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28 懐かしの我が家へ!

 次の日、私は朝早くに伯爵家を後にしました。

 朝早くにも関わらず、レディ・スピードマンはちゃんとお見送りにきてくれましたが、勿論伯爵はいらっしゃいません。

 きっと、私と顔を合わせたくないので、こんな早くに私が出発するように仕向けたのね。

 今は朝の七時です。

 伯爵はいつも八時過ぎにならないと起きてこないのですから。

 私は恨めしそうに(アビー)を一睨みしましたが、レディ・スピードマンの悲しそうな顔を見て、慌てて表情を取り繕います。


「本当に……何といって良いのか。道中の無事をお祈りしております」


「貴女のそのお言葉だけが私の慰めです。荷造りまで手伝っていただきありがとうございました」


「無事、ご実家に付いたらぜひ手紙をください。こちらは私の滞在先の住所になります」


 そう言って住所の描かれたメッセージカードを渡してくださいました。


 私はソレを受け取りながら、


「優しいお言葉ありがとうございます。……でも、私から手紙が来たことが伯爵に知れても大丈夫なのでしょうか?」


「それは……」


 レディ・スピードマンは言葉を詰まらせると下を向いてしまいました。

 そうです、何らかの事が原因で私は伯爵の不興を買ってしまったのです。

 その私から手紙が来たと知れたら、レディ・スピードマンが怒られてしまうかもしれませんものね。

 でも、そんな私の心配を他所に、レディ・スピードマンは力ずよく言いました。


「……いいえ、大丈夫です!お父様の事は気になさらないでください。これは、自らが招いたお客様が無事にお帰りになったのかを確かめる、私の女主人としての義務なのです」


 その言葉に私は感動してしまいました。


「わかったわ、レディ・スピードマン。ぜひ手紙を書くわ」


「はい、お待ちしております。それと私の事はサラーと呼んでください」


「わかったわサラー。私の事もメアリーと呼んでくださいね」


「はい、メアリー。……どうか、どうかご無事で」


 私達はどちらからともなくハグをしました。

 メアリーの良い匂いのする匂いが鼻腔をくすぐります。


「メアリー、ではお元気で」


「サラーもお元気で……。それとスピードマンさんにも宜しく言っておいてくださいね」


 そう口に出した途端、私は悲しみがこらえきれなくなって、目に涙を浮かべます。

 そしてその顔を見られないように顔を背けると、急いで馬車へと飛び乗ったのでした。






§ § §






 私の一人旅はこうして始まったのです。

 馬車に乗って(アビー)が見えなくなると、スグに悲しさは吹き飛んでしまいました。

 だって、この馬車には私の他にかは御者しかいないんですもの。

 でもそこに感じるのは一人旅の恐怖ではありません。

 女性の一人旅は基本的にはありえません。

 ……ありえませんが、私はその手の小説をいくつか読んだことがあるのです。

 所謂、女性を主人公にした冒険小説というやつですね。

 そしてその道中、様々なトラブルがおきるも、結局の所主人公は無事に旅を終えるのですから。

 ……とはいっても、あの手の小説は好きで、とっても面白いけれど、小説は小説と弁えているのです。

 現実と混同したりはしませんとも。


 私を襲ったのは、恐怖では無く自身のみじめさでした。

 誘われて伯爵家に来たのに、最終的にはこうして供もなく追い出されるように帰されてしまうのです。

 何が一体伯爵の怒りを買ったのでしょうか?

 伯爵が外出するときまでは、私に対する態度も変わりないと思えました。

 王都に行き、そして嵐の夜に急いで戻ってくると、私を明日の朝出て行かせる指示をサラーに出したのです。


 それは考えても考えてもさっぱりわかりませんでした。

 そもそもでいえば、私は王都などに行ったことはないのですよ。

 お兄様が王都の大学に通っていますが、そこで二人になにかあったのでしょうか……?


