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隙あらば修羅場

「というわけでやってきました。ウォーターパーク、アトランティス!」

「いぇ~い!」


 白崎の言葉に西園寺が飛び上がる。


 そういうわけで次の休日、俺達はバスを乗り継ぎ、白崎がネットで調べた屋内プールのあるレジャー施設に遊びに来ていた。


 海じゃないのには理由がある。第一に、海開きにはまだちょっと早い。第二に、白崎もそれは分かっているから、海は夏休みに行くとして、その為の準備をしたかったらしい。で、これが一番の理由なのだが、俺は正直に泳げない事を白崎達に伝えた。変な見栄を張っても当日に恥を掻くだけだからな。折角みんなで海に行って泳げませんじゃ悪いだろ。


 そしたら西園寺も泳げない事が判明して、だったらプールで泳ぐ練習をしようという事になったのだ。


「う~……もっと早く言ってくれればダイエットしてきたのに……」


 いつもなら白崎と一緒にはしゃいでいる筈の一ノ瀬は浮かない顔だ。

 どうやら太った事を気にしているようで、水着姿を隠すように小さくなってもじもじしている。


「な、なんだよ黒川、ジロジロみんなし! どうせあたしはデブの黒豚だし!?」


 涙目になって一ノ瀬が睨んでくる。そんなつもりはなかったのだが、そう言われても仕方ない。今まで俺は、こいつにだって酷い事ばかり言ってきた。女の子にデブとか言うなんて最低だ。というか、女の子でもなくても人の身体的特徴を悪く言うのはよくない。俺自身、この顔の事で散々嫌な思いをしてきたのだから。


「……そんなんじゃねぇよ。その、別に一ノ瀬は、そんなに太ってないだろって言いたかったんだ……」

「はぁ? 嘘つくなし! 実際体重増えてるんだから太ってないわけないし!」


 嫌味だと思ったのだろう。一ノ瀬が悔しそうに唇を噛む。ほらな。俺はいつもこうだ。たまに素直な事を言ったって信じてなんか貰えない。……と、それまでの俺なら秒で拗ねていただろう。


 けど、冷静に考えれば、それは俺が悪いのだ。オオカミ少年と同じで、いつも意地悪ばかり言っているから誤解されても仕方がない。信じて欲しかったら、その為の努力をするべきなのだろう。


「……まぁ、そうだけど。一ノ瀬は別に、ちょっとくらい太ってても変じゃないっていうか、似合ってる……じゃなくて……その、可愛いんじゃないか?」


 こんな時、やはり俺はどう伝えればいいのかわらかない。

 とにかく必死に言葉を探して、どうにか出てきたのがそれだった。


 ……え。俺、なに言ってんだ!?


「……は、はぁ!? い、いきなりなんだし!? いいいい、意味変わんないし!?」


 気が付けば、一ノ瀬は真っ赤になって慌てていた。

 それで俺も真っ赤になって慌ててしまった。


「ち、違う! 別に変な意味じゃない! 普通に可愛いと思ったからそう言っただけで」

「だぁ!? やめろってば! 黒川にそんな事言われたくないし!?」


 照れた一ノ瀬が耳を塞ぐ。俺だって変な事を言ってしまった自覚はある。けど、仕方ないだろ!? 実際一ノ瀬は可愛いし、グラマー系だからちょっとくらい太っても変じゃない。男子の目線かもしれないが、まぁ、色々と魅力的には見えるのだ。


 と、そんなやり取りをしていると。


 バチ~ン! いきなり白崎に思いきり尻を引っ叩かれた。


「な、なにすんだよ!?」

「なにすんだよじゃないんだよ! なんでアンちゃんにまでデレてるの!? それは違うじゃん! しかも可愛いって! そんな事、あたしだって言われた事ないのに!?」


 ふくれっ面の白崎が迫って来る。


「で、デレてないだろ!? 本当の事を言っただけで――」

「あーもう! やめろってばぁ!?」


 一ノ瀬が悲鳴をあげるが、だって本当なんだから仕方ない。多分普通の男子なら誰だって、一ノ瀬の事は可愛いと思うはずなのだ。多少太った所で変わりはないだろう。そいう事を言いたかったのだ。


「じゃあなんであたしには可愛いって言ってくれないの!? 学校一の美少女だよ!」

「い、言っただろ……」

「言ってないよ! 一度も!」


 ……まぁ、言われてみれば、口に出して言った事はなかったかもしれない。


「……心の中ではずっと思ってたよ。当たり前だろ。学校一の美少女なんだから……」

「じゃあ言って。アンちゃんより私の方が可愛いって言って! 今言って!」


 ……いや、それはどうかと思うが。

 ……元を正せば、俺はこいつにだって大勢が見ている前でブスと言ったのだ。

 だからまぁ、訂正するには良い機会だろう。


「一ノ瀬よりかは分からないけど、白崎も可愛いよ。これでいいか?」


 バチ~ン! フルスイングで尻を叩かれる。


「でぇ!? なんでだよ!?」

「なんでだよじゃないんだよ! 私は黒川君の一番になりたいの! も、じゃいやなの! が、がいいの! 彼女なんだよ! わかるでしょ!?」


 わかんねぇよ!

 ……いや、まぁ、それは嘘なのだが。


 学校一の美少女だ。白崎なりのプライドがあるのだろう。

 でもなぁ……。


「いや、あたしの顔色伺わなくていいから! どう考えたって桜の方が可愛いだろ!? あぁあもう!? 桜もそんな顔で見ないでよ! あたしは悪くないでしょ!?」


 ……だって、女の子に見た目で優劣をつけるのはよくない感じがするし。

 でもまぁ、一ノ瀬が気にしないのならいいのだろう。


「わかったよ。認める。白崎が一番可愛い」

「……本当にそう思ってる?」


 珍しく、不安そうに聞いてくる。


「学校一の美少女様だ。最初からずっと、俺はそう言ってたと思うんだが?」


 うるうるのジト目で睨んでいた白崎が、ゆっくりと沸騰するように赤くなった。


「…………もう。バカ」


 そして、どこか拗ねたような、けれど満更でもないという顔をして、ペシっと俺の腹筋に拳を当てる。


 ……当然可愛い。当たり前だ。学校一の美少女なんだから。


「いでぇええ!?」


 今度は一ノ瀬に尻を抓られ、俺は思わず飛び上る。


「なんなんだよ!?」

「……わかんないけど、なんかムカついたから……」

「はぁ!?」


 呟く一ノ瀬は自分でもわけがわからないという顔だ。


「……まさかアンちゃん、黒川君に嫉妬したわけじゃないよね?」


 言われた一ノ瀬は目に見えて慌てていた。


「ち、違うって!? あたしは桜一筋だから!? そんなわけないじゃん! 変な事言わないでよ!? もう! 黒川のせいだからね!」


 声を裏返らせると、素足でげしげし俺を蹴る。


「うぅぅ……まさか黒川君がここまでデレるなんて計算外だよ。このままじゃガチのハーレムルートに入っちゃうし、アンちゃんとの付き合い方も考えないと……」

「違うんだってばぁ!?」


 そっちの痴話喧嘩は管轄外だ。

 ともあれあいつらに痛めつけられた尻を撫でていると。


 蚊帳の外だった西園寺がとてとてと歩いてきて、期待するような顔で俺を見上げる。


「ボクだってかなり可愛い部類だと思うのだが?」

「……あぁ、お前も十分可愛いっての」


 こいつの場合はマスコット的な意味でだけどな。


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