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カミングアウト

 翌日から、一ノ瀬は時々屋上での昼食に混じるようになり、一方的に二人目の友達になってやるよと偉そうな事を言ってきた。俺のラインには一ノ瀬の連絡先と共に雑談室という三人用のチャット室が追加された。俺は抵抗したが、二人がかりであれやこれやと言われて仕方なくだ。


 で、そこに一ノ瀬は、一方的に美味そうなお菓子の画像とレビューを貼り付けてくる。俺は無視したが、白崎が昼飯の度に同じ物を用意して、俺がどんな反応を示していたか雑談室に書き込みやがる。やめろと言っても聞きやしない。


 ムカつくので、俺も自分で見つけたおすすめのお菓子の画像を貼るようになった。このままでは、甘党として一ノ瀬に負けているような気がして胸糞が悪い。


 勿論、一ノ瀬みたいにレビューを書いたりなんかしない。俺の選ぶお菓子に間違いはない。そんな事は食えばわかる。レビューなんか書いたら、初めて食べる時のドキドキがなくなってしまう。そういう意味では、一ノ瀬は邪道だし、甘党としても二流だ。


 同じように、夜のゲームにも一ノ瀬が混じるようになった。普段偉そうにしている癖に、一ノ瀬はお話にならないくらいのビビりで、食人族が現れる度にギャーギャーと喧しい悲鳴をあげた。なんなら、無害な動物を見ても勘違いしをして悲鳴をあげる程だ。情けないビビりのヘタレ女なのだ。白崎のゲーム趣味は知っていたようだが、そういうわけで今までは敬遠していたらしい。


 なんにせよ、白崎に便乗して俺を玩具にするつもりだったのだろうが、奴は俺に弱みを見せた。馬鹿な女だ。


「うっさいし! 黒川だってビビってんじゃん!?」

「うるせぇ! お前よりはマシだっての!」

「私的にはどっちもどっちだと思うけど」


 そんな事はない。俺は結構慣れてきたし、大事な畑や牧場を守る為なら食人族とも戦える。ビビり散らかして無様に逃げ回るだけの一ノ瀬と一緒にされては困る。


 一方で、一ノ瀬の参加は俺にとって利点もあった。白崎の注意がそれれば、それだけ俺も楽が出来る。普段は暴力的な一ノ瀬だが、ゲーム内では俺と同じで平和的なプレイを好んでいた。特に一ノ瀬は内装に興味があるようで、俺の作った素晴らしい拠点に様々な家具を置いて可愛らしく飾り付けている。勿論、俺がやった方がもっと可愛く出来るのだが、生憎俺は拠点の拡張や牧場経営でそこまで手が回らない。だから仕方なく、内装は一ノ瀬に譲ってやった。


 一ノ瀬がゲーム仲間に加わった事で、別のゲームをするという選択肢も浮上していた。白崎はこのゲームをクリアするまでは駄目だと突っぱねているが、二対一だ。白崎が折れる日も遠くないだろう。その日に向けて、俺は密かに他の面白そうなゲームを探している。


 別に、白崎の彼氏である事を認めた訳でも、一ノ瀬の友達になったわけでもない。母親の手前、俺は友達と遊んでいるふりをしなければいけない。なら、自分好みのゲームをやった方がマシだ。


 そんな感じで次の週末が来た。


 白崎がまた三人で遊びに行こうと言い出すのではと警戒していたが、そんな事はなかった。どうやら俺と遊びすぎて勉強が疎かになり、親に叱られたらしい。ざまぁ見ろだ。


 俺は久々に白崎から解放されて、丸一日自由な時間を手に入れた。

 白崎のわがままに付き合わされているせいで、やりたい事が溜まっていた。

 今日はその一つを解消する為、一人で商店街に出かけていた。

 以前から目をつけていた、喫茶パルフェで思う存分パフェを食らう為である。


 ……そのはずだったのだが。


「……なんでお前がいるんだよ」


 俺が座ろうと狙っていた一番奥の目立たない席に一ノ瀬がいた。焼きバナナの入ったバタークリームパフェを幸せそうに食べている。前に白崎に連れて来られた時はなかったはずだから、新メニューだろう。超美味そうだ。


