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ダブルデート(女女男)

 そして当日。


「二人とも遅いんだけど!?」


 待ち合わせの駅前についた途端、先に来ていた一ノ瀬に怒鳴られた。


「アンちゃんごめん! お洒落してたら遅くなっちゃった!」


 と、俺の腕にくっついていた白崎が両手を合わせる。


「たかが五分だろ」


 俺は憮然として鼻を鳴らした。


「はぁ? 五分でも遅刻は遅刻だし! 時間守れない奴とかマジ最低だし! てか、二人で来るとか超怪しいし! まさか、昨日からお泊りしてたんじゃないでしょうね!」

「なわけねぇだろ」

「そんなのわかんないじゃん!? やっぱり噂通り、エッチな事してんだろ!」


 時刻は昼時、日曜の駅前だ。辺りは人で溢れている。白崎は超絶美少女で、俺はいつも通りに醜い。そんな二人が腕を組んで歩いていたら、嫌でも悪目立ちする。そこに一ノ瀬がバカみたいなことを叫ぶもんだから、辺りは騒然だ。全方向からあらぬ誤解を向けられて、俺を顔を覆った。白崎も真っ赤になってもじもじしている。


「ほら! やっぱりそうなんじゃん! だめだよ桜! もっと自分を大事にして! ムラムラするならあたしが相手になるから!」

「もー! アンちゃん!」

「違うって言ってんだろ!」


 白崎が腹にパンチ、俺は尻に蹴りを入れた。


「ぐぇ!? なにするし!」


 で、文句を言われるのは俺だけだ。


「お前が変な誤解するからだろ!?」

「じゃーなんで二人して遅刻してきたんだよ! おかしいじゃん!?」


 一ノ瀬が胸倉を掴んでくる。

 言いたくなかったが、こうなっては仕方ない。


「俺が職質されてる所にたまたま白崎が通りかかったんだよ!」


 そういう訳だった。


 本当なら俺は時間通り着くはずだった。というか、なにもなければ三十分は早く着く予定だった。こんなふざけた茶番なんかどうでもいいが、わざわざ遅刻して責められる理由を作りたくない。


 三十分も余裕を持ったのは、職質等のトラブルを見越しての事だった。予想通り俺は警官に声をかけられた。しかも二回。それで計算が狂った。まさか俺も、家から駅まで来る間に、二度も職質を受けるとは思わない。


 大人しく従っていればそんなに時間はかからなかったのだろう。だが俺は、遅刻しそうになって焦ってしまった。短い時間に連続で職質を受け、ムカついてもいた。そんな態度を警官に怪しまれ、応援まで呼ばれてしまった。慌てる俺をヤク中かなにかと疑っているらしく、署に来て薬物検査をしろとまで言ってきた。俺はすっかり参ってしまった。なんで俺はいつもこうなんだ? これだから外出なんかしたくなかったのだ!


 そこに白崎がやってきた。


「やめてください! その人私の彼氏です! これから一緒にデートする所で、悪い事なんか一つもしてません!」


 三人の警官相手にカンカンに怒って言うのである。で、今度は警官がたじろいだ。白崎の固有スキル、可愛いは正義が発動したのだ。どれだけ俺が言っても信じなかった警官が、白崎の言葉ならすんなり信じた。あっと言う間に無罪放免だ。それだけでは白崎の気は済まず、大の大人に頭を下げさせ、二度とこんな事が起きないよう他の警官にも情報を共有しておくように! と釘までさした。そんな事、俺がやったら公務執行妨害で逮捕されてもおかしくない。


 で、仕方なく礼を言ってやったら「黒川きゅんがお礼を言った!?」とかバカにしてきて、「じゃあお礼に、腕を組んで貰おうかにゃ~」だ。性悪女の事だから、どうせ他人に俺という玩具を弄らせたくなかっただけなのだろう。それでも借りを作るのは嫌だったから、仕方なく腕を組んで、美女と野獣の見世物になってここまで歩いてきたのである。


「へ? 職質って、マジ?」


 一ノ瀬は目を丸くした。そりゃ、真っ当に生きてたら職質なんか無縁だろう。

 確かめるように、白崎に視線で問いかける。


「それがさぁ、聞いてよアンちゃん。黒川きゅん、お巡りさんにヤク中と間違えられて、身体検査したらさ、白い粉が出てきたんだよ!」

「はぁ!? 白い粉って、どーいう事だし!?」


 一ノ瀬がぎょっとする。


「おい、白崎!」


 黙っていると思ったら結局言いやがるし。

 本当に嫌な女だ!


