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この味は! ………嘘をついている『味』だぜ……

 で、放課後。

 三人で西園寺のいる超科学部にやってきたのだが。


「……いや、おかしいだろ!?」


 いったいどこから突っ込めばいいのか分からない。

 オカルト同好会――大悪魔黒川教同好会とは呼びたくない――と同じで、超科学部も旧校舎の一室にあるのだが、他の部や同好会とは明らかに違う。全然違う。完全に異常だ。


「なんで入口がオートロックなんだよ!」


 というか、この部屋だけ改装されていて、ドアも壁もかなり頑丈で厳重な作りになっている。本来あるはずの窓もなく、巨大な金庫といった感じだ。


「ふふん。それは勿論、ボクが稀代の大天才だからだよ黒川君。この部屋には、僕が発明した驚くべき秘密道具やその試作品、研究データなんかが置いてある。どれもこれも人類にとって大変な価値のある物ばかりだ。セキュリティーに気を使うのは当然の事だろう?」


 得意になって西園寺は言う。

 実際中は、映画やアニメに出て来る秘密の研究ラボと言った感じだ。俺が使っているのよりも立派そうなパソコンが数台に、機械工具の並んだ作業机、なんに使うのかも分からないデカい装置や謎の機械がごろごろ転がっていて、SFの世界に迷い込んだような気分だ。


 まぁ、壁中に貼られたイケメンのアニメポスターやらその辺に無造作に置かれたフィギュアやらでそんな気分も台無しだが。


「回路ちゃんのお家は物凄いお金持で、うちの学校に沢山寄付してるんだって。おばあちゃんは理事メンバーみたいだし、そういうのも関係あるんじゃない?」


 聞いてもないのに白崎が補足してくる。

 きっと有名な話で、知らないのはボッチの俺くらいなのだろう。


「うるせぇ! そんなの興味ねぇし、どーでもいいっての!」


 内心ではかなり驚きだが。

 だからと言ってビビるわけにはいかない。

 ここはガツンとかまして俺の怖さを印象付けておかないと。


「はっ! 理事の孫だからなんだってんだよ! お前みたいな泣き虫のチビ女なんか、怖くもなんともねぇっての! 調子乗んな!」


 睨みつけると、西園寺はビクッとして白崎の後ろに隠れ、「ぼ、ボクだって君なんか怖くないからな!」と虚勢を張った。

 ふっ、勝ったな。


「……それよりさ、この部屋汚なすぎだろ。あたし、こーいうの無理なんだけど」


 ハンカチで口元を押さえて一ノ瀬が呻く。

 突っ込みどころが多すぎて後回しになってしまったが、超科学部の部室はひどい有様だった。床も机も区別なく、難しそうな本や英語の雑誌、やけに薄い漫画本や機械部品、お菓子や食い物の空き箱空き袋、その他諸々の雑多なゴミで埋め尽くされている。中には食べ残しのカップメンやら弁当もあるようで、酷い臭いが充満している。