 そして次に考えるのはスピードマンさんの事です。

 彼と過ごした日々を思い出すたびに、胸がズキンと大きく痛みます。

 原因は分かりませんが、伯爵の不興を買ってしまった以上、もう二度と彼と会う事はないでしょう。

 その上、彼の留守中にこうして追い出されるように(アビー)を出てしまい、最後に一目会う事も出来なかったのです。


 私がそんな事を考えている間にも、馬車は進みます。

 途中で、何度も馬車を乗り換え、そのたびに多少の怖さを覚えながらも、私はトラブルに会う事も無く少しづつ実家に近づき、ついには無事に村へと帰りつきました。

 今となっては懐かしさを覚える風景をみて、私はほっと胸をなでおろします。

 そして眼の前を通り過ぎていく懐かしい家々や、見覚えのある店舗などを通り過ぎ、ついに、ついに我が家へとたどり着いたのです。


 たどり着いた頃にはスッカリ日の光は落ち、辺りは真っ暗になっています。

 それでも私の乗った馬車が、懐かしい我が家の前に止まると、


「「あ、おねーちゃんだ」」


 と、これまた久しぶりに見る弟や、妹たちが家から駆けだしてくるではありませんか。

 私は、慣れない一人旅でスッカリからだが疲れていましたが、仕方なく何時ものように両手を広げると、


「ただいま。皆、お父様やお母様の言う事を聞いて良い子にしてたかしら?」


 と、言いながら抱きしめます。


「メアリー!どうしたんだ急に。帰る前は連絡ぐらいしなさい」


「そうですよ、メアリー。戻ると知っていたら、貴女の分の食事も用意しましたのに」


 弟妹に続くようにお父様とお母様も姿を見せ、ありがたーい、お言葉をかけてくれます。

 久しぶりに聞いたなんでもない家族の言葉。

 でも私の心には何とも言えない幸せな気持ちが浮かんできます。


「お父様、お母様。ただいま戻りました」


 そう言った私の目からは思わず涙があふれて来たのです。


「おや、メアリー。急に泣き出したりして、そんなに家族が恋しかったのかい?……ささ、お前たち、メアリーの荷物をもっておやり。お姉ちゃんは疲れていますからね」


「「はーい」」


「さぁ、メアリーも早く入りまなさい」


 私はこうして、家族に引きづられるようにして家に入りました。

 懐かしの我が家です。

 そして着替える間もなく、テーブルに座らされます。

 疲れた私に、お母様がお茶を入れてくれました。

 そしてソレを私が飲んで、落ちつたのを確認すると、


「それで、メアリー。どうして連絡も無く急に帰って来たんだい?エンジェル夫妻からお前が伯爵家に招かれたと聞いたがそっちで何かあったのか?」


 と、お父様が聞いてきます。

 そして、私は残りのお茶に口を付けると、意を決して話始めたのでした。






§ § §






 私の話を聞いた両親は、明らかに怒っていました。

 まぁ、そうよね。

 なんにも落ち度のない娘が、お供もなく追い出されるように帰って来たんですもの。

 これで怒らない親だったら悲しいです。


「何ということだ、若い娘を供も無く放り出すだなんて。スピードマン伯爵がそんな礼儀知らずだったとは」


「本当にそうね。……道中何もなくてよかったわ。よく無事に帰ってきてくれましたね」


「でもどうして伯爵の態度が急に変わったんだ?本当にメアリーに心辺りはないのか?」


「はい、本当に私は分からないんです。伯爵は用事があるからと王都に出かけられて、嵐の夜に戻って来たと思ったら急に私は出て行かされたのです」


「王都か……。もしかしてドンと何かあったのか?」


「私もそれを考えましたけど……。でも伯爵はお兄様の事を知らないと思いますし、お兄様も伯爵の事は知らないと思います」


「そうよねぇ……」


 それきり、私達は黙り込んでしまいました。

 当事者の私にもわからないのに、その場にいなかった両親にわかるとも思えません。

 しばらく黙り込んでいた私達でしたが、不意にお母様が口を開くと、


「これ以上は考えても仕方ないわね。メアリーも疲れたでしょう?今日は早くおやすみなさい」


 と言って、私を部屋に行くように促しました。

 私はその言葉に従い部屋に戻り、着替えてベッドに入ると、まるで気絶でもするように眠りに落ちるのでした。

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