黒死蝶に恋をした
洋館を、見つけた。それは森の奥…というよりかは、少し住宅街と離れた森林の そんな感じのところにあったのだ。大きな洋風な鉄格子みたいな門があり、どこからかフルートの音色が聞こえてくる。蝶が乱れ舞い、絵のような雰囲気を醸し出していた。
「だあれ?」
ふと、少女が話しかけていた。門の向こう側で首をかしげて俺を見上げてくる。
「お客様かしら、?」
「…いいえ、違うよ。」
諭すように優しくその少女に言った。
漆黒の黒髪が綺麗だった、緑の黒髪と言った方が良いかもしれない。日差しでエメラルドグリーンに光って見えた。どこかの異国にでてくる黒死蝶みたいな羽の色をしている、たとえは悪いかもしれないけれど。
「貴方様は、とても整っている顔をしていらっしゃるのね!」
少女は俺に言った。好きになってしまいそうだと、あと 雰囲気が素敵だと。俺の心は少しドキドキしたのを覚えている。
「また、来るよ。」
「えぇ、また来てください!」
彼女とは、1週間に1度逢っていた。塀と門の隔たりがうっとおしかったのを覚えている。
だが、突然彼女は居なくなっていた。逢いに来た時、門が開いていて少し敷地に足を踏み入れたが、屋敷の中ももぬけの空だったのだ。あの日々が夢のように感じた、少女の無垢な笑顔はもう 見られない。そうして月日が経ち、16年が過ぎた。少女の行方は知らない。
16年が過ぎた今、また あの場所 へ行ってみることにした。そこには木々で囲まれた古い洋館があった、そこだけ時間が止まったような感覚さえ覚える。
ふと、あの日のようにフルートの音色がした。足を急がせ、門を開ける。キィ、と錆びついた音がした。そこには、あの日の少女が居た。漆黒の黒髪が、風になびいている。俺の足音が聞こえたのか、少女が振り返る。
「……、 お にいさま?」
彼女はあの時と同じような無垢な笑顔でほほ笑んでくれた。それだけで、16年という歳月は、短くさえも感じた。
(俺は彼女をきつく抱きしめた)
(もう、どこにも行かせたくない)