聖女の代理人の義兄
カーテンの隙間から注がれる陽光に目を覚ます。いつもと違う、寝心地の悪いベッドは二人で眠るには狭い。もう一つ、ベッドがあり、おやすみの挨拶時は、一人なのに、朝には二人になっている。
壁際には、見目麗しい女が僕の服を握って眠っている。服で隠れる所には、情痕がいくつも見られる姿で眠っている。
床を見れば、彼女が着ていた夜着が脱ぎ捨てられていた。
またやってしまった。
記憶はある。ばっちりだ。もちろん、誘ってきたのは彼女である。僕は、若い男子として、誘惑に連敗しただけである。情けない。
僕が起きたことで、寒くさせてしまい、彼女は目を覚ます。
「ロベルトお兄様、おはようございます」
聖女のごとき笑顔を向ける彼女。とても、平民とは思えない顔立ちだ。絶対、どこかの貴族の落としだねだろう。
しかし、淑女とはかけ離れている。逃がすものか、とばかりに僕の腰に腕をまわす。
「こら、そういうことはやめなさい。あと、服を着て!」
「いいではありませんか。どうせ、ここでは二人きりですから。誰もきません」
確かに、来たためしがない。
夜、かなり騒がしいと思うのだが、誰も気づいていない。清廉潔白な関係のように、教会の神官もシスターも、孤児院の子どもたちも、僕と彼女を見ている。
しかし、義父母には、バレてる。バレている上に、喜ばれている。
女性としては、まあまあ力はあるが、やはり、騎士としてもそれなりに修練している僕にとっては、彼女の力など、非力でしかない。僕は優しく彼女の腕をほどいて、床に落ちた夜着を拾う。
「僕も明日は殿下について学園に行くのですから、忙しいんですよ」
「休めばいいではありませんか。王様よりも偉いエリカ様が一緒にいたいって、言ってるんです」
「そういうわけにはいきません。僕は、大恩あるリスキス公爵様のためにも、殿下にお仕えしなければ」
「誰が国王になったって、リスキスお父様もリスキスお母様も気にしませんよ。気にしているのは、私とロベルトお兄様の間に子が出来るかどうかですよ」
素っ裸のまま抱きついてくる彼女に、僕は夜着を着せてやる。
「成人前の女性が、そんなことをいうんじゃありません」
「いいではありませんか、ロベルトお兄様の前だけですよ。ロベルトお兄様、公爵様のためにも、子作りしましょ」
全身で誘惑してくる彼女。しかし、昨夜の行為で、すっかりそういう欲望は満たされているので、ひっかからない。
「ふしだらなこと言ってないで、朝の準備をしてください。あなたが作った朝食を食べたいんです」
「わかりました!」
いつものご機嫌とりに、彼女は喜んで、朝食作りのために離れた。
いつまでも、この関係が続けられるとは思っていない。いつかは、この関係に終止符を打たなければならない。
どんなに望んでも、最果てのエリカ様に選ばれた彼女は、最果ての聖域から離れることは出来ない。
リスキス公爵夫妻には、血をわけた小さな子どもがいる。男の子だ。この子の地位を盤石にするためにも、僕は奔走する道を選んだ。それには、いつか、政略的な婚姻も含まれるだろう。
愛しい愛しい聖女に邪まな想いを抱く僕は、いつか、天罰が下る。