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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
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エリカの逃亡

 最果てのエリカ様が帝国の皇女様だとわかり、聖域の扱いが変わることとなった。もう、聖域にエリカ様は必要なくなったのだ。

 しかし、王都のエリカ様を解放するには、呪いのような魔法を解かなければならない。最果てのエリカ様を連れて行くため、帝国の魔法使いが同行しているという。各聖域をめぐってから来るという最果てのエリカ様ご一行を俺はイライラと待っていた。

 王都のエリカ様は、まだ、解放されていないので、毎日のお勤めをただ繰り返す。貴族どもは酷いもので、命まで削って献身している王都のエリカ様のことを”外れ”扱いだ。後で目にもの見せてやる。

 そうして、魔法を使って移動して、最果てのエリカ様ご一行がやってきた。

 俺は、神官長として、教会の前で待っていると、帝国の紋章が彫られた馬車が魔法で目の前に現れた。

 馬車だけではない。帝国と王国の護衛騎士たちも一緒だ。こういう大がかりな魔法は初めてみた。

 ネコ被っているので、俺は大人しく頭を下げていると、馬車から大笑いして出てくる最果てのエリカ様。

「なに、これ! おかしい!! 見て見て、私の妖精が盗られた!!!」

 そういえば、最果てのエリカ様は妖精憑きか。俺の周りを覆い隠すほどいるという妖精たちが見えるのだろう。

「エリカ、大声で笑うな」

「でも、おかしい! お兄様、あんなに一杯の妖精、初めて見たわ。あれって、なんなの?」

「いいから、君は王都のエリカ様の所に行きなさい。僕は、王弟殿下と話がある」

 最果てのエリカ様は、兄と呼ぶ男に言われるままに、案内もなく、王都のエリカ様の所へと向かっていった。

 そして、最果てのエリカ様が兄と呼ぶ男は、礼儀よく頭を下げる。

「失礼しました、王弟殿下。僕は、リスキス公爵の養子ロベルトと申します」

「ああ、男爵家から養子に出された」

 リスキス公爵は有名だ。知らぬ者はいない。いくら、長年前線にいたからといっても、大貴族といっていいリスキス公爵のことを忘れることはない。

 リスキス公爵は、なかなか子宝に恵まれず、仕方がないので、遠縁の男爵家から養子をとった話は有名だ。そして、幸運を運んだのか、そのあと、すぐ、嫡男を妊娠出産した。

 分をわきまえる、出来る養子だと、社交界では言われている。第一王子のアインズの側近として、優秀さを見せてもいた。

「俺と話とは、何かあるのかな?」

「王弟殿下は、妖精の姿を見たり、声を聞いたりは出来ないのですか?」

「これがさっぱりだ。妖精憑きらしいが、俺ではコントロールが出来ていない」

「そうですか。では、僕の生家をお訪ねください。男爵の父に手紙を書いておきます。絶対に行ってください」

「それは、何故? 行かないといけないのかな?」

 ロベルトは、周りにいる帝国の騎士や侍女を警戒して、小声で話す。

「僕の叔母は、王弟殿下と同じような妖精憑きです。男爵家に行けば、その力の一端が見られます。これ以上、詳しいことは、帝国の者の前では話せません」

「だろうな」

 帝国は、今も俺を欲している。最果てのエリカ様の同行者に、俺を指名したほどだ。もちろん、王のスペアである以上、王国から出られない、と断ったが。

 そうして、最果てのエリカ様は、嵐のように来て、嵐のように去っていった。






 やっと、エリカは聖域から解放された。エリカは出ていく準備を始めている。俺は、それを邪魔するように、彼女が長年過ごした小屋のベッドで座っていた。

「神官長、片づけが出来ません!」

「そんなに急ぐ必要はない。まずは、どこに行くか決めないと」

「行先は、王国が決めてくれます。いつでも出られるようにしないと、ご迷惑でしょう」

「これまで頑張ったんだ、そんなこと気にするな。お、ここに本を隠すなんて」

「もう、見ないでください!」

 一体、どんな本かと見てみれば、昔からある恋愛関係の大衆本だ。女の子なら、誰もが一度は読む本らしい。よくある恋愛で、幸せな結婚して、子どもと三人で幸せに暮らしました、で終わる。

 よく読み込まれている本で、紙がすりへってる。

「こういう本を読むなら、もっと買ってやるのに」

「いいんです、これ一冊で。私には、十分、夢を見せてくれたんですから」

「夢じゃなく、現実にすればいいだろう。結婚すればいいじゃないか」

 俺と結婚しよう、とはまだ言えない。思ったよりも、勇気がいる。

 とても大事な宝物の本を胸に抱き、泣きそうな顔をするエリカに、俺はタガが外れる。

 彼女の逃げたり抵抗したりする力を、俺は時間をかけて削いでいた。そして、出来上がったのは、ただ震えるだけの無力な少女だ。

 抱きしめ、無理矢理、口づけをする。抵抗するので、ベッドに押し付けて、深く口づけした。

 成長が止まった彼女には、それ以上のことは出来ない。もっとしたいけど、俺は我慢した。彼女のことを大事にしたい。

「うう、酷いっ、こんなことしたら、赤ちゃんできちゃうじゃないですか!?」

「っは、ははははは」

 なんだこれは。何も知らない。あの父親は、エリカに男女のことを一切教えていない。そして、なんて純粋で無知なんだ。

 泣いてイヤがる彼女に口づけする。頬にも、額にも、耳にも、育っていない胸にも。

「やめてくださいっ! 赤ちゃんできたら、どうするんですか!?」

「俺と結婚すればいい。いや、出来なくったって、結婚しよう。いや、結婚する」

「何、おかしなこと言ってるんですか。私は、もうっ」

「黙れっ」

 否定ばかりするので、口づけで黙らせた。






 それからは、容赦がなくなった。エリカは逃げられないので、俺にされるままだ。泣いて、赤ちゃんが、という姿が可愛い。

 そして、俺にばれないように、とシスターを通して国王と手紙のやり取りしている。気づかないと思っている彼女が可愛い。

 だから、好きにさせた。毎日、迎えが来るのを待っているエリカは、本当に可愛くて可哀想だ。

 こんな男に魅入られて、手足の自由をとられ、もうすぐ、視力もとられ、他の男を見れなくなる。

 兄上は、俺に内緒で、エリカを聖域から連れ出すための指示を出していた。兄上は、国王だし、エリカは被害者だ。願いを叶えるのは、王として当然だろう。だから、許してやる。

 そうして、教会の執務室で見張っていれば、大雨の時に、エリカは逃亡した。追いかけたが、やはり捕まえるのはムリだった。

 エリカが長年過ごした小屋には、小役人がいた。ただ、上司に言われた通りの行動をしたようだが、あの大雨の中を彼女一人で歩かせたことはいただけないので、殴った。






 すぐに、いつもの裏道と通路を通り、兄上の執務室に入った。

 俺が来るのを待っていたのだろう。机の上は綺麗になっていた。俺は兄上に剣の切っ先を向けた。

「俺のエリカの居場所を吐け」

 例え、それが血を分けた兄だろうと、俺の恋路を邪魔する者は許さない。

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