「仕方ないだろ。ボクは掃除が苦手なんだ。基本的にこの部屋にはボク以外の人間は入れないし、どうしても散らかってしまうんだ」

「天才なら掃除ロボでも作ったらどうだ?」

「もちろん作ったとも」

「作ったのかよ……」


 冗談半分の皮肉半分だったのだが。


「じゃあなんでこんなゴミ箱みたいな感じになってるわけ?」


 本気で汚いのが嫌いなのだろう。ちょっとキレ気味で一ノ瀬が言う。


「自殺したんだ」

「「はぁ!?」」


 物騒な言葉に、俺と一ノ瀬が同時に声をあげる。


「ロボットが自殺? なにそれ! 私、気になります!」


 白崎が目を輝かせて尋ねる。こいつ、絶対サイコパスだろ。


「ふむ。そこまで言うなら話してやろう」


 自分語りが好きなのか、西園寺は嬉しそうに語り出した。


「そもそもの話、掃除ロボットというのは君達が想像するよりもはるかに難解で高度な存在なのだよ」

「短くまとめくんない?」


 苛立たし気に一ノ瀬が口を挟む。

 さっさと終わらせてこの部屋から出たいのだろう。


「無理だ。物事を正しく理解するには相応の手順という物があああああああ! だめ、やめて! そのフィギュアは限定品なの!?」


 ふんどし姿でセクシーポーズを取る筋肉質のイケメンフィギュアの首を折ろうとする一ノ瀬を見て、西園寺が血相を変える。


「短くまとめて」

「ぜ、善処はする! つまり、精度の高いお掃除ロボットを作るには、ゴミとはなにかという事をロボットに学習させなければいけないんだ!」

「そんなの、ゴミはゴミっしょ」

「ふっ。これだから愚民は」

「マジで折るよ」

「やめてってば!?」


 なんか二人で勝手に盛り上がり出したので、俺は適当なテーブルの端っこに尻を落ち着ける。白崎がすすっと隣に座り、聞いてもない事を語り出した。


「黒川きゅんと同じでさ、喧嘩っぽくなってる時ならアンちゃんも知らない人と話せるんだよね」

「……知らねぇし、一緒にすんな」

「あの二人、なんだか友達になれそうな気がするから、黙って見てよっか」


 俺の話を無視して、白崎が勝手な事を言う。

 別に同意したわけじゃない。

 そもそも話に加わる理由がないから黙っているだけだ。


「じゃ、じゃあ、一ノ瀬君にも分かりやすいよう例を挙げよう。君にとって、これはゴミかね?」


 そう言って、西園寺が足元に落ちていた菓子パンの空き袋を拾い上げる。


「どう見たってゴミでしょ」

「君にとってはそうだろう。だが、ボクにとっては違う。なぜかわかるかね?」

「そんなの知るわけないじゃん。なに? ゴミを集めるのが趣味なわけ?」

「はい! 先生! わかりました!」


 元気いっぱいに白崎が手を上げる。

 黙っていようとか言ってたのはなんだったんだ?


「えへ。だって、我慢できなくなっちゃったんだもん」


 呆れた俺の顔色を読んで白崎は言う。

 まぁ、そんな事だろうとは思ったが。

 流石に俺も最近はこの女の事が多少は分かってきた。

 いや、余計に分からなくなったと言うべきか。

 つまりこいつは、めちゃくちゃなのだ。

 言ってる事とやってる事があべこべで、信用ならない。

 嘘つきのペテン師なのである。


「いいだろう。白崎君、答えてみたまえ」


 先生と呼ばれたのが嬉しかったのか、機嫌をよくして西園寺が言う。


「グッズの応募シールがついてるからでしょ?」

「正解だ! 流石は白崎君。ハナマルを上げよう!」


 ニコニコして言うと、西園寺が一ノ瀬に向き直る。


「そういうわけで、このシールを集めると銃砲乱射のコラボグッズが貰えるのだ。ボクはこのシールを集めているから、捨てられては困る」

「そのキャンペーン、先週までだけど」


 仏頂面で一ノ瀬が言う。

 ちなみに銃砲乱射とは実在の銃火器をイケメンに擬人化した大人気コンテンツだ。俺は全く興味がないが、クラスのオタク女子がキャーキャー言いながらシールを集めていたので噂だけは知っている。


「なんだって!? そんな筈は!?」


 西園寺が空き袋を奪い返して確認する。


「あぅ、そ、そんなぁぁ……」


 一ノ瀬の言う通りだったのだろう。涙目になって膝から崩れ落ちる。


「ほら、やっぱゴミじゃん」


 一ノ瀬はほら見た事かと鼻を鳴らした。


「そうだけど、そうだけどぉおお! うぅぅ、くすん……。と、ともかく! ボクにとってなにがゴミかというのは、その時々の状況によって複雑に変化するという事を言いたかったんだ!」

「話長いって。だからなに?」

「ボクはお掃除ロボットに音声認識と高い学習能力を持たせて、実際に掃除をさせながら、ボクにとってのゴミはなにかというのを教えてやったんだ」

「それで?」

「ある時部室に来たら電ノコで自分の身体をバラバラにしていた。机にはオイルで書いた遺書があり、『ワタシジシンガゴミダッタノデス』と。恐らく複雑すぎるゴミの定義に論理破綻を起こしたのだろう。優秀過ぎるというのも考え物だな」


 どこか得意気に西園寺がニヤリと笑う。


「いやそれ、ただあんたの部屋が汚すぎて病んじゃったってだけっしょ。得意気に言うなし。ロボットが可哀想じゃん!」

「うっ、それはボクだって悪かったと思っている! だからお掃除ロボットを作るのはやめにしたんだ!」


 笑ったと思ったらまた涙目だ。

 てか、普通この手の科学者キャラはロボットに心なんかない! とか言いそうだからちょっと意外だ。


「……反省してるならいいけど。とにかく、こんなゴミ溜めみたいな場所じゃ話になんないから! まずは掃除!」

「その必要はない。ボクの発明品の中に汗の成分で嘘を見分けるブローノ君三号という装置がある。人の頭程の大きさだからスペースも取らない。どこに置いたかは忘れたが、なに、十分も探せば見つかるだろう」

「そういう問題じゃないから! 汚いのが我慢できないって言ってんの! てか、あんたもこんな所で研究なんかしてたら身体壊すよ!」

「その点は問題ない。この部屋にはボクの発明した万能空気清浄機が――」


 ドガン!

