悪魔など居ない
「おいで、優しさをあげる」
本性を後ろ手に、美しいかんばせで悪魔は笑う。
飴に靡かない齢の女には優しさを。
悪魔界の常識である。
「なんで私?」
悪魔と女が知り合ったのは一年前。
一度釣れた餌は随分と活きがよく、跳ね回る音が煩わしくて保存食扱いにした。
勘が悪くないのか女は察していたらしく、
「花妻にする気もないならこの糸、解いて下さらない」
煩わしいと吐き捨てるくせ、こんな紙紐一つ切りも解きもしないところが弱くていじらしくて、悪魔は一瞬素顔を見せて笑ってしまう。
そのお世辞にも美しいとは言えない顔をしかと目に映しながら、女は躊躇わず触れてきた。
「そちらの方が、つくり物よりか幾分かマシね」
紙紐をくい、と引き寄せて手中に女を収めてみる。
なんと軽く細く、やわいことか。
悪魔は喉を鳴らして餌を強請る。
女の女たる場所は酷く狭く、入り口で遊ぶだけに留めたが悪くなかった。
中を暴いて蹂躙した時の楽しみがあるというものだ。
興が乗って、自身の隅々をその舌で染め上げるよう命じる。
女は断らないから喜んでいるのだと、むしろ女の心など知らぬと男は笑う。
悪魔は男で、女は道具。
それでいいと、心を通わせる努力を忘れた愚かな男がこの世にはあまりにも多すぎると、女は吐いた。
悪魔というには男は弱い、間違えていた時が怖いから女の意志を汲み取る努力も、確かめる手間も取らない。
金は払ったと豪語して、所有物ですらないインスタントな関係を楽しんでいるつもりでいる。
甘えているのですらない、命令ですらない。
放った言葉が叶って当然だと思い込んでいる、
「あなたこそが人形じゃない」
脳味噌の空虚さを笑って女は、男の菊門を舐めさせられた舌を鋏で切った。