引退したけど、腐れ縁は続くよ
エリカ様が解放されるかもと王弟殿下が言うので、一も二もなく護衛の使節団に名乗り上げた。俺、王弟殿下つきなんだけど、優しい王弟殿下がいざという時に渡して、と持たされた手紙を団長たちに渡したら、「人の恋路を邪魔しちゃダメだよ」とか書いてあったらしく、了承してもらえた。一生ついていきます!!
仕事まだまだあるけど、王弟殿下の予想って、外れたことはないので、前祝いで、いつもの飲み屋に俺と王弟殿下、すっかり腐れ縁となってしまったルノー、王都のエリカ様の父親ルガーノとで飲むこととなった。あれ、多い。
「義父上、もっとよい席を今度、用意しますから」
「いえいえいえいえ、王弟殿下にそんな。それで、なんで義父上なの?」
「王弟殿下、良かったですね。おめでとうございます!」
「カイトもおめでとう。君はよく頑張った。剣の腕を磨き、ゴミ掃除もして、俺のために代行人もやってくれて、感謝しかない。いっぱい飲んで飲んで、安いけど」
「飲ませていただきます!」
一人、ルガーノだけが、何か納得出来ない様子である。酒を飲ませたりないのだろう。
「カイトは騎士団やめちゃうのかー。もったいないなー」
「エリカ様は足が不自由ですから、俺が面倒みないと」
「え、人は雇わない?」
「俺がやりますから、大丈夫です」
色々とうるさいルノーに、笑顔で断言する。その役目を誰かに譲る気はない。
「いいなー、カイトは。俺がやったら、周りが煩いの。神官長の時は、そういうの、やっても言われなそうだったけど、王弟殿下はダメなんだって」
「どうせ、誰も見てないんだから、やればいいじゃないですか」
「そうだよね、そうそう。エリカ様、本当に可愛いの。家はやっぱり、大きいのにしないとなー。使用人もそれなりに集めないと。乳母呼ぶか、乳母。そうだ、ルノー、お前の奥さん来ない? 侍女とかどう」
「え、いいんすか」
「口がかたくて、出来る人探してんだよ。エリカ様には苦労かけたくないじゃん。話し相手は、やっぱりルノーの奥さんがいいと思うんだよ。エリカ様、ダメ人間製造機だから」
「ちょ、娘をそんなふうにいうのはやめてくださいよ!?」
「俺、いろいろとダメっぷり見せてるけど、全部、エリカ様、笑顔で許してくれるの。可愛いんだ」
ルガーノが泣いた。娘とられると、男親って、やっぱり泣くんだ。可愛がってたんだろうな。でも、王弟殿下に愛されるって、相当、幸せだぞ。
ルノーは、王弟殿下がいいたいことを理解する。
「俺の奥さん、本当にダメ男ばっかりと付き合ってたから。俺も相当ダメ男だから、話が通じますよ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ここに、カイトが混じらないのが残念だよ」
「俺はエリカ様独り占めしてます。けど、今まで通り、使ってください。どうせ、裏の仕事の縁はきれないでしょうから」
色々と後ろ暗い仕事は一通りやった。罪悪感、なにそれ、みたいに感覚もぶっ壊れた。
結局、王弟殿下の部下となってしばらくして、沈黙の魔法をかけられた。公国のことも知っている。王弟殿下は、いまだに、公国の暗部とやりあっている。
本来なら、一つのところに定住出来ない立場の人だ。それをしているのは、エリカ様への愛ゆえである。これからも、大変だろうから、御恩もあるし、無報酬で走っていく。
そうして、一年後に、俺は王弟殿下に叱られて、男爵領で腕を斬りに行かされた。




