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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
妖精の祝福を受けた王子
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側近のお仕事

 側近というものは、基本、遊び相手とかライバルとか、そういうものである。スレイも、そういう扱いとなる予定であった。

 スレイと一緒に勉強をしているのだが、叔父上がいう通り、スレイはかなり優秀だった。私は、病気がちで遅れていることもあるので、スレイは私が追いつくのを待つのではなく、とりあえず、与えられた教科書を読んで、勝手に先に進めていた。

 休憩にお茶を一緒に飲んでいると、スレイのほうから話しかけてきた。

「殿下には、目標がありますか?」

「出来れば、男らしくなりたいと思っている。この恰好だが、それでも男らしい態度をとりたい」

「そうですか。では、まず、自分のことは”私”ではなく”俺”と言ってみてください」

「やってみます」

「間違えた時は、デコピンとしっぺ、どちらかです」

「デコピンとしっぺ? それって、何?」

「間違えればわかります」

 むちゃくちゃ痛い目に合わされた。


 側近のくせに、スレイは容赦がない。私、じゃなくて俺と言わないと、誰の目の前だろうと、しっぺやデコピンをした。それを見た母上が悲鳴をあげる。

「なんてことをするのですか!? ザクトの額が、こんなに赤く!!」

「母上、落ち着いてください。これは、わた、じゃくて、俺のためなんです」

 間違えそうになると、スレイの目が怖い。頑張れ俺。

「何があなたのためですか!? スレイ、側近の分際で、ザクトに暴力なんて」

「お言葉ですが、出来なければ、ムチで打たれるのは当たり前です。王妃様も、幼い頃、そういう教育をうけたでしょう」

「それは、教師です。あなたは側近でしょう」

「側近だからこそ、主の間違いを正さなければなりません」

「この程度の間違いは、命にかかわるものではありません! 誰か、王弟殿下を呼んできなさい!!」

 子どもでは話にならないので、叔父上が急遽、呼ばれた。

「王弟殿下、あなたの選んだ側近が、ザクトの額をこんなに赤くして!?」

「義姉上、俺は、今、とても忙しいんです」

「だから、なんですか!?」

「公国の奴ら、不届きにも俺のエリカ様の寝所に侵入して、あろうことか手を出そうとして、本当に許せない。指を一本一本折って、爪も剥いで、手の皮もゆっくり剥いで、それでも我慢ならない」

「………」

「義姉上、ザクトのことにいちいち干渉しないでください。過干渉は、子どもには毒です。それでは、失礼します」

 狂気に目が狂っている叔父上に、母上も俺もぞっとした。

 この事がきっかけで、母上はあまり、俺のことを干渉しないように気を付けるようになった。





 スレイは、少しずつだが、俺の話し方を下町のほうに向けるようにしていた。男らしく、というものを話し方から入らせようとしたのだろう。優秀な頭は、どういう考え方をするのか、よくわからない。

 そして、定期的に下町に行くようにもなった。母上は、叔父上の狂気を目の当たりにしてから、反対することがなかった。

 下町に行けば、やはり、たちの悪い男たちに囲まれたりするが、暗器を使うスレイの敵ではなかった。スレイは、頭から足のつま先まで、あらゆる暗器を仕込んでいた。ちょっと手を出そうものなら、その手がなくなる。

 自然と、俺を見かけると、脱兎のごとく逃げる男たちが増えた。スレイ、すごすぎだ。

 もちろん、スレイに守られてばかりではない。俺も、スレイに色々と仕込まれた。

「殿下、そのスカートの中にでもナイフとか仕込んでおきましょう。そのレースにワイヤーなんかどうですか?」

「ワイヤーは、俺が危ない」

「隣りにいる僕も危ないですね。さすが、殿下、慧眼です」

 いっぱい、武器を仕込ませようと、スレイはせっせと頭を働かせる。いや、武器、そんなに必要ないだろう。

 服装が女なので、日傘を持っていても違和感がない。その日傘にも仕込んで、いざという時の武器に改造した。

 そうして、そういう日常が普通になった頃、恐ろしい事実に気づいてしまった。

「スレイって、女なのか?」

「はい、そうですが」

 それが何か? とまるで悪びれる様子がない。見た目、というより、恰好が常に男だったから、気づかなかった。気づいたのは、成長していくと、それなりに体に丸みが出てくるからだ。

 かなり、恥ずかしい恰好をこの側近に見せている。素っ裸も見せた!

「お気になさらず。僕は、生まれつき、男性が嫌いなんです」

「じゃあ、俺も嫌い?」

「殿下は、ほら、女の恰好をしていますから。それに、僕のこと、女とは見ないでしょう」

「確かに」

 スレイのことは、永遠にそう感じない。だって、無理だろう、俺よりも強いやつ。

「僕は生まれつき、女性が好きなんです。だから、間違えないでくださいね」

「あ、うん、わかった。それで、今、好きな人はいるか?」

「王妃様のことをお慕いしています」

「それはダメ!?」

 確かに、誰の手にもおえない側近だ。

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