バラとユリ
エリカ様に贈る本を確認していると、やはり紛れ込んでいた!?
「アナ、また、こんな物を混ぜるなんて。俺の品性が、お義祖母様に疑われるだろう!!」
孤児院時代に、妹のアナは、バラ派やらユリ派やらの、怪しい本にはまった。今、貴族界でも、そこそこに教祖のごとく広めている。仕事しろ、仕事っ!
「いいではありませんか、これくらい。お義姉さまの視野を広めてあげたいんです」
「お前な、それ、ちゃんと俺とくっついてのお義姉さまだろうな。ユリ方面のお姉さまは許さんからな!!」
例え妹といえど、エリカ様を奪おうとするのは許さん!
「お兄様こそ、まだ、既成事実もないくせに、クレア様のことをお義祖母様なんて呼んで。はやく迎えに行ったらどうですか」
「まだまだ下準備が必要だ。せっかく、師匠が、剣の腕前をあげる機会を与えてくださったんだ」
「毎日毎日、血なまぐさい」
すっかり貴族令嬢になったアナである。もともと、上品なところがあるので、すぐに溶け込んだ。
「せっかく、エリカ様のために部屋も整えたんですから、はやくしてくださいね。本だって、こんなに」
「だから、そういうのはダメだ! バラやらユリやらは排除だ。普通のものにしなさい」
「せっかく揃えたのにぃ」
「ダメだ!」
本棚にみっちりと入っているバラやらユリやらの本は、俺の指示により、排除された。欲しい人がいるなら、持って帰っていい、と使用人に言ったら、綺麗に片付いた。え、どこまで広がっているの?
王弟殿下が、ぜひぜひ読んでみたい、というので、俺はアナお勧めの本を持って剣を振るった。角度がいまいちかな、うまく斬れない。
「へえ、市井では、こういうのが流行ってるんだ。知らなかった」
「流行ってません! ただ、こういう読み物が好きな奴らが、俺のまわりに多いだけです」
「そういうの、流行ってるというものなんだけど。君、意外と本読んでるよね」
ものすごいスピードで読み進めていく王弟殿下。アナが見たら、「もっと読み込んでください!?」と激怒するな。
「カイト、振りが甘い。こうやるんだよ」
片手は本、片手は剣を振って、スパーンと斬る王弟殿下。首は綺麗にとんだ。
「一発でやってあげないと、苦しいだろうから、頑張ってね」
「はい、師匠」
数うちゃあたる、というが、その数が恐ろしいものである。首だったり、腕だったり、足だったり。
もちろん、生かしておくやつらは、手当までする。その手当も俺がやる。てっきり、医者にやらせるかと思っていたんだが。
「え、エリカ様の足、見知らぬ男に治療させるの? 絶対にイヤだな」
「師匠、勉強になります!!」
さすが師匠。盲点でした。
だいたいのことは読み終わったと王弟殿下は、本を袋に戻した。
「うん、俺はユリだな。前線で試したけど、俺はやっぱり普通の男の子だった」
「そういうものなんですか」
王弟殿下が使った後の剣は、切れ味にぶれがないが、俺のはダメだ。まだまだだな。
「カイトはどっちなの?」
「え、選ばないといけないですか? 俺はエリカ様一択なんで、恋愛小説とかは、男は俺、女なエリカ様に置き換えて読んでます」
「ぶれないね、君。俺も見習わないと。よし、ユリはやめて、どっちも選ばないことにしよう。妹ちゃんに、ごめんなさい、しといて」
「わかりました」
そうして、王弟殿下はバラもユリも選ばなかった。
ちなみに、ルノーに読ませてみたのだが………
「俺ね、字読むと、寝ちゃうの」
読む以前の話だった。




