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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
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停戦協定五年後

 停戦協定は五年続いた。五年間で、色々と悪い遊びも覚え、自分のことも”私”から”俺”というようになった。俺と言ったほうが、距離感が近くなったような気がした。”僕”は、お上品すぎて、前線では不向きだった。

 何かと言いがかりをつけて、とうとう、停戦協定も五年が経った。こちらからは、何も言いがかりはつけていない。真っ白である。

 真っ黒まではいわないが、灰色の公国側は、情勢が変わっていた。最初は、戦争反対を占めていた使節団も、戦争賛成が半分になり、最後には、戦争反対がぽつぽつと発言力をなくしていた。

 その使節団の中には、例の裏切者がいた。すっかり、身分も高くなってきたようだ。よほど、家族を取り返したいらしい。

 停戦協定が五年で終了。即、戦争が始まる。

 相手側は戦うための武器を全て集結させたようだ。歩兵から、鉄の馬、空とぶ鉄の鳥がとんでいる。

「王弟殿下、終了しました!!」

「ご苦労。今年は雪がはやかったですね」

 公国側は、豪雪地帯となった戦場にかまわず、戦力を投入してきた。吐く息が真っ白でびっくりだ。戦争って、もっと勝ちやすい時にやるものだろう。

 しかし、科学の力とやらは、それすらも打ち勝てる自信があったのだろう。

 それを示すかのように、鉄の馬からドーンとものすごい轟音を立てて、何かが打ち出された。それは、砦の一部を破壊する。

「よし、先制攻撃がきた。アラン、やってしまえ」

「はっ」

 俺が命じれば、俺に従っているらしい妖精がアランの命令で動き出した。


 雪山全体が、ゴゴゴゴ、と大きく揺れた。


 途端、雪崩が起きた。雪崩は、歩兵だけでなく、あの鉄の馬を飲み込み、空飛ぶ鉄の鳥まで襲った。

 あまりに大きな雪崩に、砦も危ないような気がしたが、何故か、砦の手前で雪崩はぴたりと止まった。

 山肌が見えるようになるほどの雪崩がおさまった時、景色が雪だけになってしまった。

「これから、人道支援に入る! 全員で、助けるぞ!!」








 こうして、大量の捕虜をゲットしたのだが、生きている者よりも死んでいる者のほうが多かった。五体満足の者を使者として公国に送り出してみれば、次の日には、また、大きな鉄の馬がやってきた。また、戦争するのか、と警戒していたが、白旗を掲げていた。

 鉄の馬の中には、医者や看護師がいた。医者は、何やら鉄のかたまりをいっぱい砦に持ち込んだ。体が無事な公国側の兵士も手伝ったが、王国側は手伝わなかった。

「手伝ってくれないのですか!?」

「我々は、その道具を知りません。壊れたりしたら、せっかく助かる命も助けられなくなります。だから、的確な指示をしてください」

 非難されて、王国側の兵士が怒り出す前に、俺が指示をする。文化水準が違うのだから、理解してほしいものだ。

 公国側では、王国のことをどう伝えているのだろう? ふと思うが、今は、そんなことを聞いている場合ではなかった。






 

 治療は全て、公国側にまかせ、手が空いている者は、砦の修復や、被害状況の確認をした。王国側は、最初の一発で、けが人が出た。見に行ってみれば、あの、浮気はする、酒は飲む、賭け事はする、借金はする、のダメ男代表の兵士である。

「また、運がない所の配置だったなー」

「急にくるので、避けられませんでした」

「まあ、これでお前が未来の借金まで払えるぐらいの報奨金が支給されるから、奥さんとゆっくりしろ」

「え、マジですか?」

「けが人、お前だけだから。俺からちゃんと手続きしてやるからな。あと、俺に負けた分の借金もチャラにしてやる」

「やったーーーー!!!」

 大喜びである。怪我の功名だな。

 そうして、声をかけて、砦を出て、山肌がむき出しとなったある一か所に向かった。

 それまで、雪やら木々やらで見えていなかったのだが、ある場所に、洞窟が見られた。そこで斥候行為なんかされていたらたまったものではないので、俺とアランで見に行くことにした。

 本当は、別の兵士に、という話も出たが、アランがそれを却下した。どうやら、妖精様案件らしい。

 こんな大敗をした上、公国側では、原因不明の病気が流行しているので、次の攻撃はなかった。それでも、雪に隠れるような白を貴重とした外套で、周りを警戒しながら、洞窟に入った。

 外は雪で寒いというのに、洞窟の中は寒くも暑くもない。

「こんな所に聖域か」

 その洞窟は、北の山の聖域だった。これまで知られなかったのは、公国側の領土だったからだろう。公国の情報など、ほとんど集めることはないので、聖域のことなど、全く忘れていた。

 公国だって、元は聖域を崇め奉った小国たちである。

「なるほど、公国としては、この聖域を潰したかったのでしょうね」

 公国が帝国に大敗したのは、聖域を乗っ取られたからだ。公国は昔、聖域信仰を手放したが、聖域はそのまま放置していた。別に悪さをするわけではなかったので、聖域はうんともすんとも反応しなかったという。その聖域を帝国側が活性させ、乗っ取ったのだ。聖域の力は、科学を拒絶し、結果、公国は領土を捨てるしかなかった。

 その出来事は、公国側ではよい勉強となったのだろう。王国側の公国は、かたっぱしから聖域を破壊した。

 しかし、人の手がどうしても届かない所もある。それが、今、俺たちがいる聖域だ。

 本来なら、破壊しなければならなかったが、山の奥に守られるようにあったため、破壊出来なかったのだろう。冬は雪山だし、今は雪がかたくつもっているが、この下、雪がなかったら、断崖絶壁だから。

「出入口は一か所だけか。せっかく王国側の領地だし、上から降りられるように、ロープでもつけちゃうか」

「それがいいですね。ありましたよ、聖域」

 真っ白に輝く聖域。場所によって、聖域は形が違う。こちらは岩肌とそこから染み出す水で出来た聖水の泉だ。

『私を見つけて』

 女の声が頭に響く。見上げれば、聖女のごとき女が、ある方向を指さしていた。

 一目見て、心を奪われる美しさと清楚さは、女が苦手な俺でも見惚れてしまう。

『お願い、私を見つけて』

 そう言って、消えた。

「おい、今の見たか!?」

「何がですか?」

 ところが、かの聖女を見たのは俺だけだった。同じ方向を見ていたアランには見えていなかった。

 俺は泉に入り、聖女を探したが、もう、姿を見せなかった。


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