危険だからスピード違反はしない? お前バカか?
私は少し前から電車通勤をしている。名古屋の会社に転職したためだ。転職してからまだ1ヶ月も経っていないのだが、私は駅について1つの気づきを得た。駅が大きくなればなるほど変人がいる確率が高くなっているというものだ。
当然といえば当然だが、私には大発見だった。東京なんて行ったらすごいんだろうなぁ。こわ。
というわけで! 今回はこれまでに見た変人の中で、唯一口喧嘩の1歩手前くらいにまで発展したおじさんとの記録を記していく! 元気すぎるだろって? ごめんね、落ち着くね。
その時私はエスカレーターに乗っていた。大体のところはそうだと思うが、このエスカレーターは人が横に2人並べるくらいの幅だった。なぜか全員左側に立っており、右がガラ空きだったので私は右側に乗ったのだ。
あ、ちなみにここは名古屋駅じゃなくて、私の最寄りの小さい駅ね。まあ人は割といるけど。
エスカレーターに乗りながら、自分の尻にドラえもんの絵描き歌に合わせて非常に剛毛なサメを描いている妄想をしていたところ、いきなり後ろから背中をトントンと叩かれ、知らないおじさんに声をかけられた。
昔から知らないおじさんに声をかけられたら警戒しろと言われて育ったので、私は肘と膝から毒針を生やし、臨戦態勢に入った。
「おい、後ろつかえてるぞ」
なんだこのおっさん。人に話しかける時の態度も知らんのか。心の中でそう思いながら、私はおじさんに優しく言葉を返した。
「エスカレーターでは歩くと危険なので、このまま動かずに行きますよ」
「急いでんだよ!」
「危ないから!」
「あぁん!?」
1歩も引かない私の態度に、おじさんは怒りをあらわにした。お前が間違ってるんだぞ。後ろがつっかえてるんじゃなくて、みんな普通に2列で乗ってるだけだろ。鬱陶しかったので私は前を向いて剛毛マグロの絵描き歌を歌いながらドラえもんを描く妄想をした。
ホームに着くとちょうど電車が来ていたので乗り込もうとしたところ、あのおっさんが私の肩を掴んでこう言った。
「俺は急いでんだよ!」
なんで今言う? 電車来とるやんけ。はよ乗らな。
「それはさっき聞きましたよ。電車来てるんで早く乗りましょ」
「乗らん! お前も乗るな! こっち来い!」
「は!?」
おじさんは私の腕を掴み、冷房の効いた待合室に連れ込んだ。仕事の時間まで2時間以上あったので抵抗しなかったが、展開によっては殺さざるを得ないかもしれないなと思った。
「さて、⋯⋯なんでさっきエスカレーターを歩いて上らなかった」
そんなことかよ。お前急いでるんじゃなかったのかよ。
「何度も言ってますが、危ないからです」
「危ないとかじゃねぇのよ。俺らみんな急いでたんだよ。お前仕事したことないのか? 働いたことないのか?」
「今仕事に向かってたんですが」
この時の私の服装はカッターシャツにネクタイ、スラックスに革靴だった。手には大きなカバンも持っていた。なんで仕事したことないとか思うんだろ。バカなの?
