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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
図書館の聖女
38/67

バラとユリ

 エリカ様に贈る本を確認していると、やはり紛れ込んでいた!?

「アナ、また、こんな物を混ぜるなんて。俺の品性が、お義祖母様に疑われるだろう!!」

 孤児院時代に、妹のアナは、バラ派やらユリ派やらの、怪しい本にはまった。今、貴族界でも、そこそこに教祖のごとく広めている。仕事しろ、仕事っ!

「いいではありませんか、これくらい。お義姉さまの視野を広めてあげたいんです」

「お前な、それ、ちゃんと俺とくっついてのお義姉さまだろうな。ユリ方面のお姉さまは許さんからな!!」

 例え妹といえど、エリカ様を奪おうとするのは許さん!

「お兄様こそ、まだ、既成事実もないくせに、クレア様のことをお義祖母様なんて呼んで。はやく迎えに行ったらどうですか」

「まだまだ下準備が必要だ。せっかく、師匠が、剣の腕前をあげる機会を与えてくださったんだ」

「毎日毎日、血なまぐさい」

 すっかり貴族令嬢になったアナである。もともと、上品なところがあるので、すぐに溶け込んだ。

「せっかく、エリカ様のために部屋も整えたんですから、はやくしてくださいね。本だって、こんなに」

「だから、そういうのはダメだ! バラやらユリやらは排除だ。普通のものにしなさい」

「せっかく揃えたのにぃ」

「ダメだ!」

 本棚にみっちりと入っているバラやらユリやらの本は、俺の指示により、排除された。欲しい人がいるなら、持って帰っていい、と使用人に言ったら、綺麗に片付いた。え、どこまで広がっているの?







 王弟殿下が、ぜひぜひ読んでみたい、というので、俺はアナお勧めの本を持って剣を振るった。角度がいまいちかな、うまく斬れない。

「へえ、市井では、こういうのが流行ってるんだ。知らなかった」

「流行ってません! ただ、こういう読み物が好きな奴らが、俺のまわりに多いだけです」

「そういうの、流行ってるというものなんだけど。君、意外と本読んでるよね」

 ものすごいスピードで読み進めていく王弟殿下。アナが見たら、「もっと読み込んでください!?」と激怒するな。

「カイト、振りが甘い。こうやるんだよ」

 片手は本、片手は剣を振って、スパーンと斬る王弟殿下。首は綺麗にとんだ。

「一発でやってあげないと、苦しいだろうから、頑張ってね」

「はい、師匠」

 数うちゃあたる、というが、その数が恐ろしいものである。首だったり、腕だったり、足だったり。

 もちろん、生かしておくやつらは、手当までする。その手当も俺がやる。てっきり、医者にやらせるかと思っていたんだが。

「え、エリカ様の足、見知らぬ男に治療させるの? 絶対にイヤだな」

「師匠、勉強になります!!」

 さすが師匠。盲点でした。

 だいたいのことは読み終わったと王弟殿下は、本を袋に戻した。

「うん、俺はユリだな。前線で試したけど、俺はやっぱり普通の男の子だった」

「そういうものなんですか」

 王弟殿下が使った後の剣は、切れ味にぶれがないが、俺のはダメだ。まだまだだな。

「カイトはどっちなの?」

「え、選ばないといけないですか? 俺はエリカ様一択なんで、恋愛小説とかは、男は俺、女なエリカ様に置き換えて読んでます」

「ぶれないね、君。俺も見習わないと。よし、ユリはやめて、どっちも選ばないことにしよう。妹ちゃんに、ごめんなさい、しといて」

「わかりました」

 そうして、王弟殿下はバラもユリも選ばなかった。



 ちなみに、ルノーに読ませてみたのだが………

「俺ね、字読むと、寝ちゃうの」

 読む以前の話だった。

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