「それはこっちの台詞だし」


 一ノ瀬が仏頂面で睨んでくる。

 似たような顔で睨み合うと、俺は舌打ちを鳴らして背を向けた。


「ちょっと待てし! どこ行くんだよ」


 一ノ瀬の手がパーカーの裾を掴んだ。


「……帰るんだよ」

「なんでだよ。パフェ食いに来たんだろ」

「……食う気が失せた」


 一ノ瀬は呆れた顔でため息をつくと、食べかけのパフェに視線を向けた。


「これ、食いたいんだろ? 新メニューの試作だから、普段はおいてないよ」


 ……なん……だ、と……。


「……だからって、お前と一緒に食う必要はないだろ」


 空いている席は他にもある。窓側の席は嫌なのだが、この際仕方ない。


「残念でした。新メニューの試食は常連の特権なわけ。新入りのあんたじゃ頼めないし? けど、あたしのダチなら話は別だし?」


 勝ち誇った顔をすると、一ノ瀬が着席を促すようにテーブルを指で叩く。


「…………断る」


 断腸の思いで俺は言った。焼きバナナパフェは物凄く食べたい。

 だが、一ノ瀬に弱みを見せるのは嫌だ。


「……いや、そんな顔するくらいなら素直に食べればいいじゃん……」


 呆れた顔で呟くと、一ノ瀬は言った。


「じゃあ、こういうのはどう? これは勘違いして襲っちゃったお詫び。それなら文句ないっしょ?」

「金属バットで後ろから襲われたのがその程度でチャラになるかよ」

「あーもー! お前の為に譲歩してやってんだろ! つべこべ言わずに座れっての!」


 ……まぁ、一ノ瀬がどうしても詫びを入れたいというのなら仕方がない。

 俺は鼻を鳴らして席に座る。


「で、他には?」

「ちょっと待て」


 メニューと睨めっこし、俺はその他に気になるパフェを二つ選ぶ。


「――……あと、メロンフロート」

「え? なに? 声が小さくて聞こえないんだけど」

「メロンフロートだよ! 何度も言わせんな!」

「うっさ!? 耳元で叫ぶなし! 別にそんなの恥ずかしがる事じゃないだろ!」


 顔を近づけていた一ノ瀬が耳を塞いでぼやく。

 そんな事言ったって、嫌われ者の醜い俺(高二男子)がメロンフロートなんか頼んだら恥ずかしいだろ! そのくらい理解しろ!

 照れ隠しに、俺は鼻を鳴らしをそっぽを向く。


「……ぷ、くく、てか、その顔でメロンフロートって、ひひ、似合わねぇーっ」


 思い出したように一ノ瀬が笑い出す。

 俺は恥ずかしさで真っ赤になり、一ノ瀬を睨みつけた。


「ひひひ、あは、あはは、だって、本当の事じゃん! そんな怒んなよ!」


 バカにしやがって! だから嫌だったんだ!

