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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
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騙されてばかりのエリカ

 エリカに用意された家は、小さな借家だった。これは、また、横領か。何故、そう確定するかというと、予算は俺のほうから出しているからだ。

 エリカは一度は小さな家に押し込められたが、俺が兄上を脅し、それなりの屋敷に移動する約束を取り付けていた。

 金? 前線時代から、本当に何も使わない俺は、手当やら給料やら出ていたが、貯まる一方だ。使わないので、その金をエリカの予算にしたのだ。

 俺は、屋敷に働く者を厳選し、今日、連れてきていた。なのに、来てみれば、聖域時代とかわらない小さな小屋だとは。

「王弟殿下、落ち着いてください」

 俺の乳母のテレサが腕を叩くが、落ち着けるか!

 エリカには、貴金属もちょくちょく贈っていた。エリカは実の家族からもプレゼントを断っていた。だから、初めてを手に入れたかった。それすらも、奪われているような気がする。

 エリカの世話人は何度も代わっている。エリカと接するのは辛い、と言われたらしいが、そこが怪しい。

 そして、雇った者たちを連れて、家に入った。

 乳母と歳の変わらない女が出てきた。

「何か御用でしょうか」

「エリカはどこにいる? 案内しろ」

「あの、あなたはどこのどなたですか! お約束のお話はっ」

「国王の弟だ。エリカを迎えに来た」

「ひっ!」

 話が通じないので、連れてきた使用人が女にナイフを向ける。ナイフも恐ろしいだろうが、俺が王弟だという事実に、女は足から崩れる。

「も、申し訳ございません! ま、魔がさしました!!」

「エリカは?」

「お許しください!!」

 謝るばかりで話が進まない。女を押しのけ、エリカを探す。

 小さい家なので、部屋は限られている。手前からどんどんと開けていけば、すぐにエリカは見つかった。

 エリカは、微笑んで、窓の外を眺めていた。その後ろに、男が立ち、彼女の髪に触れていた。

 俺の怒気と、物々しい使用人数人に、男は腰をぬかす。俺のエリカに汚い手で触るとは! その手を切り刻んでやろうと、剣に手をかける。

「もう、神官長、いい加減にしてください。いつまでも黙っているなんて。知っているんですからね」

 エリカの明るい声に、柄を握る手の力がゆるんだ。

 エリカは、どこか虚空を見つめて、笑っていた。

「もう、使用人のふりはやめてください。男の人に、トイレの世話や、体をふいてもらうなんて、恥ずかしいんですから」

 男は震える。なるほど、魔がさしたのか。玄関のほうでは、女が謝りながら泣いていた。

 使用人たちが男を拘束し、部屋から出している間、エリカの姿をよく見た。

 エリカのために人を集めていたため、来るのに三カ月もかかった。兄上のことだから、大丈夫と思って安心していたが、全然だ。

 部屋を見れば、質素なものばかり。俺が贈った物は見当たらない。着ている服も、どこかチグハグになっている。

 何より、三カ月で随分と成長して、すっかり成人した女になっていた。体が大きくなったことは、本人も自覚はしているのだろう。しかし、中身は少女のままだから、男への警戒心が薄かった。

 美しく成長したというのに、自覚もない。だから、近所の男が一目ぼれでもしたのだろう。

 俺はエリカの前に跪き、抱きついた。

「俺と、結婚しよう」

「何を言ってるんですか。あなたは王弟殿下ですよ。こんな目も見えない、足も満足に動かない、寿命だって削られた女なんて、つり合いがとれませんよ」

「エリカがいいんだ。エリカじゃないとダメなんだ」

 困った、とばかりにため息をついて、俺の頭を優しくなでるエリカ。この女は、ダメな男をダメにする才能がある。だから、俺はダメな男にならないといけない。

「酒も賭け事も借金も、笑って許してくれるのは、エリカだけだ」

「神官長の書類仕事も、私がやってあげたんですよ」

「そうだ。だから、こんなダメ男は、エリカしか支えられない」

 ここまで騙されるんだから、俺にも騙されてくれ。

 必死で訴えた。願った。俺の願いは、絶対に叶う。

「いいですか、神官長。私はもう、あなたを助けてあげられません。だから、私はお払い箱なんです」

「愛してるんだ!」

「本当に、ダメな人ですね。わかっているんですか。私は、あなたのせいで、足がもっていかれてしまったんですよ」

「結婚しよう」

「成長だって、たぶん、あなたのせいですよね」

「世界で一番、綺麗だ」

「視力だって、あなたのせいでしょう」

「もう、他の男を見ないでくれ」

「仕方がありませんね。責任とって、私と結婚しなさい」

「ああ、結婚しよう」

 嬉しくて、エリカを抱き上げる。エリカの体は大きくなっても、軽い。簡単に片腕で抱き上げた。






 後日、調べてみれば、出るわ出るわ横領が。エリカを世話していた使用人たちは、エリカが持っていた貴重品やらなにやら、目が見えないからと、盗んでいた。

 王都のエリカ様は、足が悪く、姿もぱっとしなくて、視力もそうとう悪い、という話から、何をやっても許される、と皆、勘違いしていた。その勘違いのせいで、妙な男がエリカに手を出そうとしていた。

 この事は、表沙汰にはしなかったが、処罰はした。

 あの、エリカに手を出そうとした男は、例の男爵家の地下室に行った。

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