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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
23/67

停戦協定、再び

 公国側は内も外もズタボロだった。一部は過激にも、戦争を推し進めようとしていたが、大半は、戦争反対だった。

 王国側は、戦争なんてしたくない、とずっと言っているので、数の勝利である。

 けが人だった捕虜も返還し、亡くなった公国側の兵士の掘り出しも出来るだけ手伝って、だいたい終わっていた。

 テーブルにつくのは、王国側は俺とアラン、あとは王都から急遽呼び出された文官の皆さんだ。公国側は、選ばれたらしい代表者たちである。その中に、例の裏切者がいた。

「なぁんだ、あんた、戦争戦争って言ってたのに、兵士として参加しなかったんだ」

「妻と娘を返さない野蛮な国は、滅んでしまえばいい!!」

「言っとくが、野蛮な国だけど、戦争したいなんて思ってもいない。野蛮じゃない国は、戦争したがってばかりなんだな。五年前からずっと言ってる。王国は戦争なんてしたくない。戦争したいのは、公国だ。戦争戦争言ってるやつがここで偉そうにふんぞりかえって、戦争したくない俺たちが前線に立ってる。おかしな話だな」

「そのことは、我々公国のほうが間違っていた。改めて、謝罪する」

「停戦協定は王国有利で進めさせてもらう」

「もちろん。しかし、無茶なことは、こちらも了承しかねる」

「簡単だ。停戦期間は、俺が生きている間とする。国交は絶対にしない。領土の境界は今と変わらない。以上だ。はい、あとはまかせた」

 呆気にとられる公国側。もっと不利な協定となってもおかしくなかったが、そうではなかったことに、考えがおいついていないのだろう。

 アランは、まだ、他にあるらしく、そこのところを文官とつめていた。どうせ、雪の下に埋まっている鉄の馬とか空飛ぶ鉄の鳥が欲しいのだろう。わかっていたので、文官には先に伝えてある。好きにやってくれ。

 戦後処理はまだまだ残っているので、北の砦から移動するのは、たぶん、一年以上かかるだろう。そんなことを考えていると、例の裏切者が追いかけてきた。

 俺一人で行動しているので、力づくで捕まえられる。

「お願いだ、妻と子どもを返してほしい」

「お前、その執着のせいで、どれだけの公国民が死んだか、わかっているのか?」

 俺は裏切者を心底、蔑んだ。女子供と多くの公国民を天秤にかけて、どっちが重いかなど、わかりきっている。

「だから、話し合おう。公国では、話し合って、解決している」

「知ってる。だから、話し合わない。最初から、同じ土俵じゃないのに、話し合えるわけないだろう。だいたい、お前はわかっているのか?」

 俺は裏切者にだけ聞こえるようにいう。

「俺は、お前が戦争賛成派を煽るように、わざと、お前一人で公国に行かせたんだ」

「い、言っていることが、わからない」

「裏切者は、お前だけじゃない。他にもいたんだ。そいつらは、根無し草みたいな、弱点を作らない生活をしていたから、そのまま監視だけにした。お前だけなんだよ、家族作ってたのは。だから、お前を公国に返還した。俺としては、感情的なことはしないでほしい、と願っていたが、あんたは感情的に行動した。結果、五年で戦争勃発だ」

「戦争反対じゃなかったのか!?」

「父上みたいに、一回で終わらせる自信があった。こんな雪山じゃなくても、春でも夏でも秋でも、一回で公国を敗戦国にしてやったさ。俺はね、どっちが死んでも良いなんて思っていない。けど、それを理解出来ないバカがいる。お前だよ。せっかくだから、戦争賛成派を一掃したかった。なのに、戦争賛成派は後ろで旗振ってるだけだなんて、笑えるな。二度と家族のことを口にするな、卑怯者」

 裏切者は、足から崩れ落ちた。






 人の心を傷つけるのは、精神が疲弊するという。人の機微にうとく、何かがかけているといっても、俺もまだまだ成人前の子どもである。

 停戦協定は、文官たちとアランによって、しっかりと文書によりまとめられて、終了した。あの裏切者は、始終、静かだったという。

 部屋に一人でいると、どっと疲れた。寝心地最悪なベッドも五年も使えば最上級である。こういうところ、もっと金使えばいいが、代々の王族は、長期間の滞在をしなかったようだ。

 横になって、ふと、発見した聖域に思いを馳せる。ずっといたくなるほど、気持ちのよい場所だった。王国にある五つの聖域に足を運んだことがあるが、この北の山奥の聖域ほど、静謐な所はなかった。たぶん、人の手が全く届かない所にあるため、削られるものがなかったのだろう。

「もう、疲れた」

 公国を煽って、王国側の被害を最小限にする戦争のために、時間と精神を削った。王族だから、まだまだ北の砦ではやらなければならないことが山もりである。王都のほうは、時々、報告があるが、問題なさそうなので、心配はしていない。

 目を閉じると、聖女のことが頭に浮かぶ。

 いや、眠ったのだろう。聖女の膝枕で俺が寝てる。見上げると、慈愛に満ちた聖女の笑顔が向けられ、優しく頭を撫でてくれた。夢にしては、気持ち良い。

 そうして、夢の中でまた眠った。


 辛い、と思った時は、必ず、聖女が夢に出た。

 逆に辛い時は、ワクワクして眠るようになってしまったので、聖女がだんだんと夢に出てこなくなった。

 辛くなるのは、難しい。

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