 ともあれ、一ノ瀬は俺の分を注文した。


「なにアンナ、彼氏出来たの?」


 注文を取り終わった店員がぼそりと言った。

 いかにも音楽をやっていそうな、ジャラジャラとピアスをつけた紫髪の若い女だ。

 俺と一ノ瀬は同時に吹きだした。


「ち、違うっすよ、真姫まきさん! こいつは桜の彼氏で、ただの友達っす!」

「ふ~ん。アンナに男友達ね」


 真姫と呼ばれた店員が意味深に呟いて俺をジロジロ見る。


「……なんだよ」


 年上でなんだか怖そうなお姉さんだが、その程度でビビる俺じゃない。


「こいつ友達少ないから、仲良くしてやってよ」

「真姫さん!? 余計な事言わなくていいっすから!」


 一ノ瀬に追い立てられるように真姫が去って行く。


「もう、本当真姫さんってば! ちょーハズイんだけど!」

「……誰だよあの女」

「今年卒業したうちのOG。家が近所で、ちっちゃい頃はよく遊んでくれてたの」


 恥ずかしがりながら一ノ瀬は言う。

 なんとなく聞いただけで特に興味はなかったが。

 それよりも。


「お前だって友達少ないんじゃねぇか」

「うっさいなぁ! あたしは少ないだけで、いないわけじゃないし! てか、友達は数より質だし? ボッチの黒川に勝ち誇られたくないんだけど?」

「俺は好きでボッチやってんだ。群れなきゃ何も出来ない雑魚共とは違うんだよ」

「うわぁ……。それ、超痛いから他では言わない方がいいよ?」

「ほっとけ!」

「いやマジで。昔の自分見てるみたいで胸が苦しくなるから……」


 物凄く嫌そうな顔をして一ノ瀬が無駄にデカい胸を押さえる。


「あぁ?」

「あたしもあんたと一緒だったの。クォーターだし、この髪とデカさでしょ? 不良とか言われて怖がられてたの。で、ムカついたから不良ぶって喧嘩ばっか。それで余計に嫌われて一人ぼっち」

「一緒にすんな」


 てか、なんの話だよ。


「まぁ聞けって。桜がさ、あたしら似てるって言ってただろ? あたしも黒川と一緒で、桜に付きまとわれたんだよ。最初はなんか下心があるんだって疑ってたけど、そんな事全然なかったし。むしろ事あるごとに庇ってくれてさ。で、ある日気づいたわけ。桜って超いい奴じゃんって。で、親友になって今に至ると」

「知らねぇよ。なんの話だ」

「お前の話だよ。桜の事、嘘告してるって疑ってんだろ? そんな事ないから。この前のデートで桜が本気だってあたしもわかったし。桜に彼氏が出来るのは嫌だけど……。桜は恩人で親友だから、応援しようって決めたんだ。だから黒川も、桜の気持ちに向き合えよ」


 真剣な顔で一ノ瀬は言う。

 俺は鼻で笑った。


「なにがおかしいんだよ」

「おかしいだろ? 親友とか言って、何もわかってねぇ。白崎みたいな美少女が俺みたいな奴を好きになるわけねぇだろうが」


 一ノ瀬が鼻で笑い返す。


「あたしもそう思うけど、現に桜はその気だし。てーか、あたしみたいな奴を親友に選ぶ時点で、桜はそういう奴が好きって事っしょ。認めるのは癪だけど、全然あり得ない話じゃないし。てか、桜は嘘告なんかするような奴じゃないし」

「そんな話信じられるか。お前が白崎の親友なら、一緒になって俺を騙そうとしてるに決まってる」

「はぁ? なんでそんな事すんだよ」

「面白いからだろ」

「そんなの面白くもなんともないし! てーか、あたしだって男子に嘘告された事あるし! ボコってフリチンにして泣かせてやったけど。だからあたしはそんな事絶対しないし! 勿論桜も!」

「そんなもん、口でならどうとだって言えるだろ。むしろ、余計に怪しいぜ。一千兆歩譲って、もし仮にその話が本当だったとしてだ。俺みたいな嫌な奴を親友の彼氏にしたいとは思わないだろ。つまり嘘って事だ」


 はい論破。


「別にあたしだってあんたを桜の彼氏に相応しいと思ってるわけじゃないし。てか、普通に嫌だし。けど、追い払っても追い払っても湧いて出る身体目当ての猿共に比べたらまだマシだし。てか、桜が選んだんだからあたしの意思は関係ないじゃん」

「はっ! ご立派な友情だな。まるで狂信者だぜ」

「そうだよ」


 俺の皮肉に、一ノ瀬は酷く真剣な顔で返してきた。


「あたしは身も心も全部桜に捧げるって決めたんだ」

「……なんだよそれ。気持ちわりぃ。白崎にどんな恩を感じてるのか知らないが、そこまで行ったら病気だぜ」

「あたしは桜が好きなんだよ」

「知ってるよ」


 うんざりと答える。

 そんなのは誰が見たって分かる話だ。


「中二の時に告白したんだ」


 …………それはちょっと予想外だ。

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