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大悪魔黒川教と黒川十字騎士団

 それから数日、まだ辛うじて残っていた俺のささやかな平穏は完膚なきまでに破壊され、なんとも形容しがたい、歪で異常でイカレたなにかに変容してしまった。


 例えば登校中、見ず知らずの生徒が俺を見つけてこんなやり取りを始める。


「あ、黒川だ」

「バカ! 黒川様だって! 呼び捨てなんかしたら呪われちゃうよ!」

「やば、そうだった。黒川様、ごめんなさい。そして、夏までにかっこいい彼氏が出来ますように」

「あたしも、夏までにあと二キロ痩せますように」


 遠巻きにそんな事を言い合いながら、胸元で手を組んで俺に向かってお祈りを捧げるのである。


 元から悪魔の力だの催眠アプリだのと妙な噂が流れていた俺だ。

 それが、安藤の一件で変な方向に尾鰭がつき、謎の御利益のある悪魔の化身扱いをされている。


 はぁ? なんでだよ!? おかしいだろ! この学校にはバカしかいないのか!?

 と心底思うのだが。


 他人から見れば、俺は醜い嫌われ者の分際で学校一の美少女の白崎とムチムチエッチな一ノ瀬を同時に彼女にしている異常存在だ。


 そこに先日の安藤の騒ぎだ。あのクソバカップルは完全に俺を大悪魔なんたらの化身だと思い込んでいて、自分達が付き合えたのは俺のおかげだと学校中に喧伝し、勝手に大悪魔黒川教同好会を名乗って信者を募っている。


 そんなもん入るバカがいるかよ!? と思ったのだが、どうやら本気でこの学校はバカしかいないようで、既に結構な数の信者が集まり、部への格上げが検討されているとか。


 ……勘弁してくれ。


 俺はただ、誰にもイジメられず、構われず、ひっそり静かに生きたいだけなのに。

 友達なんか必要ない、彼女もいらない、信者なんか冗談じゃない!

 けど、枯井戸と安藤はイカレた狂信者だ。なにを言っても聞きやしない。


「黒川様にご迷惑はかけません。ただひっそりと、皆で集まり黒川様に祈りを捧げ、悪魔の儀式を行うだけですので」


 いやもうこの状況が果てしなく迷惑なんだが?


「そうですよ! 黒川先輩の教えはばっちり僕の魂に根付いていますから! 信者の対応は僕に任せて下さい! 必ずや黒川先輩の闇の威光を学校中、いや、街中に広めて見せますとも!」


 広めんでいい! 頼むから黙っててくれ!

 というか金輪際俺に関わらないでくれ!


「ダメですよ安藤君。志は大きく持たないと。目指すは日本、いえ、世界宗教の座です!」

「そうだね千草ちゃん! 僕、頑張るよ!」


 イチャイチャ、ベタベタ、付き合いきれるか!

 もはや俺の手には負えない。負えるわけがない。

 こんなもん、どうしろってんだよ!?


 だから放置するしかないのだが、サイアクな事に枯井戸はクラスメイトなのだ。

 そういうわけで二つ目の例をあげる。

 わけの分からん連中に四方八方からお祈りされ、げっそりしながら教室にたどり着いた後の事だ。


「キモ川ぁ! この野郎、なにが黒川教だ! 白崎さんや一ノ瀬だけでなく、うちのクラスの枯井戸にまで手ぇだしやがって! 調子に乗るのも大概にしとけよ!」


 今日も今日とて懲りない佐藤が俺に絡んでくる。

 それはいい。むしろいい。

 最初は鬱陶しかったが、今となってはもはや癒しだ。


「……佐藤。お前だけはそのままでいてくれよ……」

「なっ!? わけのわからねぇ事言ってんじゃねぇ! てか、俺の名前は佐藤じゃなくて――」

「佐藤よけろーーーーっ!」


 ゴスッ。

 別人のように冷たい表情をした枯井戸が背後から忍び寄り、例の分厚い魔導書の角で佐藤を昏倒させる。


「佐藤ーーーーーー!?」


 あぁ、俺の唯一の癒し、正しい日常との接点にして常識人の佐藤になんて事を!?


「黒川様に無礼を働く輩はこの枯井戸千草が許しません……」


 黒い炎を瞳に宿し、底冷えするような冷たい声音で呟くと、枯井戸は床に倒れてピクピク痙攣する佐藤にペッと唾を吐きかける。


 そ、そこまでするか!?


 ドン引きして何も言えなくなっている俺を他所に、枯井戸はパチンと指を鳴らす。すると妙な頭巾を被ったクラスの連中が数人集まってきて、佐藤を教室の端に引きずって袋にしだした。


「ちょっと佐藤! なに黒川様に逆らってんのよ!」

「呪われてぇのか! あぁ!?」

「黒川様! バカは我々黒川十字騎士団が処理しておきますので!」


 いやバカはお前らなんだが?

 なんだよ黒川十字騎士団って。

 いや、分かってる。


 ここには黒川教の教祖である枯井戸と黒川教が崇拝する俺がいる。

 だからこの二年一組の教室は、校内で最も黒川教の勢力の強い場所になっている。

 実際、枯井戸のイカレた布教活動のせいで、既にクラスメイトの三割程が黒川教の信者になっていた。


 ……はぁ? バカすぎて、自分で言っていて頭がどうにかなりそうだ。

 けれど、事実なのだ。

 悪魔みたいな顔をした醜い嫌われ者の俺を取り巻く異常な日常。


 もはや俺は、この状況を打開する糸口すら見つけられそうにない。

 なぜ俺ばかりこんな目に?

 理不尽だろ!


「黒川きゅ~ん! おっは~! お、今日も崇められてるね! よ、救いの悪魔様!」

「うるせぇ! こうなったのも、全部お前のせいだからな!?」

「なじぇ!?」


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