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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
図書館の聖女
35/67

王弟殿下に引き抜かれる

 貴族様の勉強もほどほどに、俺はいくつかの目標のために、動き出すことにした。とりあえず、エリカ様のためのことをしないといけない。

 エリカ様はなかなか高嶺の花だ。貴族になっても、エリカ様は国王よりも偉い。だったら、貴族の中でも、それなりの立場になるしかない。

 文官か騎士か、の二択だが、もちろん、騎士だ。何故って、文官じゃ、武器持った敵からエリカ様守れないじゃん。

 というわけで、侯爵家は妹のアナに全部押し付けた。押し付けられたアナは、「お兄ちゃん、エリカ様のこと、応援しているからね!」と頑張ってくれている。頑張るよ。


 騎士は体が資本かと思ったら、頭もそれなりに必要だった。頭はまあ、普通なので、難なく進み、剣は使ったことはないが、体力は下働きで力仕事ばっかりやっていたので、そこらの平民よりも力もちである。結果、すぐに合格し、訓練である。

 訓練も早朝から夜遅くまで、まあ、軍隊だから、理不尽なこともある。貴族平民、年長者と、いっぱいだ。俺は貴族であるが、下っ端、しかも元孤児とかなので、距離感が難しいのか、とりあえず、貴族からは敬遠された。侯爵家だから、嫌がらせもできまい。

 平民とかは、普通である。時間があれば、賭け事もやる。この、孤児時代のイカサマの腕前を披露して、かなり儲けた。

 そうして、訓練生で過ごしているところ、王弟殿下をお出迎えするため、全員が集合させられた。

「団長ー、久しぶりー。もう、平和だね、こっち。平和すぎて、体なまっちゃったからさ、ちょっと相手してよ」

 とてもフレンドリーな人である。

「いえ、ここには、もう、王弟殿下の腕に敵う者は一人もいません!」

「殴り合いでもいいよ」

「勝てません!」

「そうかー。そういえば、賭け事強い新人がいるってきいたけど、どいつ?」

 全員が俺を見る。見ないで!?

 下働きでも、とりあえず、上の人間にはほどほどの態度をとるようにしているので、黙っていることにした。王弟殿下は、さすが強いといわれるだけあって、隙がないし、なんだか怖い。

「俺、王弟殿下のキリト。お名前は?」

「自分は、カイトです!」

「どれどれ、手を見せてもらおう。お、剣のほうは、まだ素人か。体は鍛えてあるね。よしよし、ちょっとカードしよう。団長、一緒にやろう。大丈夫、不敬罪にしないから」

 手をお友達のように引っ張られて、俺は売られていく。仲良くしていた平民は、涙ぐみながら、手を振ってくれた。



 さて、団長と副団長、そして、王弟殿下と俺で、別室でカードとなった。新品のカードなので、何も出来ない感じである。

「はい、どうぞ」

 それを俺に渡す王弟殿下。いいのだろうか、負かせて。いや、イカサマ使わなかったら、勝てないよね。

 悩みながらカードいじっていると、

「とりあえず、イカサマありで。不敬罪にしないから。ていうか、イカサマの腕前見せて」

「………」

「手、抜くなよ」

 こわっ! この人、何考えてるか、わかんないよ!!

 言われたので、俺は震えつつ、イカサマした。カードを普通に配って、全員がよいカードかを見て、めくったりする。

 俺は、めくらない。もう、イカサマ終わっているから、俺の一人勝ちである。

 そして、全員がカードを広げると、俺の勝ちが確定となった。

「え、どうやってやったの? 全くわかんなかったんだけど」

「殿下、俺にカード渡しちゃだめです。その時点で、並び変えてるので」

「なにぃ!?」

 団長も副団長もびっくりである。新品のカードで、そこまでされると思っていなかったのだろう。普通は出来ない。

 ここは、種明かししないといけないので、俺は、カードをきって、上から見せる。

「ハートの7、クローバーの4、スペードの2」

 言ってからめくれば、その通りである。

「俺、記憶力と手が特殊なんです。孤児院時代に、こういうイカサマやってるダメ大人と知り合ったんですが、俺は、この手で、物の違いがわかるそうです。こう、同じカードなのですが、俺が触ると、全て違うカードになります。それと、瞬間的に記憶する力がずばぬけているので、カードを握った時点で、イカサマできちゃいます」

「他の奴らに握らせたら?」

「俺、目も特殊らしく、同じカードに見えないんですよ。だから、最初は負けるんですが、二三回やると、誰がどのカードを持っているかわかっちゃうんで、負けないんです。もちろん、イカサマも見破れますよ」

「これはすごい掘り出し物だ。俺、負けたの初めて。ねえ、団長、この子ちょうだい」

「よし、栄転だ」

 何が、よし、だよ。俺の立場って、犬猫かい。


 さすがに後で、団長相手に抗議する。ちなみに、この団長、実家が伯爵家なので、俺より下である。

「団長、ちょっと酷くないですか、あれ。俺、剣振ってただけで、まともに使えないのに」

「王弟殿下に教えてもらえ。あの方は、本当に天才だ。人を育てるのもうまい」

「でも、俺、見習い期間ですよ」

「諦めろ。お前がガキの頃から、あの方は戦場に出ていた。見習いとか、そういうのは頭の中にないんだよ。後ろ暗い仕事ばっかりで大変だろうが、あの方は、だいたいの願いは聞き入れてくれる」

「だいたいって、お金持ちになりたい、とか?」

「貴族でも難しい願いだな。ものすごく頭がいいんだ。腕も強い。ただ、ちょっとこう、失礼なんだが、頭がずれている。ずれているからこそ、出来ることがある」

 日の目の見ない人生に追い込まれた。

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