ドラゴンを狩ってお米を育てるゲーム
「ぱぱ~ん。なんと今日は、玲君にプレゼントがあります」
夕食後、デザートに洋ナシのタルトを食べていると、母親が言ってきた。
ちなみに現在、我が家では玲君祭りが開催中で、リビングは誕生日みたいに飾り付けられている。頭上には玲君祭り開催中の横断幕と共に風船が浮かび、壁や天井を電飾やカラフルな装飾品がごてごてと彩っている。
俺は大丈夫だと言ったのだが、母親がどうしてもやりたいと言って聞いてくれなかった。それでも一応俺の意見を受け入れて、かなり控え目な祭りになっている。
「ありがとう、母さん。でも、なんで急に?」
渡されたプレゼントは板チョコを二回り程大きくしたような形をしてる。
「だって玲君、最近ゲーム部のお友達と放課後に一緒に遊んでるでしょう? お母さん、嬉しくって。みんなで遊べる流行りのゲーム買って来ちゃった」
「……わーい。嬉しいな」
ありったけの演技力を総動員して俺は言った。
超科学部の掃除を始めて数日が経っている。
まさか、催眠アプリを持っているという疑惑を払拭する為に、わけのわからないバカのバカみたいな部室を掃除しているなんて言えるわけがない。
だから俺は、いつも一緒にゲームを遊んでいる友達に誘われて、ゲーム部に遊びに行っているという事にしていた。
あまり上手い嘘とは言えないが、そもそも俺は嘘が得意じゃないし、後で母親にあれこれ聞かれた時の事を考えると、ボロの出なそうな言い訳はゲーム部くらいしか思いつかなかった。幸いうちの学校にはゲーム部が存在するし、これなら普段から白崎達と話しているから、話を作りやすい。実際それは上手くいっていたのだが、こんな事になるとは思わなかった。
とりあえずプレゼントを開封する。
中身は大人気アクションゲームの最新作、ドラゴンハンターライスの続編である、ドラゴンハンターライスブレイクファーストだ。
「わぁ! ドラハンだ!」
やばい、普通に嬉しい!
ドラハンには色々と思い出がある。前作のライスは中学生の頃に大流行りしていて、ボッチの俺はクラスの連中が話しているのを聞いて羨ましくなり、母親と一緒に遊んでいた。
本来俺はアクションゲームは得意ではないのだが、本作はライスというだけあって農業要素が充実していて、狩りそっちのけで農業ばかりやっていた。
あと、このゲームには相棒に猫と犬を連れ歩けて、これがまた可愛いのなんの! 着せ替え要素も充実していて、沢山の猫と犬に囲まれて、幸せモフモフライフをエンジョイしていた。
メインとなるのはドラゴンを中心とした魔物狩りなのだが、そちらはほとんど母親任せだった。このシリーズは母親が学生の頃から続いていて、全作プレイ済みらしい。
「お母さんこう見えて、プロハンだから。玲君には爪一本触れさせないわ」
というわけで、俺は愛犬のインターセプターに跨り、広大なフィールドを愛猫のライオンハートと一緒に駆けまわって素材を集めまくった。
その間に母親は剣を振り、矢を放ち、槍で突き、閃光玉で落下させ、罠にかけて捕獲する。
俺がドラゴンの所に行くのは、母親が切断した尻尾を剥ぐ時くらいのものだ。
流石にそれだけでは申し訳ないので、俺は農場で育てたレア素材を母親にプレゼントし、装備強化に貢献した。
「ありがとね玲君。お母さん、こういうチマチマした作業が苦手だから助かるわ」
たかがゲームと言えばそれまでなのだが、母親の力になる事が出来て、俺は鼻高々だった。母親は物凄いゲーマーなのであっと言う間にクリアしてしまったが。また母親とあの頃のように一緒にゲームが出来ると思うと、素直に嬉しい。
