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滝を叩き斬って懲役50年?

緑豊かな大地に、整えられた立体的な街並み。その両者を照らすのは神秘の光。


「わぁ・・・・・・!」


月の光が照らす夜の静謐に、雑草を踏みしめる音が混じる。黒いパーカーのフードについた猫耳が、ゆったりとした歩調に合わせてゆれていた。

つい先日、この国に辿りついたばかりの少女は、歩みを進めながら、夜の闇の中、宙に浮かぶ魔法の光がぼんやりと草木を照らす様に目を奪われていた。


前に訪れた国はサイバネティック・オーガニズム達からなる軍事国家で、そこでは今も彼女が両腕で大事に抱える抜き身の太刀を巡って、涙ながらに戦いを繰り広げた。一個大隊に包囲され、実験施設で調整待ちの子供達を逃がし、人助けをしたら次々と頼られ寄りかかられ、最後は黒幕が持ち出した機動兵器を生身で斬って捨て、英雄としてもてはやされるところを隠れるように逃げてきた。実はかなり辟易とした。

そんな国に訪れた理由はある人物の最期の望みを果たすためなのだが、それはまた別の話。


景色を眺めながら彷徨う少女は、遠く聞こえる音に導かれるように、観光名所の大瀑布に辿りついた。叩きつけられた水がしぶきをあげ、増幅された月の光を受けて幻想的な虹を作っていた。

そういえばあの国を出て以降、太刀を振っていなかった。戦いは嫌いだけど、少女と太刀は一心同体で、長く振らずにいるのは“申し訳ない”気がするのだ。


「よしっ」


滝の正面から水際に立ち、柄を左手で軽く握り、腰だめに構える。狙いは斜め上方53メートル、水流が段差を超えて落下を開始する地点。息を吸って吐き、目を閉じ、ゆるやかに垂直へと至る軌跡を頭の中に思い描き、


「はっ――――――!」


一息に、溜めた斬撃を解放する。

じゅっ、と規模にしてはやや小さな音。振り抜いた反動で、フードがばさりと後ろに脱げ落ち、ライトパープルのくせ毛の強い長髪が露わになる。

間合いより遠く離れた滝はものの見事に真っ二つに割れ、しかしその先の岩壁には傷一つつけず、


「・・・・・・」


つけず・・・・・・・少女は、何故か振り抜いた姿勢のまま硬直し、10秒、20秒と時間が経過した。頬を、一滴の冷や汗が伝った。


(やってしまった・・・・・・)


今もなお、ごうごうと絶え間なく音を立てる、真っ二つにされた滝。

そう、真っ二つだ。

両断された滝は物理法則に逆らい、叩き斬られた隙間を新たな水流が埋める事のない状態で固定されていた。


外様が景観を破壊した。why?

損害賠償?器物損壊?国家反逆?

修繕費は?何千万クレジット?

そもそも直るの?これ

そうだ!犯人に責任を取らせよう。

探せ!探せーッ!

いたわよ!あっ、逃げた!待ちなさい!!

公務執行妨害及び18の余罪!懲役50年!ドン!


ぐるぐるぐるぐると、瞳の中で器用に逆回転する渦巻き。赤と紫の虹彩異色に、ぶわぁ・・・・・・と涙が浮かんだ。


「ひぃぃぃぃん!!ごめんなさああぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」


頭をかけめぐるネガティブな想像に耐え切れず、少女は逃げ出した。





「・・・・・・」


この出来事を、国全体を俯瞰する神の眼が観察していた。

神は何も語る事なく、それからもただ静かに見つめていただけだった。

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