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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
妖精の祝福を受けた王子
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侯爵令嬢アナ

 様々なところに人相書きを回している間は、待つだけとなった。俺は、世の中の辛酸を学んだほうがいい、という側近スレイの方針により、王宮には週に一度戻るくらいで、残りは何故か、例の侯爵家にお世話になることとなった。

 こういうのって、たぶん、政略的なのがあるのかな、と俺は叔父上を疑った。

 遥かに年上の侯爵令嬢アナは、将来は女侯爵になることが約束されている。領地運営や屋敷の管理は、アナと兄のカイトの二人で行っているという。カイトは、アナの補佐となる話になっていた。

 ということは、婿が必要となる。貴族になることが決定している俺は、婿候補なのかもしれない。

 そんな甘いことを考えていた俺。本当に世の中をわかっていなかった。






 下町に行っては、辛酸をなめ、側近のスレイにはボコボコにされ、という経験の間に、アナとお茶することがあった。

「アナ嬢は、昔はどういった生活をしていたのですか?」

 軽い興味本位だった。聞いて、後から謝った。

「そうですね。私はこの通り、片足が不自由ですから、貧民時代は、乞食をやっていました。兄も働いていたのですが、騙されて給金を払われないこともあり、小さなパンを分け合う、というよりも、兄が私に全て食べさせる、という毎日でした」

「あ、ごめんなさい」

 想像以上に壮絶な幼少期だった。俺の苦労なんて、しょぼい。

 俺が申し訳ない、と俯いていた。そんな俺にアナは優しく微笑んだ。

「いいんですよ、昔のことですから。貧民の時は辛くて、兄も無茶をしました。貴族の馬車に飛び出した時は、泣きました。無事でしたが、貴族が酷くて、兄を殴る蹴るして、泣いて助けを呼びましたが、誰も助けてくれませんでした。そこに、たまたま通りかかったシスター・クレア様が助けてくれました。シスター・クレア様が事情を聞き、すぐにエリカ様に伝えてくれました。エリカ様は、平等に話を聞き、貴族を牢屋にいれて、私たち兄妹を救ってくださいました。エリカ様は、女神様です」

 かなり壮絶な経験だからだろう。中央都市のエリカ様のことを崇拝していた。でも、これは仕方がない。

「だから、私の夫は、エリカ様をきちんと一番に扱ってくださる方を王弟殿下に探してもらっているんです」

「へえ」

 それは、俺ではないな。良かった。俺の見当違いだった。恥ずかしい。

 叔父上は、侯爵家の兄妹のことを気に入っているようだった。兄は部下だからわかる。妹は、あの人相書きの出来事がきっかけだろう。その後も、ちょくちょく、芸術の神の支援に侯爵邸に来ている。

 俺がお茶を飲んでいる間は、スレイはアナが集めた本を黙々と読んでいる。一度、手を出そうとしたのだが、スレイに無言で止められた。俺が読んではいけない本らしい。

「ザクト様にも、はやく、運命の人が見つかると良いですね」

「運命、なのかな?」

 実感がない。なにせ、探しているのは一度だけ会った妖精である。とても綺麗だ、とは思うが、思ったほど、情熱がない。心配はしている。でも、それだけだ。

 時間が経つについれて、あの妖精のことへの情が薄れているのを実感した。

 それでも、探そうとは思う。あの時、妖精のお腹には子どもがいた。その子どものことは気になった。

 もしかしたら、アナの子どもの頃のように、酷い目にあっているのかもしれない。

 そう考えると、何故か、いてもたってもいられない。でも、見つける手段がない。子どもの姿はお腹の中だから、わからない。

「アナ様、王弟殿下が来ました」

「こちらにお呼びしてちょうだい」

 若い執事はすぐに、叔父上と、一人の若い男を連れてきた。

「アナ嬢、約束もしてないのに、すまない。俺、むちゃくちゃ忙しくて」

「良いのですよ。私には、時間がありますから。領地経営は、お兄様にお任せしています」

「あいつ、出来るよね。王城の書類仕事、全然出来てない部下がいるんだけど、清書は全部、カイトがやってるよ。王城のほうでは、泣いて喜んでる」

「良かったです。兄は見ていられないらしくて、勝手にやってしまうんですよ。下働きの時も、力仕事だけやっていればいいのに、詐欺のような会計処理をされていたものだから、親方にお知らせしたんです。そうしたら、いっぱい不正処理が見つかって、会計していた人は牢屋に入りました」

「そんなカイトくんの見た目が大好きで、君の趣味にも理解の深い俺の部下を連れてきました。こちら、バラ派を地でいくハインズくん。ハインズ、こちら、カイトの妹のアナだ」

「初めまして、カイトの同僚のハインズといいます」

 ちょっと優しい感じの男である。俺、ここに居てはいけないと思う。

 アナは頬に手をあて、目をきらきらと輝かせた。

「まあまあ、王弟殿下、ハインズ様は、どちらなのですか?」

「男性には受けで、女性には攻めだな」

「あら、両方いけますの」

「カイトくんの見た目は好みなんだよな」

「そうですね。アナ嬢は、カイトに似ていますね」

「ありがとうございます」

「大丈夫ですよ、エリカ様のことは尊敬します」

「そこは、とっても大事ですよ。エリカ様は私とお兄様の女神なんです。お兄様のように、邪まなものを持ってはいけません。尊いものとして、見てください」

「それじゃあ、後は二人でゆっくりと話し合ってもらおう。ザクト、スレイ、行くぞ」

 何が何やらわからないまま、俺とスレイは叔父上と一緒に部屋から出ていくこととなった。


 後で聞いたのだが、このハインズは、アナの結婚相手として叔父上が連れて来た男だった。以前から、アナは良い夫はいないか、と探していたところ、叔父上直属の部下に、どストライクなのがいたそうだ。

「叔父上、貴族の結婚って、ああいうのなんですか?」

 想像とは違うような気がする。いや、想像したこともないか。

「アナ嬢は婿をとる側だから、選ぶ立場なんだよ」

「叔父上は、王都のエリカ様のことは」

「愛してる、絶対に一緒になる、誰にも渡さん」

 叔父上の情熱は、愛一直線だ。しかし、アナは違う方向に向いている。愛がない。

「アナ嬢は、ハインズに愛情は持てるんですか?」

「王族貴族に、そういうのは望んじゃだめだぞ。結婚も子作りも、家のためだからな」

「叔父上、王都のエリカ様のことは」

「誰にも渡さん」

 言ってることとやってること違うじゃん。

ハインズの年齢制限つきの外伝があります。

予約更新を失敗してしまったので、一話だけ、随分前に更新されてしまいました。

毒花 というタイトルのはず。

名前でも検索出来ます。

今日から順次更新されますので、良かったら、見てみてください。

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