「じゃあ急いでる人間の気持ちは分かるだろ。歩くのはそんなに危険じゃないし、急いでる人の邪魔するほうがダメだろ」
「アナウンスとか張り紙で『エスカレーターは歩かず、立ち止まってお乗りください』って言ってますよ。そんなに危険じゃないとか言ってますけど、エスカレーターでの事故ってけっこう多いですよ? 左側の人にカバンが当たるなんてことも少なくないですし」
「お前さ、そんなの守ってたら仕事間に合わないと思わない? 俺も全く危険じゃないと思ってるわけじゃないけど、お堅いルールばっか守ってる訳にもいかんのよ」
さっきから思ってたけど、なんで初対面の人間に対して『お前』って言えるの? どうやって育ったらそうなるの? と言うと喧嘩になりそうなのでやめた。
「仕事に間に合わないのはあなたが家を早く出ないからです。あと3分早く着いててもエスカレーターを歩いて上るつもりだったんですか?」
「いや、急いでなければ大人しく左側に乗るだろ」
「じゃあ家をあと3分早く出ましょうね。それではさようなら」
ちなみに左側に1列で並ぶと渋滞が発生する。当たり前だけど分かってない人が多すぎる。いつ通るか分からん寝坊助のために何でわざわざ渋滞をしてまで道を譲るんだろうか。
「ちょっと待て! 分かった、今日は俺が悪かった。家を早く出るべきだった。ただ、仕事の都合で急に早く行かないといけなくなったり、そもそも乗り換えの時間が短い場合はどうなんだ?」
なんだこいつ。
「仕事の都合でルールを破って良いわけないでしょ。乗り換えの話は普通に歩いてエスカレーター乗って間に合わないならクレーム入れればいいでしょ。それは電車が待たなすぎですよ」
確かに乗り換えの時間がありえないくらい短い時ってあると思う。なのにエスカレーターでは歩くなって言ってる。おもろい。
「だいたいエスカレーターで走ったところでそんなに変わんないですよ。そういえば、あなたはここまでどうやって来たんですか? 歩きですか? もしそうなら道で走れば良かったんじゃないですか?」
「車だよ」
「ならスピード違反しまくりながらここまで来れば良かったでしょ。エスカレーターで走るよりめっちゃ効果ありますよ」
「いや、警官に止められて余計時間かかるだろ」
「ならバレないように警官がいるかをキョロキョロ確認しながら隠れてやればいいでしょ」
「あのな、バレなきゃ良いってもんじゃないんだぞ? スピード違反はなんでダメか知ってるか? 罰金を取られるからじゃない、危ないからダメなんだぞ」
これじゃまるで私がスピード違反大好きのヤバいやつみたいじゃないか。おじさんに皮肉言ってただけなのに。
「確かに、そうですね。ごめんなさい」
めんどくさくなったので適当に謝ってその場を後にした私であった。おじさんは間に合ったのだろうか。急いでいると連呼していたわりには長々と話していたし、遅刻しているわけないか。
ここからは反省。一応正しいことをしているし言っているつもりだが、これは少し意地悪だったと思う。そう、意地悪。
分かった。私がなぜ頑なに急いでいる人達に協力してあげなかったのか。それは私が意地悪だからだ。
その時は自分が正義感の強い人間だと思って言い合いをしていたが、よく考えると私はルールを破る奴が嫌いで、そいつに嫌な思いをさせたかっただけなのだ。
でも、みんなも少なからずそういう所はあると思う。極端な例でいうとヤンキーや暴走族。常々言っているが私はこいつらが大嫌いだ。全員死ねばいいと思っている。何かされたという訳ではないが、『ルールを破る俺カッケェ』的な態度が気に食わない。調子に乗っている姿を見ると殺したくなってしまう。
今回の件はそれの派生のようなものなのではないだろうか。自分はルールを守って立ち止まってエスカレーターに乗っているのに、普段からルールを破っている人間に話しかけられて、イラッとしてしまったのだろう。
基本的に私はルールを破った人間はそれなりに酷い目に遭わないと割に合わないと思っているので、こういうエッセイを書くといつもこんな話に落ち着いてしまう。悪いことではないが、私がサボっているみたいでなんかヤダ。
おじさん、もしあなたがこれを読んでるなら私に連絡をしてほしい。悪いことをしたと思っているので直接謝りたいのだ。え? もう会いたくないって? そうか、残念⋯⋯
ほら、サービスするよ? チラッ チラッ
ふふ、おませさんなこと。さぁ、おいで⋯⋯
オラァ!(っ・д・)≡⊃)3゜)∵
まんまと引っかかったな!( '-' )ノ)`-' )ぺし
ルール破る奴は嫌いなんじゃい!(っ・д・)≡⊃)3゜)∵
『エスカレーター』を『エレベーター』と何回も書き間違えました。まだ残ってるかもしれません。間違い探しみたいで面白いですね。