国王の愛妾
国王には、愛してやまない幼馴染みがいた。特に、見目麗しいわけではない。ただ、国王の乳母の娘であるだけだ。
幼馴染みには、結婚を約束した騎士の恋人がいた。いつ結婚するか、騎士がもう少し昇給したら、なんて幸せな未来を家族と話していたという。
国王も、婚約者である侯爵令嬢と結婚し、無事、妊娠が発表された。
もうそろそろ王妃の出産という時、国王は、幼馴染みを離宮へ誘拐した。
国王は、泣いて抵抗する幼馴染みを黙らせ、無理矢理、手籠めにし、愛妾とした。
その日、王妃は無事、第一王子を産み落としたが、それから、国王は王妃と寝所をともにすることはなかった。
泣いてすがる幼馴染み。お願いですから返してください、愛しい人が待っています、と訴えたが、国王は聞き入れない。何度も逃亡を企て、王妃も手伝ったが、国王の手のものは幼馴染みを離宮から出さなかった。
第一王子が一歳を迎えた頃、幼馴染みが妊娠した。
もう、王妃の寝所に行かない国王。大事なスペアである子どもとなり、幼馴染みは離宮から出せなくなった。
幼馴染みは、どうにかお腹の赤ん坊を殺そうとまでしたが、不思議と、そうならなかった。
そして、無事、第二王子を幼馴染みは産んだのだが、その姿に悲鳴があがった。
「いやぁああああーーーー!! 殺して!! あの男に似たこの子を殺してーーーー!!」
生まれた赤子は、国王に瓜二つだったという。まぎれもなく、王族の子だった。
ちなみに、第一王子は、正妃様寄りだった。
生まれた第二王子を国王は正妃にまかせ、また、幼馴染みの寝所通いを続けた。
そういう話を侍女たちから盗み聞きするので、私は見たことしかない産みの母のことは詳しくなった。
愛情はない。見ただけだ。むしろ、育ててくれた王妃様のほうを母と慕っている。優しくて厳しい王妃様。母のことを憎んでもよいのだが、人が出来ているのか、そういうことはしない。
第一王子である兄も、私のことを可愛がってくれる。よい兄だ。だから、私も己の分をわきまえるようにしていた。
「いいですか、キリト。あなたは王太子のサイラスを支えるのですよ」
「はい、王妃様」
王妃様は私に嫉妬してもおかしくない。嫉妬はしていたと思う。
こう言ってはなんだが、兄サイラスは優秀であるが、私はその上をいってしまっている。遅れて教育を受けたのに、私はすでに兄上を追い越してしまっている。
これはまずい、と私は手を緩めようとしたのだが、王妃様がそれを許さなかった。
「王国には、優秀な者が必要です。優秀な者を探すのはとても困難です。それが、王族の中にいるのです。王国のために、その優秀な力を使いなさい」
本当に、できた王妃様である。
王妃として出来た人であるが、母としても出来た人ではあった。だからだろう。それなりに私がよい年齢となった頃、私と産みの母との面談が行われた。
「今更、必要ありません」
「私はお前の母ではありません。お前の母は別です。母と話すことは、大事ですよ」
「わかりました」
王妃様のいうことは、私にとって絶対だった。
「やめたほうがいいと思う」
対する兄上は、反対していた。
「どうしてですか?」
「私は一応、護衛をつけて会ったことがある。とても穏やかで、愛妾に向かない人だ。離宮から出してほしい、と泣いて懇願する、欲のない人なんだ。だけど………」
じっと私の顔を見る。その先を兄上はどうしても言ってくれなかった。
物心ついてからは、本当に初めての産みの親との面会日がやってきた。女性のことは、侍女や王妃様くらいしか知らない。母親とは、王妃様のような人なんだろう、そう想像していた。
先に産みの母は面談の席についていた。確かに、ぱっとしない、普通の女性だ。庭の景色をぼうっと眺めている。
彼女には、侍女だけでなく、女性騎士が周りを固めていた。よく逃げる産みの母だが、男を置くことを国王は許さなかった。
事情は聞いていたが、兄上には優しかったというので、大丈夫。そう思っていた。
「母上」
生まれて初めて、産みの母を呼んだ。
気づいた時は、ベッドの上だった。
私を見た母は、悲鳴をあげ、私の首を絞めた。あまりに突然なことに、侍女も女性騎士も動くのが遅れた。
私と産みの母の面談は、これ一回きりとなった。




