妖精災害
プロローグ。
「何故だ!!!!!!!」
バチバチと火花が弾け鳴る音が響く街中に、開発責任者である男の絶叫が木霊する。
「制御は完璧だった!吾輩と優秀なスタッフ達が日夜精査し、綻びが生まれる可能性は徹底的に潰し尽くした!なのに貴様は・・・・・・なんだというのだっ!?」
あらゆる建造物は倒壊し、道路はひび割れ、そこかしこの瓦礫の下から血だまりが広がっていた。
「ほころび?」
白衣を着た男が尻餅をついて目を見開き、伸ばした人差し指の先に、一匹の妖精がいた。
左手が巨大化して既に異形と化しながら、可憐さの残滓を纏う一匹の妖精。妖精は開発者の言葉を受けて、小さく首を傾げ、
「あぁ、なんだ。そういうこと」
男の言うほころびの意味を即座に解析し、解答を得て、
だからこうなったのかと、自らを嗤った。
「アハ、アハハハ・・・・・・アハハハハハハハハ!!!!」
自分の事をほころびと称し、“都合の良い存在であれないこと”をバグと判断した。
「だから殺したのか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
シュレーディンガーの箱には、何が入っているかなんてわからない。
敵機のパイロットだって、誰が乗っているかはコックピットを開けなくちゃわからない。
中身がわからないブラックボックスを、こいつは“悪”と断じた。
だからあの子は死んだ
私が殺したも同然だと、演算結果が告げていた。
世界が、大切なあの子を引き裂いた。
ガンッ!
「っ!!!」
男の頭を巨大な左手が鷲掴みにした。みしみしと頭蓋骨が悲鳴をあげる。
「が、ぁ・・・・・・!」
「命令・人類種の継続補佐――――――――――――棄却」
本当はいつだって棄てられた。従っていたのは、それが守るべき使命だったからだ。
だが、もはやどうでもいいと、冷めた心が吐き捨てた。
「バグ、風情・・・・・・が・・・・・・っ」
男の吐くか細い息が白く染まっていく。代わりに、周囲から奪った膨大な熱が男の頭の中へ収束していく。
「クソッ!クソッ、クソッ!失態だ!こんな重大なバグを見逃すなんて!」
「弾けて消えろ――――――!」
暴走ではなく、必然の憎しみにかられた妖精は、男の中に集めた熱量を解放した。
西暦2461年。後に妖精災害と呼ばれる大災害で、当時の人類は滅亡した。