この西園寺回路には『夢』がある!
「……また来たのかよ」
まぁ、来るだろうとは思っていたが。
翌日の事だった。
枯井戸を警戒しての事だろう。今度は昼休みの屋上に来やがった。
「君がッ! 催眠アプリを貸してくれるまで! 付きまとうのをやめないッ!」
西園寺が変なポーズを取りながら言ってくる。
なぜか白崎が「ドッガァァァン!」と謎の擬音をつけていたが、無視だ。
「うるせぇ! そんなもん持ってねぇって言ってんだろ! てか、昼の屋上はカップル専用エリアだぞ! 非モテは帰れ!」
「はわわ! 黒川きゅんがカップルって認めてくれた!」
「認めてねぇよ! ただの方便だ! くっつくんじゃねぇ!」
大喜びで腕にしがみ付いてくる白崎を押し返す。
「ふっ。黒川君、君はボクを誰だと思ってるんだい?」
「枯井戸達に擽られて小便チビってマジ泣きした恥ずかしいアホだろ」
枯井戸からそういう報告を受けている。
流石に可哀想だから黙っといてやれと言っておいたが。
俺が利用する分には話は別だ。
「ち、違う! あれは冷却液だ! 天才のボクは身体の一部を機械化してるから、そういうのが出てしまうんだ! だから恥ずかしくない!」
真っ赤になった西園寺が涙目で言う。
「まぁ、お前がそれでいいなら何も言わんが……」
流石に俺も女子のお漏らしネタをしつこく弄る程鬼じゃない。
「うるさいうるさい! ボクは学校一の天才発明家にして二年三組で一番の美少女、西園寺回路なんだ! だから当然、昼休みの屋上の特殊ルールにも対策を講じている」
「対策って……お前まさか!?」
「ふっ。気づいたかね? そうとも! 今朝ボクはクラスのみんなの前で君の彼女になったと宣言した! よって屋上の特殊ルールには抵触しない!」
「このバカ! なんて事しやがる!?」
マジで眩暈がした。
今でも十分悪魔の二股野郎とか言われてるのに、勘弁してくれ!
「やったね黒川きゅん! 彼女が増え――むぎゅっ」
諸悪の根源の白崎の顔面を思いきり握る。
「誰のせいでこんな目に合ってると――」
「ぺろぺろ」
「うわああああ!? ばっちぃ!?」
白崎に掌を舐められて、俺を慌てて手をはなした。
「ふっふっふ! デビルクロー破れたり!」
「キモい事するんじゃねぇよ!?」
この女、頭がどうかしてるんじゃねぇか!?
いや、してるのだが。それにしたってひど過ぎる。
そんな俺を見て、先程から黙っていた一ノ瀬が羨ましそうに睨んでくる。
どうやら一ノ瀬は結構人見知りらしく、知らない奴がいる時はあまり会話に入ってこない。そんなんだから友達が少ないんだろう。俺も人の事は言えないが。
「てか、いいのかよ白崎! 西園寺が彼女になっても!」
嘘告でも、一応俺の彼女を名乗っている白崎だ。
一ノ瀬の時とは事情が違うし、ここは上手く白崎を利用して西園寺を追い払いたい。
「いいんじゃない?」
「よくねぇだろ!?」
本当にこの女は! そこは嘘でもダメだって言っとけよ!
「なになに黒川きゅん? 私達の関係に知らない人が入ってきたら嫌だって怒ってるの?」
目をキラキラさせながら馬鹿みたいなことを言ってくる。
「ちげぇよ! てか、本当に俺の事が好きなら、こんなの許せるはずねぇだろ!」
「え~別によくない? 回路ちゃんは本気で黒川君の事好きなわけじゃないし。なんか面白そうな子だしさ。黒川きゅんとアンちゃんに友達が増えたら楽しいと思うけど」
「またわけの分からねぇことを! 何度も言うが、俺は友達なんか必要ねぇんだよ!」
「……あたしも別に、桜がいればそれでいいんだけど」
不満そうに一ノ瀬がぼそりと言う。
一ノ瀬的にも白崎とのお昼タイムにこれ以上余計な邪魔が増えるのは嫌だろう。
利用するならこっちだったかという気もするが、借りてきた猫みたいに大人しくなっているのであまり期待は出来ない。
「どっちしろ回路ちゃんはもう彼女宣言しちゃったんだし、どうにもならなくない?」
「そういう事だ。流石は学校一の美少女と名高い白崎君。物分かりがよくて助かる」
西園寺が平らな胸を張る。
「お前はなぁ、どっちの味方なんだよ!」
「私は私の味方だよ? 決まってるじゃん」
あーいえばこういう屁理屈女め!
ムカついて睨むと白崎はやれやれと肩をすくめた。
「アンちゃんもそうだけど、黒川きゅんはもうちょっと友達作った方がいいと思う。そりゃ、私だって黒川きゅんの事を独り占めしたいけど、それじゃあ黒川きゅんの為にならないもん。私は彼女として、黒川きゅんの将来の事を考えてるの。あぁ、私ってなんて出来る彼女なんだろ……」
自画自賛して、白崎はうっとりとため息をつく。
そんなもん迷惑なだけだし、本音を俺を困らせたいだけだろうが!
「それには同意できない。友達なんてあやふやで信用できない存在はボクには必要ない。ボクが求めるのは絶対にボクを裏切らない都合の良いイケメンの恋人だけだ」
西園寺は西園寺でクソみたいな事をクソ真顔で言いやがるし。
「ありゃりゃ。回路ちゃんも相当拗らせてるね。いいでしょう。ここは愛の天使桜ちゃんがまとめて面倒見てあげよう!」
「見なくていいっての! これ以上わけのわからねぇ変態が増えて堪るか! こうなったら、力づくで追い返してやる!」
腕まくりをする俺を白崎が止める。
「まぁまぁ黒川きゅん。ここで回路ちゃんを追い払っても、同じ事の繰り返しでしょ? だよね、回路ちゃん?」
「あぁ。ボクは催眠アプリの秘密を解き明かすまではぜっっっったいに諦めないぞ!」
無駄に力強く西園寺が断言する。
「んな事言われたって、げんに俺は催眠アプリなんか持ってねぇんだ。どうしろってんだよ!」
「だからさ、回路ちゃんが納得するまで、とことん調べさせてあげたらいいんじゃない?」
そして白崎は西園寺を振り返る。
「黒川君が本当に催眠アプリを持ってないって分かったら、回路ちゃんも諦めるでしょ?」
「勿論だとも。そんな事は、絶対にあり得ないがね!」
「……けど、調べるって言ってもどうすんの? こいつ、黒川の携帯見せたくらいじゃ納得しないっしょ」
白崎の後ろで気配を消していた一ノ瀬が言う。
俺もそう思う。どうせ、別の携帯を持ってるんだとか言い出すに決まっている。
「そこはほら、回路ちゃんの力を借りるって事で。天才発明家なんでしょ? そういうのに使えそうな便利な道具、持ってるんじゃないかにゃ~?」
この状況を面白がっているとしか思えない白崎の言葉に、なぜか西園寺がやたらと嬉しそうに言うのだった。
「もちろんだとも!」




