私をみつけてくれて、ありがとう
エリカは、そう長くは生きなかった。もともと、聖域に寿命を吸われていたのだから、仕方がなかった。俺の妖精憑きの力でも、どうしようもできなかった。
子どもは最初から求めていなかったが、エリカの執念で、女の子が一人生まれた。病気一つしない、元気な子だ。
短かったが、とても穏やかな日々を送れた。それで、俺は十分に満たされた。
エリカは言った。
「娘がいるなら、まだまだ生きないといけないですね」
娘がいなくても、王族だから、生きないといけないんだけど、黙っていた。まだ、公国との停戦条約の年数は、俺の寿命だから、死ぬに死ねない。
結局、エリカには、何一つ、本当のことを教えなかった。エリカと過ごしている間にも、色々と後ろ暗いことをやっていたが、それもこれも、王国のためである。
娘を連れて、船で帝国に渡ろうか、と船を待っていると、ふと、北の砦の聖域のことを思い出した。あの聖域で、エリカの幻を見て、それからエリカへの執着を持ったのだ。
すでに、帝国行の船は目の前まできていた。
俺に、怪しい動きをする男が近づいてきた。あれはスリだな。下手くそめ。
金をとられることはないが、わざと、船のチケットを持っていかせた。まあ、帝国に行きたいやつはたくさんいるから、誰かに売りつけるだろう。
こうして、俺の帝国行はなくなり、そのまま、娘を連れて、北の砦に向かった。
男爵領で交換した馬は、とても役に立った。お陰で、北の砦まではあっという間に到着した。
「あれ、王弟殿下ではありませんか!?」
「ちょっと来た。アランを呼んでくれ」
北の砦にいる兵士たちは、もう、年よりばかりだった。子どもも手が離れたので、とりあえず、金になる仕事として続けているようだ。
随分と老けたアランがやってくる。あまり運動してなさそうで、ぜーぜーと肩で息をしている。
「で、殿下、急に、どうしたのです、か」
「ゆっくりでいいのに。ちょっと聖域に行きたくてな。ついでに、アランの顔を見に来た。ほら、俺と聖女の間に生まれた娘だ」
まだ、人見知りなのもあって、うまく挨拶が出来ない娘は見知らぬ人が大勢いて、びっくりして、俺にひっしとしがみついた。
「どちらに似ても、美人になるのでしょうね」
「俺よりもいい男はそうそういないぞ」
「聞いてますよ、聖女様を追いかけまわして、捕まえたそうですね。それで、その聖女様はどちらに」
俺は、かばんの中に入っている骨壺を見せた。
「妖精憑きの力でも、無理でしたか」
「一度、神に捧げられてしまったからな。それでだな、悪いんだが、娘を預かってくれないか。泣くかもしれんが、聖域に連れていくには、危険すぎる」
あの、断崖絶壁を上から降りるのだ。子連れは無理だ。
「誰かに預かってもらえば良かったじゃないですか。家があったでしょう」
「全て処分した。俺は、何かと命が狙われているからな。もしかすると、ここでしばらく厄介になるかもしれない」
「公国のやつらも、いい加減、戦争なんてやめればいいのに。いいですよ。ちょうど子ども向けのおもちゃを公国から貰いました。ほら、これで遊びましょう」
人型の可愛い人形だ。確かに、王国にはこういうのはない。
娘は公国の人形に目をキラキラと輝かせ、受け取り、そのままアランについていった。お父さん、寂しい。
見つけた当時は、雪崩でしっかり足場になった雪のお陰で歩いていけた聖域だったが、今は、上から釣り下げられるロープで降りて行くしかない。
アランはもう、この聖域を見ていないだろう。もともと、人の手に余る場所にあるのだから、放置しておいても、問題のない聖域だ。
俺は、ロープをつかむと、飛ぶように降りた。ロープ、もうちょっと頑丈なのにかえたいな。公国から貰うか。
数秒で、降り立ち、聖域へと向かう。随分と前に来た頃と何も変わらない。中は寒くも暑くもない。
そして、奥に聖水が溜まった泉に到着した。
俺は適当な所に座り、わざわざ持ってきたエリカの遺骨を、例の幻のエリカが見えた所に置いた。
「おい、俺は見つけたぞ」
何も起こらない。何か奇跡でも起こるかと期待していた。まあ、奇跡はエリカを見つけたことで起こっていたから、いいか。
『もう、神官長ったら、こんなに書類を溜めて!』
エリカの声が聖域に響き渡る。どこだ!?
