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08 ドライブに行きました!

 私はその晩、へとへとになってホテルへ帰り着くと倒れ込むようにベッドに入りました。

 そのぐらい疲れていたのです。

 そしてそのまま、一回も目を覚ますことなく朝を迎えます。

 うん、よし!

 昨日感じた疲労は大体抜けていますね!

 とはいえ、まだ多少の疲労感は残っていた私は、今日は一日、ホテルでおとなしく読書をすると決めました。

 そうと決まったら、今日読む本を選ばないといけません。

 よし、貴方に決めたわ!

 私は、一冊の本を選ぶと、どんな物語が始まるかとわくわくしながら読み始めたのでした。






§ § §






 そして、広場にある鐘が午後を入ったのを告げてからしばらくした後、それは起こったのでした。


「やぁ、ミス・シドニー。お待たせしてしまいましたか?さぁ早く行きましょう」


 そうです、空気の読めない突然の来訪者……グレーヴスさんがやって来たのです。


「えっ!?あの……、何処へ?」


「おぉ!ミス・シドニー。僕との約束を忘れてしまったのですか?昨夜、一緒に出掛ける約束をしたではありませんか」


 それを聞いて、私は思い出します。

 そうだった、そうでした。

 昨夜、グレーヴスさんが強引に誘うので、そんな約束をしてしまったのです。

 正直私は楽しみでもなんでもなかったので、一晩たったらすっかりと忘れてしまったようですね。

 というか、ぶっちゃけ行きたくありません。

 今日は静かに本を読んでいたいのですよ。


「わ、忘れてなどいません。私は『何処に出かけるのですか?』と聞いているのです」


 約束を忘れたと思われるのは癪なので、少し誤魔化しておきます。


「おや?言ってなかったですか?サザンコートの丘に行く予定です。眺めが素晴らしいですよ」


「サザンコートの丘に行くお話など聞いていませんでした。……おばさま、私がサザンコートの丘に行くお話をどう思います?帰るのが遅くなるかもしれませんし、突然そんな事言われてもおばさまは困りますわよね」


 私はどーしても行きたくなかったので、エンジェル夫人に助け舟を出してもらうのを期待しながら、目をぱちくりしてアイコンタクトを送りました。


「グレーヴスさん、メアリーとお二人で出かけられるのですか?」


「そんな事はありません。ミス・シドニーの兄であるドンと、僕の妹のエステラも一緒です」


 それを聞いたエンジェル夫人は安心したように頷きながら、


「あら、ドンも一緒なのね?だったら大丈夫だわ」


 そう言うとエンジェル夫人は安心した表情を浮かべました。

 なんということでしょう……。

 私の必死なアイコンタクトはエンジェル夫人にはまったく伝わらなかったようです……。

 はぁ……。

 こうなってはもう行くしかありません。

 私は準備する旨を伝えて、重い足取りで部屋に向かうしかありませんでした。

 サヨウナラ、私の本……。

 まるで、永遠の別れをするように本を置くと嫌々準備をして部屋を出ます。

 外に出ると、エステラとお兄様がイチャコラしてる姿が目に留まりました。

 ……思うところは有りますが、この二人の恋の成就の為だと思ってガマンしましょう。

 そう思って自分自身を納得させた所で、


「まぁメアリー。もぅ随分まってしまったわ。何時間もまった気分よ。でも今日のドレスも素敵よ」


 と、目があったエステラから非難交じりの声が飛びます。

 ……相変わらず待たされると大げさに言う癖は治っていないようです。


「……何時に来るというお約束はしてなかったんですもの。貴女のドレスも素敵よ」


 私がグレーヴスさんの馬車に近寄ると、手を取って引き上げてくれます。

 一応紳士っぽい作法はしてくれるんですよね。

 馬車はカブリオレと呼ばれるタイプで御者はグレーヴスさんが直々に行っていて、私はその横に座っています。

 このような馬車に乗るのも、馬を操る男性の隣に座るのも初めてなんですが、まったーくドキドキしませんね。

 それだけグレーヴスさんの好感度は落ちてしまったのです。


「では行きますよ、ミス・シドニー。おい、ドン。行くぞ」


 そう声を掛けるや否や、グレーヴスさんの馬車を先頭に馬は駆け出します。

 ……このまま、何もおきませんように。






§ § §






 結論からいうとまるで楽しくないお出かけでした。

 グレーヴスさんのお話しはつまらない上に、ご自分の自慢話ばかりなのです。

 この方は会話のキャッチボールがまるで出来ていません。

 やれ、僕は酒が強く、大学の飲み比べで勝てる人はいないだの、カモ撃ちに参加すればいつも一番だの。

 最初は真面目に「ソレはすごいですね、グレーヴスさん」などと会話に合わせて合いの手や頷きを真面目に行っていたのですが、それにも限度というものがあります。

 後半になるとすっかり疲れてしまって、自分自身でもわかるぐらいおざなりに相槌をうつだけになってしまいました。

 いやぁね?たとえ自分語りでもお話が旨ければ別ですよ?

 例えば私のお父様なんかは牧師だけあり、人にお話しするのはとても上手に思えますし、同じく聖職者だというスピードマンさんのお話も人を引き付けるものがありましたし。

 でもグレーヴスさんの話。

 これはダメです。

 もぅだめっダメ。

 聞く人の気持ちなど一切考えずに早口に喋りまくるだけですからね。

 そんなこんなでホテルに帰り着いた時はもうクタクタになっていたのでした。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、エンジェル夫人はいつも通りのノンビリとした口調で話し掛けてきます。


「あら、メアリー。お帰りなさい。楽しかったかしら?あらそうそう。温泉施設でスピードマンさん達ご兄妹にお会いしたのよ。貴女に宜しくと言っていたわ」


「えっ!?」


 それを聞いて私は愕然としました。

 う~。

 私も会いたかったです……。

 グレーヴスさんが強引に約束をしなければ会えたのに!

 と一瞬逆恨みをしそうになってしまいましたが、もしそうでなくても今日は一日、本を読んでノンビリとする計画を立てていたのを思い出して気持ちを落ち着かせます。

 そうです、もし約束が無くてグレーヴスさんとのつまらないドライブが無くてもスピードマンさん達ご兄妹には会えなかったのです。


 ……それでも、私はもう二度とグレーヴスさんとドライブに行く約束はしないと心に決めたのでした。

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