい、と思っていた。

「そこら辺の貴族であれば、それで良いでしょう。ですが、リスキス公爵家は王家に連なる血筋です。何代かに一度は、王家から降嫁される貴族家として、今も公爵家として存在しています。そこに養子に行ったあなたは、二度と、戻ってこれません」

「そうなのですか。貴族って、怖いですね」

 平民になる心得を教え込まれた僕は、知らない何かに身が震える。こわっ。

 元侯爵令嬢である母は、貴族の裏事情をよく知っていた。だから、わざわざ僕にそれを伝えた。

「いいですか、公爵家のことは、我が家では語ってはいけませんよ」

「わかりました」

「あと、あなたは子どもを作ってはいけません。万が一、子どもを作ってしまった場合は、男爵家で引き取ります。いいですね」

「はいっ」

 心の底では、子どもはないな、と僕は軽く思っていた。




 リスキス公爵家に養子入りしてすぐ、教育を第一王子のアインズ様と受けることとなった。

 あれ? 何かおかしい。

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