「これならお友達と協力して盛り上がれるでしょ? 人気の作品だから、ゲーム部の子なら持ってると思うし。もし持ってなかったら、その子達の分も買ってあげるから、玲君が先輩ハンターになって色々教えてあげるといいんじゃないかしら?」
「大丈夫だよ。あいつら多分、持ってるから」
丁度最近その話で盛り上がっていたのだ。どうやら白崎はかなりのドラハン好きらしく、夜のゲームタイムが終わった後に一人で遊んでいるらしい。で、掃除そっちのけでみんなもやろうよとしつこく誘ってきていた。
一ノ瀬は渋っていたが、どうやら前作も白崎に誘われて一緒にやっていたらしい。西園寺は未プレイのようだが、「友達と一緒にゲーム……ま、まぁ、白崎君がどうしてもと言うのなら、付き合ってやらない事もない」とツンデレみたいな事を言っていた。
俺もちょっと興味はあったが、アクションゲームは苦手だし、ゲームの上手い白崎にマウントを取られるのが嫌で、考えといてやると答えを保留にしていた。
……まぁ、別にあいつらとゲームをしたいわけじゃないが、折角母親がプレゼントしてくれたわけだし。ゲーム部で遊んでいるという嘘をもっともらしくする為にも、実際にゲームをするのは有りかもしれない。
そうとも。これもすべて、母親を安心させる為だ。
……しかし、うーむ。気になるのはやはり白崎だ。戦闘狂の白崎だから、きっとドラハンも上手いに違いない。既に結構やり込んでいる雰囲気を出していたし。
「私がキャリーしてあげるから、赤ちゃんハンターの黒川きゅんは見てるだけで大丈夫だよ?」とか言ってきそうだ。
「どうしたの玲君? なにか心配事?」
「心配事って程でもないんだけど。友達に一人、物凄くゲームの上手い奴がいてさ。ついていけるかなって」
まぁ、いざとなったらインターセプターとライオンハートがどうにかしてくれるだろう。俺は自分で戦うのは苦手なので、その分お供動物達を最強に鍛えていた。装備も支援型にしていて、俺は魔笛を吹いたりアイテムを使ってサポートする。それで並のボスは倒してくれる。
いわば俺は、ビーストマスターと言った所か。
「そうね……。玲君がお友達に舐められたら一大事だわ。一人で三乙なんかしたら目も当てられないし……。それじゃあ、こうしましょう。お母さんが三日ばかり徹夜でプレイして最強装備を揃えておくわ。これなら赤ちゃんハンターの玲君でもギリギリ三乙は間逃れるはずよ」
険しい顔で母親が呟く。
なんだか悲しい事を言われたような気がしたんだが、気のせいだろう。
母さんがそんなひどい事を言うはずがない。だからきっと聞き間違いだ。
「いいよ母さん。そんなの悪いし。それより俺、久しぶりに母さんとドラハンがしたいな」
「玲君っ……! でも、いいの? 夕飯の後はお友達とゲームでしょう?」
「平気だよ。毎日遊んでるし、学校でも遊んでるんだから」
というか当の白崎が最近はドラハンがしたくて仕方ないみたいな空気を出しているし。
みんなでドラハンをやる事も含めて、後で連絡を入れておけばそれで済むだろう。
「そう? 玲君がいいなら、お母さんは嬉しいけど……」
「いいに決まってるだろ? 久しぶりだし、母さんの戦い方を見て勉強させて貰うよ」
「玲君っ……くすん。よ~し、それじゃあお母さん、頑張っちゃうぞ~!」
母親が嬉しそうに鼻をすする。
そういうわけでその晩は、久々に親子水入らずで遅くまでドラハンを楽しんだ。
「クソドラゴンがぁあああ! ウチの玲君にタゲ向けてんじゃねぇぞゴラァアアア!」
「インターセプター、ライオンハート、久しぶりだな。よしよし、寂しかったか? また一緒に冒険しような。それじゃあまずは、ハチミツ集めだ!」




