表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
図書館の聖女
33/67

優しい聖女

 本棚の整理と、それなりの書類を仕分けたり、というのが、俺の仕事だ。行方不明となった両親のお陰で、孤児院でも良い待遇を受けられた。

 といっても、働ける者は何でも使え、というほど人材不足である。

 中央都市は、法の番人である。間違ったことは許されない。そして、誰にでも、法の保護を受ける権利を訴える。

 俺は、悪いことだが、あの我儘貴族の馬車の前に飛び出したことで、孤児院に入ることとなった。

 他の貧民の子どもは、中央都市のエリカ様のこと、かけらほども信用していなかった。


 俺は貧民だが、盗みとか暴力とかはしない。両親が行方不明になってからも、妹のアナを支えるために、人が嫌う安い仕事をこなしていた。

 酷い大人はたくさんいる。仕事をしても、金が貰えないこともある。それでも、悪事には手を染めなかった。

 悪事に手を染めてしまった貧民の子どもは溢れるほどいる。そっちのほうが、楽なのは確かだ。だから、俺はバカにされていた。

 たぶん、あと少しで、俺も悪事を染めていたところだろう。

 あの馬車の事件で、中央都市のエリカ様の前に立たされた時は、絶望した。自分よりもはるかに下の少女が裁くのだ。相手は貴族様。もう、俺が処罰されるに決まっている。


 ところが、中央都市のエリカ様は、貴族を裁いた。


 この事件をもみ消そうと、貴族の生家は俺を脅しに来たが、そこを兵士に捕らえられた。俺は、エリカ様によって、泳がされていた。

 そして、例の貴族は廃嫡。生家の貴族家は子爵から男爵に降格された。

 その話は、俺に勇気と希望を与えてくれた。俺は、同じ親のいない貧民を説得し、孤児院に入れて行った。

 孤児院は、分け隔てなく、親のいない貧民を受け入れ、孤児院の子どもたちは、俺たちにいろいろと教えてくれた。

 そうして、最低最悪なところから、人並となった。

 元貧民の孤児たちは、中央都市のエリカ様に感謝している。恩を返したい、といつも願って、口にも出している。

「私は、ここから動けませんので、同じような子どもたちがいたら、あなたが助けてあげてください」

 彼女の望みは、その他大勢の幸せだった。


 貧民で親がいても、苦労している子どもはたくさんいた。親だって、最初はそうじゃなかったが、這い上がる手段がないのだ。

 そこの所を俺が話せば、エリカ様は予算を作り、這い上がるチャンスを与える。仕事を与え、勉学の機会を与え、労働環境を兵士や神官たちに監視させた。

「こういうものは、心のありようです。最初から、本当にダメな人間はダメなのですが、そうじゃないのなら、環境を与えましょう。這い上がれれば、大丈夫ですよ。子どもを育てられないなら、手放させるしかないですが、親との面談の権利は保障しましょう」

 逃げ道も与える。エリカ様の目的は、この、親が手放さないで不幸になる子どもを保護することだろう。

 簡単なことなのだが、無理矢理取り上げるわけにはいかないので、親子の縁は、とても難しい。

「親子でいるのが、きっと一番ですが、それは幸せとは限りませんからね。どうすれば、不幸な子どもが減るのでしょうね」


 その不幸な子どもに、エリカ様自身は数えられていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