声をしたほうを見れば、それは、聖水が満たされた泉からだ。そこに、ありし日のエリカの姿が映し出された。
『ありがとうございます、エリカ様』
『神官やシスターが困っていたからやっただけです。もう、しっかりしてください! あ、また借金の督促が来てましたよ。返しておきましたら』
少女のごとき姿のエリカだ。怒っている顔も可愛い。
涙がこぼれた。もう、二度と会えないと思っていた。それが、こんな絶壁の聖域で、また、エリカに会えた。
泉に手を突っ込むと、像が崩れた。慌てて、泉から離れた。
映し出された像が変わった。成長したエリカが、窓際で微笑んでいる。
『もう、神官長ったら』
『お、間違えたな』
『やだっ!』
俺が嫌がるエリカに口づけした。
どうしても俺を名前で呼べなくて、間違えた時は口づけする、ということをしばらくやっていた。顔を真っ赤にしているエリカ、可愛い。
『もう、赤ちゃんが出来たら、どうするのですか』
『結婚してるからいいだろう。ほら、キリト、と呼んで』
『キ、キリ、キリ、キリト、様』
『様はいらないって』
『んもう、いいんです、キリト様で!』
恥ずかしさを隠すため、俺の胸を叩く。全然痛くなかった。
そうして、しばらく、思い出の中のエリカが泉の中に映り、消えると、骨壺の辺りが輝いた。
あの、幻のエリカが微笑んでいる。
『見つけてくれて、ありがとう。お礼です』
そう言って、消えた。
結局、あの幻のエリカは何者なのか、わからなかった。
聖域は、再び、過去のエリカの姿を泉に映し続けた。
暗くなる前に、北の砦に戻ってみれば、娘はすっかり兵士たちになついていた。
「王弟殿下、おかえりなさい!」
「出迎え、ご苦労。娘には、悪い遊びは教えるなよ」
「そんな暇ないでしょう。王弟殿下は王宮に戻るんですから」
「俺は北の砦から出ない」
「え、どうしたんすか!? 殿下、王族のお役目第一じゃないすか」
「ちょうどいいじゃん。俺、消息不明になったほうが、公国との停戦協定、伸びるしさ」
公国と最後に結んだ停戦協定には、俺の指示で、わざと、大きな穴を作った。
父上の時は、父上の死の確認がとれたら、停戦協定がなくなることとなっていた。つまりは、確認がとれなかったら、停戦協定は続くのだ。
俺は、それを逆手にとった。国王になれば、崩御やらなにやら、大々的に発表しないといけないので、死の確認が簡単だ。しかし、俺は王弟なので、死の確認をするには、言い方が悪いが、死体を持ってこないといけない。
だから、俺は、エリカも亡くなったので、帝国に行って、そのまま消息を絶つ予定だった。あの協定、消息不明についてのことは、わざと書かなかった。だから、死の確認をするまでは、協定は続くこととなる。
公国側にとって、手っ取り早いのは、俺を殺して死体を持ってくることだ。だから、今頃、必死で帝国にいるかもしれない俺を探しているだろう。もう、やめちゃえばいいのに。
「公国が来る時は、俺と娘はいなくなるから、よろしく。兄上にも、誰にもいうなよ」
「で、でんかぁ、それって、まずくないすか?」
「アラン、今日は俺がとらんしーばー使いたいなー!」
「ぜひぜひ!」
長生きしよう。
こちらを書かないので、読んでいる人をがいないと思いますが、一応、書いておきます。
王弟殿下と王都のエリカ様の18禁部分の毎日更新が始まりました。
王弟殿下の執愛というタイトルのはず。
名前でも検索出来るかな??
本編読まないとわからない内容となっていますので、ここまで読んだ方は、大丈夫です。
良かったら、読んでみてください。