「いーじゃん! もうバレちゃったんだから! あはは、おかしいんだよ! それがなんと、お砂糖なの! 黒川きゅん、ジャケットの内ポケットにスティックシュガー入れてるんだよ! お巡りさん、紛らわしい事するなー! って怒っちゃって、私おかしくて笑っちゃったよ!」

「そりゃ怒られるっしょ。なんでそんなもんポケットに入れてんだよ」


 呆れた顔で一ノ瀬が言う。


「……うるせぇ。甘い物が好きなんだよ。文句あっか」


 本当はそれだけじゃない。俺にとって、甘い物は精神安定剤なのだ。昔から、辛い事があると母親がお菓子を作ってくれた。その影響だと思う。辛い事、悲しい事、ムカつく事、不安な事、そういった事に圧し潰されそうになっても、とりあえず甘い物を食べておけばある程度は回復する。


 人混み、外出、クソビッチツインズとのデートと、今日はいまだかつてないストレスを感じるに違いない。

 かと言って、ポケットにジャラジャラお菓子を詰め込んで、なにかある度に貪っていたら馬鹿にされる。


 そこで、携帯性に優れサッと一口で摂取できるスティックシュガーを採用したのだ。実際、普段から俺は制服の内ポケットに仕込んでいて、ストレスを感じた時に隠れて食べている。だから今回も持ち込んだのだが、まさかこんな形で露呈するとは。


「あたしも甘い物好きだけどさ、スティックシュガー直食いはしないって。てか、糖尿なんない? 絶対やめといた方がいいと思うけど」


 一ノ瀬は呆れ半分、心配半分といった様子だ。


「ね! 黒川きゅん、面白可愛いでしょ!」


 で、なぜか白崎は自慢げだ。


「……まぁ、いきなりイメージとは違うけど。だからって信用したわけじゃないからな!」

「イメージと言えばさ、黒川きゅん、意外にお洒落さんじゃない? 私、絶対ウニクロのジーンズとパーカーで来ると思ってたよ」

「あ、それ、あたしも思った。なんでボッチのオタク野郎がそんないい服着てんだよ」


 疑わしそうに一ノ瀬が睨んでくる。


 とりあえず、母親の選んでくれた服はウケたらしい。軽い素材で出来たダークグレーのジャケットとくるぶし丈のパンツのセット、シンプルなブイネックシャツと鳥の足みたいなネックレスだ。着慣れない服なので俺的には違和感しかないが、ドヤれるなら文句はない。


 ちなみに白崎は肩を出したフリフリのシャツとチェックのスカート。いかにも男ウケを狙ってますみたいなぶりっ子ファッションなのに可愛く見える所がクソムカつく。


 一ノ瀬は例の子供パンツと同じ大福みたいなウサギの絵がプリントされたデカいパーカーとホットパンツ。ムチムチの長い脚を見せびらかしている所がクソムカつく。


「別に、高校生ならこれくらい当然だろ? てか一ノ瀬、やっぱお前、私服もガキ臭いのな」

「な!? うっさいし! あたしが休みの日に何着ようがあたしの勝手っしょ!」


 一ノ瀬は真っ赤になり、恥ずかしそうに胸元を押さえた。

 はっはっは! いい気分だ。


「ダメだよ黒川きゅん。アンちゃん、黒川きゅんと同じでそういうの結構気にするんだから」

「うるせぇ。お前だって、男に媚びた服着やがって。このビッチが!」

「あは、分かっちゃった? 黒川きゅんにアピールしようと思って、オタク君が好きそうな服買っちゃいました~、ニパ!」


 くるっと回って白崎が笑顔を撒き散らす。


「はぁ? そんな恰好、全然好みじゃねぇっての」


 というか、そもそも俺は女の服になんか興味がない。

 なんなら女にだって興味がない。興味を持った所で痛い目を見るだけだ。


「ぶー! いいもん。次は別の方向で攻めるだけだし! 黒川きゅんが私の為にお洒落してくれたって事だけで十分だし」


 悔しがったのも一瞬で、白崎はすぐに嬉しそうに頬を緩ませる。


「なっ、勘違いすんな! 誰がお前の為なんかに!」

「はにゃ~ん。そんなの完全にツンデレじゃん! か、勘違いしないでよね! って。そんなキメキメの格好で言われてもぜ~んぜん説得力ないし」

「だよな。本気で嫌ならそれこそ適当なウニクロパーカーで来るし。あんだけ文句言っといて、やっぱりお前も桜の事好きなんだろ!」

「ち、違うって言ってんだろ! この服は母親が――」


 あ、やべ。

 慌てて口を塞ぐが後の祭りだ。

 クソビッチツインズは目を丸くしてパチパチさせると、ニンマリと悪魔の笑みを浮かべる。


「おやおや~? 今、ものすご~く聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がしたんだけどぉ?」

「やっぱしな! そんな事だろうと思ったし! てか黒川、高二にもなってママに服選んで貰ってるとか、ガキ臭いのはそっちの方じゃん! やーいやーい!」

「はい黒川きゅん。これが因果応報です。テストに出るので覚えておくように」


 一ノ瀬が勝ち誇り、白崎がしたり顔で人差し指を立てる。


「う、うるせぇ! お前だって母親に変態パンツ買って貰ってただろ!」


 クソ! 俺としたことが、なんて凡ミスを!


「あれは違うじゃん! ノーカンだし!」

「同じだろ! 俺がガキならお前だってガキだ! ざまぁみろ!」


 もう、こうなったら勢いで押し切るしかない。


「はい! 彼女を差し置いてイチャイチャしない! 二人が同じレベルでお子ちゃまなのは私がよ~くわかってるから、その論争はこれでおしまい! それよりお昼! お店予約してるんだから、早くいくの!」


 白崎が間に入って俺達を引き剥がす。


「ぐるるるるる!」

「がるるるるる!」


 白崎もムカつくが、一ノ瀬も同じくらいムカつく。

 まぁ、母親を除けばムカつかない相手などいないが。

 ともあれこうして、忌々しい人生初のダブルデート(偽)が始まったのだった。

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