 一ノ瀬の蹴りに、ごつい作業机の脚がひん曲がる。


「あんたがよくてもあたしが嫌なの! つべこべ言わずに掃除する! じゃないと、その辺に捨ててあるフィギュアの首片っ端からへし折るよ!」

「や、やめてくれ! それに、あれは捨ててるんじゃなくて飾る場所がなくてとりあえず置いてるだけで――」

「そんなの捨ててるのと一緒だから! 埃だらけだし、本当信じらんない! 黒川! ちょっとコンビニでゴミ袋買ってきて! 一番大きい奴ありったけ! 桜は掃除用具借りて来て!」

「おっけ~」


 こうなる事を予想していたのか、白崎が二つ返事で飛び出して行く。


「はぁ!? なんで俺が!」

「あんたの催眠アプリ疑惑晴らす為に来てるからでしょ!」

「そうだけど……いや、やっぱおかしいだろ!?」

「じゃあ帰れば? あたし等はしばらく掃除で忙しいから。西園寺、制服のままだと汚れるから、体操服取りに行くよ」

「ま、待て! ボクは別に掃除なんか頼んでなんかむぁぁあああ!?」

「いいから掃除すんの!」


 西園寺の頬を両側から引っ張ると、そのまま首根っこを掴んで部室から出ていく。


「やあああああ! 黒川君! 助けてくれええええええ!」


 いや無理だろ。

 そんな義理はないとかいう以前に今の一ノ瀬はなんか逆らったらやばい感じだし。

 触らぬ神に祟りなしだ。

 関係ないので俺は帰らせて貰う。


 ……と、思ったのだが。

 一ノ瀬の言う通り、一応は俺の疑惑を晴らす為に来ているのだ。

 その為に超科学部の部室を掃除する必要なんかまったくないのだが、後で恩着せがましい事を言われてもムカつく。


 だから仕方なく、俺は近くのコンビニでありったけのデカいゴミ袋を購入して超科学部の部室に戻った。どうせ一緒に掃除させられる事になるだろうから、体操服にも着替えてある。


「……なんだし。ちゃんと買って来たんじゃん」


 半泣きの西園寺にゴミの分別をさせていた一ノ瀬が意外そうに言ってくる。


「だから言ったでしょ? 黒川きゅんは真面目だから、一人で帰ったりなんかしないって」

「う、うるせぇ! あとで文句言われたら嫌だから付き合ってやるだけだ! 勘違いすんな!」


 くそ! こんな事なら本当に帰ればよかった!


「それより金寄こせ。俺はゴミ袋代なんか払わねぇからな!」


 母親が不必要に沢山お小遣いをくれるから、金には全く困っていないのだが。

 だとしても、財布扱いされるのは絶対にごめんだ。

 もしそんな風に扱ってきたら、その場で縁を切ってやる。


「当然っしょ。お金はきっちり西園寺から貰うし。てか、バイト代欲しいくらいだし!」

「だからー、頼んでないってばぁああああああ! ボクはただ、催眠アプリの秘密を知りたいだけで――」

「寝言は掃除が終わってから聞いてやるし! てかこんなの一日じゃ絶対終わんないから! とりあえず桜と黒川は手分けしてゴミ集めて、あたしは西園寺と分別するから」

「命令すんな!」

「ま、待ってくれ一ノ瀬君! その空き缶はゴミじゃない! コラボ商品で絵が違うから一種類ずつ取っておきたいんだ!」

「もう! そんな事言ってたら片付かないし、同じ奴めちゃくちゃあるじゃん!」

「し、仕方ないだろ! コンプするまで集めたらダブってしまったんだ! 後で整理しようと思ってたんだ!」

「さっきからそんなのばっかじゃん! あぁもう、とにかくいる奴だけ抜いて! 後で綺麗に洗ってやるから! ひぃ!? これ飲みかけじゃん! 最悪、手にかかったし! くっさぁ!」

「問題ない。ここにボクの開発した万能消臭消毒液が」

「……ねぇ西園寺、それってどんな臭いでも消せる奴?」

「もちろんだとも! これは天然由来の――」

「……無視すんなよ」


 一ノ瀬と西園寺は二人でギャーギャー騒いでいて、俺の言葉なんかまるで聞いていない。

 ……別に俺だってこんな奴らと喋りたくなんかないが。

 ……なんかムカつく。

 ハッとして横を見ると、白崎がニヨニヨしながら俺を眺めていた。


「黙れ」

「可愛い可愛い寂しん坊さん。黒川きゅんには私がいるから寂しくないよ?」

「黙れって言ってんだろ!」


 腕を伸ばすと白崎はキャーとふざけた悲鳴をあげてゴミの上を器用に駆け回る。

 そして振り返り、ポーズを取ってニコっと笑った。


「ねぇ黒川きゅん、体操服姿の私どう? いつもと違って新鮮じゃない?」

「うるせぇブス! 黙って掃除しろ!」


 半袖短パンで白い四肢が目に眩しい。はっきり言って超かわいい。だって白崎は学校一の美少女だ。可愛くないわけがない。だからムカつく。大嫌いだ。


「や~ん、黒川きゅんてば照れちゃって、可愛いんだ~。黒川きゅんも全然似合ってなくて可愛いにゃん!」

「ほっとけ!」


 体操服が似合わないのは俺が一番分かってるし、悪口だろそれ!


 ともかく、わけのわからない事に巻き込まれて掃除をする羽目になってしまった。

 まぁ、一ノ瀬の言う通り一日でどうにかなるような汚部屋じゃないから、催眠アプリなんか持ってないと確かめさせるのは暫く先になりそうだが。


 ……あ、やばい。

 帰りが遅くなるなら母親に連絡しないと……。

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