全ては自らの手で
手に入ってしまえば、こちらの物である。もう、手放すつもりもない。
ゴミクズどもは、もう、息も絶え絶えだ。何かあっても、力がないので、エリカの前に姿を見せることはない。
シスター・クレアは、声をかけたが、教会に残った。孫が幸せに長生きすれば、それだけでよい、と聖女のようなことを言っていた。
屋敷につれてきてすぐ、エリカの足の切断をした。泣いて、叫んで、暴れたが、道具も拘束具もそろっているし、馴れているので、動けなくするのは簡単だった。
斬った後のエリカの両足は、薬でつけて、こっそりと地下に残してある。エリカにばれたら、絶対に軽蔑される。でも、捨てられない。
王弟殿下のお陰で、治療も完璧で、感染症は起こらなかった。少し、熱が出たが、それ以降、病気らしい病気はしなかった。
「もう、本当に酷い人です」
いまだに、怖いのか、目に涙を浮かべている。
「さあさあ、この本をどうぞ。これは、帝国から入ってきた本ですよ」
「これ、最果てのエリカ様のことを書いた本ですよね。本当に、素晴らしい方でした。中央都市の図書館を見て、子どもみたいに喜んでいましたよ」
「そうなのですか」
悲恋として語られる最果てのエリカ様と男爵令息との物語は、涙誘う語り草である。
実際に会って話してみれば、ざっくばらんな女である。悪い人ではないし、その他大勢に対しては聖女のような人だが、殊、恋に関しては苛烈な面を見せていた。帝国の皇女だとわかった途端、隠れて逢瀬をしていた男爵令息と堂々と抱き合い、しっかりと他の女を牽制するところは、普通の女だった。
帝国では、最果てのエリカ様は亡くなり、男爵令息はその後を追って自殺したことになっている。
「どこか行きたい所でもありますか?」
時々、外を眺めてため息をつく姿が見られる。最初の頃は、熱やらなにやらで、その余裕がなかったのだろうが、やはり、外に出たいのだろう。
どうしても出したくないし、部屋からすら出したくない。他の男の目にさらすのだってイヤだ。でも、このまま閉じ込めておいて、嫌われるのもイヤだし。
仕方がないので、一年も経ったんだし、と俺から頑張ってみた。俺、偉い。
「海を見たいんです」
「海ですか。すぐそこですね」
「私、エリカ様でなかったら、商人になって、海を渡って、帝国に行きたい、と思っていました」
「そうだったのですか。じゃあ、その内、帝国に遊びに行きましょう」
「遊びですか?」
「………仕事かもしれませんね」
沈黙の魔法が、それ以上のことを語らせてくれない。




