騎士団
母の愛を諦め、私は愛情を持って接してくれる王妃様と、次期国王となる兄上のために、騎士団に入ることにした。
王太子の弟が騎士団なんて、と反対されたが、後ろ盾もないし、産みの母は私を嫌っているし、父である国王は愛に狂っているし、と考えると、優秀らしい頭では、この道が正しい、と結論づけるしかなかった。
もちろん、王妃様は大反対。
「いけません! そんな恐ろしいこと。怪我をしたらどうするのですか!?」
「今は国王様のお陰で、戦争がありませんが、それも、どうなるかわかりません。兄上の代わりに、私が戦場に行きます。これも、王族の勤めです」
母よりも母親らしく、泣いて止められただけで、私は幸せだった。
だからといって、第二王子の勉強がなくなるわけではない。私は王太子のスペアであるため、そういう教育も同時進行ですすめられた。
正直、寝る間も惜しんで、頭と体を鍛えるのは、大変だった。
騎士団の団長は、容赦がなかった。やれ、王族がなんだ、みたいに十歳未満の私を容赦なくしごいた。
教師たちも容赦がなかった。進めるだけ進めてしまえ、と王妃様にも言われていたのだろう。宿題の量が半端なかった。殺す気か!
結果、その苦行を乗り越えてしまったので、優秀さとやらに、騎士団も教師たちも嫉妬の炎を燃やすのだった。え、なんで?
時間の合間に、兄上が顔を見せにきてくれた。
「また、すごい宿題だな。私はまだ、ここまで進んでいないんだが」
「すみません、優秀すぎて」
「いい性格してきたな」
「だって、団長も教師どもも、むかつくんだもん。言い返すしかないでしょ」
「どっちか片方にすればいいのに」
「産みの親はあれですが、王族ですから」
「………そうだな」
兄上は慰めるように頭を優しくなでてくれた。騎士団なんて、出来なかったら容赦なく頭を叩くし、教師たちは鞭だよ。兄上、優しい!
この当時、兄上は教師たちに色々と言われていたと思う。そのことを愚痴ったりすることもない。出来た兄である。将来の国王は、こういう人でないといけない。
私はというと、国王には向いていない。愛情も知らないし、人を人と見れていない時がある。優秀ではあるが、感情の上では、非情なのだ。
騎士団でも、教師たち相手でも、駒の取り合うゲームをすると、だいたい、圧勝する。そして、言われる。
「お前は王になるな」
「大丈夫、私は一兵卒を目指します」
分不相応なことは考えない。
騎士団のしごきに馴れた頃だろう。団長が私を修練場から出るように命じた。まだ、打ち合い等が残っているのに、と私がいって続けようとすると。
「誰でもいい、すぐに隠せ」
騎士団員数人が、私を無理矢理、連れ出した。
私と入れ替わるように、一人の騎士が入って、団長と話していた。穏やかな、毒にも薬にもならないような、普通の騎士である。
そうして、団長の部屋に閉じ込められてしばらくして、団長がやってきた。
「すまんな、急に来るというから、こんな対応をしてしまって」
「あの人は、私が会ってはいけない人なんですか?」
「キリト王子、あなたの産みの母の元婚約者だ。俺のところに来たのも、元婚約者を取り戻す手伝いを頼みにきたんだ」
「それじゃあ、会わないほうがいいですね。私は、父にものすごく似ているとか」
産みの母が私を殺したくなるほど、似ている。鏡を見れば、日に日に、あの美貌の国王に似てきていることを実感する。
国王の美貌は他国に届くほどのものだ。その国王に似ているということで、私の婚約者の立候補が後をたたなかった。兄上の婚約者がいないので、全て、お断りとなったが。
母の元婚約者が私を見れば、確かに、ただではすまない。
「あの母も、父から自由になれればいいですね」
心底、そう思った。
団長との話はそこで終わったので、退出した。
これで終わるかと、その日は思った。訓練も出来ないし、部屋に帰ろうと歩いていると、運が悪いことに、件の騎士に出会ってしまった。
まだ、諦めず、隠れていたのだろう。見た目が父にそっくりな子どもに、憎悪の目を向けた。
ああ、これで死ぬのか。
産みの母でのことが頭をかすめた。殺されると、そう、信じていた。
騎士は、足音をたてて、私の前まで歩いてきた。剣の柄に手をかける。私は覚悟を持って、彼を見上げた。
「アンナと同じ目の色だ」
いや、国王である父も同じ色だ。そう思うが口に出さない。
騎士は両ひざをついて、私に頭を下げて、泣いた。この男は、本当に毒にも薬にもならない、平凡な人だった。




