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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
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エリカ様は可愛い

 エリカ様の聖域でのお役目を手伝った後は、自由時間である。自由時間だけど、やることいっぱいだよ。エリカ様には言えないけど。

 娼館行ったり、酒場行ったり、賭場行ったり、借金したり、そして、こっそり王宮に行く。

 王宮には三日に一回の頻度でこっそり行っている。秘密の抜け穴みたいなものがあって、そこを人に見られないように入り、人に見られない通路を通って、兄上の部屋に到着である。

 兄上は、今日も執務中である。

「お疲れ様、キリト。今日はどこに行ってたのかな?」

 俺用の机には、山のように積まれた仕事がある。それを簡単に目を通し、二種類にわけた。

「こっちは不可だから、やり直させて。あとは、問題ない」

「はやっ」

「今日もエリカ様が可愛かった、おしまい」

「おい」

「兄上、ほら見せて、ああ、これね。はいはい、貸して貸して」

 兄上の仕事もぱぱっと終わらせる。話をするのに、仕事しながらは、よくない。

「終わり。お茶飲む? 酒にする?」

「ねえ、キルト、王様やらない?」

「やらない。俺、神官長でむちゃくちゃ幸せ。エリカ様可愛い」

 酒は飲まないといけないことが多いので、紅茶にした。

「今日は、賭場に行ってきた。あいつ、なんで賭け事弱いかな。俺が勝ったらダメなのに、負けるの。情報のやり取りするだけだからいいけど、あいつ、俺に対して借金まみれじゃん」

 表向きはダメ神官長だが、実は、理由があってやっている。

 娼館は、こちらは女性に対する訓練である。エリカ様のためにも、男を頑張りたい。

 酒場と賭場と借金は、情報集めである。公国、相変わらず灰色で、出るわ出るわ裏切者。監視をつけているので、そこら辺を定期的に報告させている。もう、やめてほしい。

 というわけで、それぞれ理由があって通っている。お金はもちろん、王国持ちである。必要経費なんだよ、これ。あ、娼館は自腹だ。

 紅茶をサーブして、小腹が空いた時用に用意された菓子をつまむ。

「借金の請求書を教会に届けるもんだから、エリカ様が勝手に返済しちゃうんだよ。予算をどうにか運用で膨らませて、それで返しちゃったんだって。さすが俺のエリカ様、可愛くて優秀だ」

「そうなんだ、すごいな」

「神官長と王族の仕事、部屋に貯めといたら、皆さんに迷惑ですよ、ってエリカ様が全部処理しちゃったんだよ。しかも、完璧。さすが俺のエリカ様、可愛くて優しい」

「はいはい」

「聞いてよ、兄上。娼館の香水がべったりついてさ、その匂いがいやだって、水かけられたんだよ。嫉妬かな、と期待したけど、匂いで吐いてた。エリカ様、匂いに敏感だったなんて、可哀想なことしちゃったよ。気を付けよう」

「お前、わかっているだろうな。王都のエリカ様には、呪いがあるんだぞ」

 べた褒めべた惚れの俺を心配する兄上。わかってる。王都のエリカ様は寿命が短い。

 王都の聖域は、ともかくよく穢れる。その穢れをエリカ様に押し付ける呪いがかけられていた。

 どうにかしたいが、妖精憑きの俺でもどうしようもない。

「兄上、アラン、呼んでください。アランだったら、どうにか出来るはずです」

 北の砦に定住してしまった魔法使い・アランの力があれば、どうにかなるはずだ。

「彼は正確には帝国民だから、私から命令が出来ない」

「あのヤロー、あんな制約させやがって」

 実は、戦後の報償として、アランは北の砦の定住を希望した。そこには、俺の呼び出しには答えなくてよい、なんて制約をさせられた。こうなることがわかっていたら、断固拒否してやればよかった。

 エリカ様を連れて行けないし、かといって、あの北の砦は遠いので、離れている間にエリカ様に危険があったりするのが心配だ。妖精は、どう暴走するかわからない。

「まあ、どうにかなるだろう。俺の願いは必ず叶うらしいし」

 そこは、妖精さんに期待するしかない。

 話すことも話したし、仕事も終わったので、お菓子をちょっとだけエリカ様に包んでお土産にしよう、と席を立ったところ、タイミングよく、義姉上が入ってきた。

「王弟殿下、お久しぶりです」

「義姉上、相変わらず美しいですね。いつまでも若いので、驚きです。では、これで」

「待ってください」

 笑顔の義姉上に捕まった! あんなに優美な動きで、ここぞという時ははやいよ!!

「聞いたのですが、サキトをエリカ様に押し付けて、遊び歩いているそうですね」

「いいですか、義姉上。俺には、兄上に命じられた大変な仕事があるんです」

「聞きましたよ、女は買う、酒は飲む、賭け事はする、借金はするって。どういうことですか!?」

「兄上、助けてぇーーーー!!! 女怖い!!!」

 こういう時は兄上の後ろに逃げる。

「陛下、邪魔しないでください!!」

「キリトは十年も戦場で大変な思いをしたんだ。本来なら、私と君が子をもてるようなこともなかった。全ては、キリトのお陰だ。だから、キリトの行いを責めるな。キリトは、結果的には、国や私たちのために動いているだけだ」

「それが、あんな悪評をっ」

「そうしないと、また、王位継承の話でもめるだろう。私の時もそうだった。キリトがうまく身を引いたから、綺麗におさまっただけだ。君はこういう生臭い話には、関わらないでくれ」

「……わかりました」

 まだ、言いたいことはいっぱいあるようだ。顔が怖い。エリカ様は怒っても可愛いのに。

「そう怒るな。怒っても、可愛いがな」

 途端、兄上が義姉上を誉めた。なるほど。

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