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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
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神官長になる

 結局、王都に戻ったのは、王都から離れて十年経ってからだった。もっとはやくてもいいはずなのだが、停戦協定の後、やっぱり戦争賛成派が自爆テロを北の砦近くで起こしてくれたので、警戒して、五年も北の砦で警備員をやっていた。

 魔法使いのアランは、戦利品をどうにか運び出そうと公国兵と王国兵を顎で使ってくれていたが、とりあえず、王国側の領土に置いて、砦の住人となってしまった。え、帝国に戻らない!? 

 この結果には、びっくりだ。アラン、そんなんだったら、公国に行けばいいじゃん、と提案したのだが。

「元は貧民の子どもなんです。妖精憑きだとわかり、保護され、教育を施されました。妖精にも、聖域にも、恩があるのですよ。だから、公国には行きません」

 だそうだ。せっかくなので、北の山にある聖域の管理をアランにお願いした。





 戻れば、何かがかわっているだろう、なんてドキドキワクワクしていたら、孤児院や神殿とかの予算の横領事件に湧いていた。うわ、ある意味平和だ。

 戻って早々、兄上に呼び出された。

「ただいま戻りました、兄上!」

「息災で何よりだ。長きにわたる、前線での戦い、感謝する」

 すっかり王様だ、兄上。

 簡単な挨拶をすませて、兄上は人払いをしてくれた。随分、久しぶりの兄弟水入らずだ。

 人の目がなくなると、兄上は俺の体を触った。手の指を数えて、足を触って、顔を撫でて、抱きしめた。

「良かった、欠けてない」

「いやー、前線にいると、市井の勉強になるよ。なんと、酒と賭け事を覚えました」

「そうか。他には」

「賭け事で、何人もの男を素っ裸にしました。いやー、みんな、王弟殿下だからって、手加減するから。もっと現実の厳しさを教えてほしかったな」

「男ばかりで、その、おかしなことはなかったか?」

 椅子に座らせ、何故か目を合わせようとしない兄上。ああ、わかるわかる。戦争では、そういうことがあるって、聞いた。

「女はもうダメなので、試してみたんですが、男には全く興味がないことがわかりました。だから、安心してください!」

「試すな!?」

「ああいう所には、やっぱいるんですよね、そういうの。だから、不敬罪にしないから、てお願いしたけど、鳥肌たっちゃって。というわけで、兄上、王位継承権の破棄の手続き、よろしくお願いします」

「ダメだ、私を見捨てるのか!?」

「俺、子ども作れないですよ。王族の大切な役目でしょ」

 色々と試してみたけど、俺はそういうことは出来なかった。子作りは無理だ。

 王族にとって、血を残すことは大事だ。一貴族になって、万が一の、ということもしないといけないのに、それすら出来ない。

「いいじゃないですか。兄上には一、二のたくさんの子どもがいるし。義姉上、美人で優しいですね。側室方とも仲良くやっているし、俺、いらないでしょ」

「必要だ! お前がいるから、私は頑張れたんだ。お前が前線に行ってくれたから、私は妻と子を持てた。お前が犠牲になったから、私は無事だったんだ!?」

「アランが言ってたんだ。俺は妖精憑きだから、何でも願いが叶うって。俺の願いはなんだ、て聞かれた時、考えたのは、兄上と王妃様が幸せになることと、王国が平和になることだけだった。だから、俺の願いは叶ってる。それでいい」

「………」

「せっかくだから、休ませてよ。どっかいいとこ空いてない?」

 兄上が泣くので、仕方なく、譲歩した。俺、意外と幸せなんだけどな。






 空いている、というか、そこはどうしても王族の誰かが行かないといけない、といことで、王都の神官長ポストを拝命することとなった。

「いいか、毎日でなくていいから、王宮に顔を出すんだぞ」

「なら、王宮のほうにも仕事置いといて。やっとくから。あ、教会のほうにも仕事送ってよ。でないと、神官長の仕事しかやってない、と言われちゃうから」

「仕事なんて、もうしなくていい」

「やらせてよ。俺、前線に行ってる時、酒飲んで、賭け事やって、部下から金巻き上げてただけだから」

「………わかった」

 不承不承と、兄上は王族の仕事をまわしてくれた。まあ、まだ、王位継承権残っているので、やらなきゃなんないけど。

 ゆっくりしていってほしい、と言われたが、王宮は女が多い。不思議と、吐いたり倒れたり、ということはなくなった。びっくりだ。十年も女断ちすれば、治るものか?

 だが、悪い遊びを教えてくれた部下たちと娼館に行ったが、全く役立たずだったので、やはり王族の役目は全う出来ない。

 そうして、ダメ王弟殿下となった俺は、神官長となった。

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