ゴミ掃除
昔々、エリカ様の足を散々に叩いて斬った貴族の令息は、その件が元で廃嫡された。しかし、母親がでろんでろんに甘くて、今も、生活の面倒をみているという。
その男は、運が良いのかどうか、王弟殿下の仕返しリストに加わった。あれ、平民対象で、貴族に対しては、王弟殿下自身が行っている。悪事やってたら表沙汰、悪事やってなかったら捏造って、こわっ。
そんなわけで、今日は俺一人で、件の男をカードで負かし、借金地獄に叩き落とした。
「実家に行けば、金はあるんだよ」
ヘラヘラ笑ってるが、それ、もう、虫の息だから。
この男の実家は、王弟殿下が手を回し、横領罪が表沙汰にされ、夫婦そろって浮気しまくっていたので、悪評三昧で社交界では、楽しい話として語り草である。
何も知らない男の頬を俺は笑顔で積み重なった証文で叩く。
「あ、それ写しですから。さて、借金を返せない場合は、どうしましょうか」
エセスマイルで聞いてみた。利子も十一なので、ものすごい金額である。
地べたに座って震える男。この男の手が、ものすごく邪魔だ。お前に、その手を使う資格なんてないんだよ。
足だって、いらないだろう。エリカ様を泣かせたな? 今も恐怖で身をすくませてるんだぞ。
「は、働いて、返します!」
「そうですか。じゃあ、ちょうどいいのがありますよ。大丈夫、あなたでも出来ますから」
「ぜひ、やらせてください!!」
お前の価値なんて、紙切れ以下なんだよ。
その後、この男は両手両足をなくし、見世物小屋に行った。
気の毒になー、とエリカ様にちょっと似たとこがある女が震えているのを俺は見て思う。場所は、侯爵邸の一室である。アナには、席を外してもらった。
「こちらとしては、返してもらわないと」
「すみませんすみませんすみません」
地べたに座り込み、土下座である。困るとだいたい、土下座だな。見飽きた。
「こちらの手違いで、とんだ損を!」
手違いではない。そういうふうにしたのだ。
エリカ様の産みの親は、それなりの商家に嫁いだ。実家の力もあり、よい方向となったのだが、俺が頼んだものが、偽物にすり替えられたのだ。気の毒に、取引業者は、消えてしまってない。そりゃないよね、消えたんだから。
品質最悪なものを納品してしまった後、こちらとの契約書の通りに賠償しなければならないのだが、それがかなりの金額であった。
金は返せる。しかし、賠償金が高額だった。
「どうか、どうか許してください! もうすぐ嫁入りを控えた娘がいるんです!?」
「知ってる。エリカ様によく似ているだけに、不愉快だ」
俺は机にある紙を女の前にばさりと落とした。それは、身上調査書だ。
「お前たちはエリカ様とは似ても似つかないほど穢れた親子だな。あんなに清廉潔白なエリカ様と血の繋がりがあるとは、吐き気がする」
「こ、これはっ!」
「親も子も、男関係が酷いな。これ、お前の旦那と、娘の相手にも送っておいた」
エリカ様と同じ血が流れているとは、とうてい思えない所業だった。親も親なら娘も娘である。親子二代で、やらかしている。しかも、母親は、いまだに不貞行為をしているという。どうしようもない。
「お前の実家も酷いものだな。中央都市では、あそこまで悪辣なことをしたんだ。表に出てしまったら、もう終わりだろう。人を殺し、薬も流し、といっぱいだ。王都の役人がもう行ったんじゃないか」
「そ、そんなこと、父がそんなことを」
「うん、気の毒にな。騙されたんだろう」
恐る恐ると、俺を見上げる女。年を取ると、エリカ様もこんな顔になるのだろうが、品性の歪みが顔に出ていて、特に何も感じない。
「どうして、私に」
「赤ん坊、捨てただろう」
「みんな、やってるわ!!」
「運がなかったな」
エリカ様は、実の親が幸せであって良かった、というだろう。だが、俺はそう思わない。エリカ様を不幸にした全てを俺は許さない。
「お兄様、終わりましたか?」
アナが部屋に入ってくる。すがるように見る女。途端、アナは不愉快そうに見下ろす。
「あらやだ、ドブネズミがいるわ。さっさと殺処分しないと」
貴族って、こわっ。




