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23 続謎のお部屋!

 私は次の日になっても昨日の出来事が頭から離れませんでした。

 きっとあの部屋には何か秘密があるに違いない!

 その思いは時間がたつにつれドンドン強くなっていきます。

 でもだからといって、他人の家の部屋をコッソリ覗くという勇気は持てなかったのです。


 そして、あの不可解な出来事から数日の時が流れました。

 もう、私の興味はガマンの限界に達しています。

 私はレディ・スピードマンと二人っきりになるチャンスを見つけると、


「あの、レディ・スピードマンにぜひお願いがあるのですが……。もし、私の願いを聞き届けてくれたら大変うれしいのですが……」


 と、遠慮がちに声を掛けます。


「えっ?何でしょうか。私に出来る事でしたら、出来うる限り叶えて差し上げますわ」


「……この間、見学できなかった貴女のお母様のお部屋があったでしょう?ぜひ見せていただけないかしら」


「あら、そんな事ですか。宜しいですよ。では今からご案内いたしましょうか?」


「ぜひ!」


「ではこちらへどうぞ」


 と、レディ・スピードマンを先頭に私達は歩き出しました。

 思いもよらぬ快諾に、私の心は弾みます。

 幸い、今はあのお邪魔な伯爵はいらっしゃいません。

 今日はお一人でお散歩に出かけられたのです。


「ふふふ、ミス・シドニーからのお願いというから、最初は身構えてしまいました」


 そう言って歩きながらレディ・スピードマンは微笑みます。


「……申し訳ありません。私から言いだすなんて少し非常識だったかもしれません」


 そう言って、私は気恥ずかしさのあまり、顔が赤くなるのを感じました。


「そんなことありませんよ。元々は私からご案内しかけたのですから。直前で引き返すことになってしまって、興味を持たれるのは自然な事だと思いますよ。さ、着きました」


 そう言いながらドアノブに手を掛け、部屋に入ろう、とその時です!


「サラー、ここにいたのか、少しこっちに来なさい!」


 そうです、視界の端から伯爵が現れると、私達に向かって声を掛けて来たのです。

 その声は普段の伯爵の声よりもひと際大きく、そして恐ろしい物に聞こえました。

 私は混乱します。

 伯爵がなぜここに!?

 お散歩に出かけて戻られるのはまだ先のはずなのに!

 私がここに来るのが分かって、急いで戻って来たとでもいうの!?


 私はそんな事を考えると、恐怖のあまり口がきけなくなってしまいました。

 レディ・スピードマンに視線を移すと、彼女も驚きを隠せない様子です。


「は、はい。お父様」


 そう言ってレディ・スピードマンは私にチラリと視線を移すと、慌てたように伯爵に駆け寄ります。

 その目は、一瞬『早くこの場所から立ち去って』といっているように見えました。

 私はその忠告に従い、レディ・スピードマンが伯爵と話している間に、慌ててその場から立ち去ります。

 そして、自分に与えられた部屋に入り、鍵を掛け、ベッドの上に腰を下ろしました。

 すると先ほど感じた恐怖で、今更のように体が震えます。


 あの部屋にはやっぱり他人には見せられない『何か』があるんだ!

 私があの部屋に入るのを何らかの方法で察知した伯爵は、あの場所で待ち構えていたんだわ。

 でも、どうして、どうして私にみせたくないの?

 それにレディ・スピードマンもどうして私に何も言わないのかしら?

 今頃、彼女は何らかの罰を受けているのかもしれません。

 それどころか、それに飽き足らず、怒りに身を任せた伯爵がこの部屋を訪れるかも知れない!

 そう思うと、震えが止まりません。


 そんなこんなを考えていると、食事の時間を告げる鐘が鳴り響きました。

 いつまでも部屋に引きこもっているわけにはいきません。

 伯爵が何をするにせよ、人目のあるところの方が安全かも知れない。

 私はそう考えると、覚悟を決めて部屋から出るのでした。






§ § §






 結論から言いますと、その後は拍子抜けするぐらい何も起きませんでした。

 いたって普通に食事をし、伯爵もいつものように気軽に私に話しかけてきます。

 レディ・スピードマンも特になにかあったような感じを見受けられません。

 てっきり、怒りを隠し切れない、不機嫌な伯爵がいると思ったのに……。

 私は安堵と共に、疑問が頭を渦巻きます。

 食事の後はいつものようにレディ・スピードマンとお話する機会があったのですが、


「先ほどは案内の途中で申し訳ありませんでした。お父様は急ぎの用事が私に有ったようなのです」


 といって、何事も無かったかのように私に微笑みます。

 その姿は私に心配をかけさせたくないように、無理をしてるようにも見えなくはありません。


 私は、


「そうだったのですね。お気になさらないでください」


 と言ってあいまいに頷きます。

 これ以上、レディ・スピードマンを私の興味に巻き込む事は出来ません。

 私は隙を見つけて、一人であの部屋に入る事に決めました。

 そう決意した私は、着替えの為部屋に戻ると偽り、その場を後にします。


 きょろきょろ。

 よし!誰もいないようですね……。

 私は辺りを見回しながら、誰にも見つからないように足を進め、自分の部屋に戻るふりをして、先ほどの部屋の前に戻ってきました。

 入る前に一度大きく深呼吸をします。

 すーはー。

 そして意を決してその部屋のドアを開けました。

 ドアはスーッと音も無く不自然なほど静かに開きました。

 私は人一人分の隙間が出来た所で、さっと体を部屋の中に潜り込ませます。

 そして、音のしないように静かにドアを閉めると、何があっても驚かない、そう決意して振り向きました。

 するとそこには――。


 そこはごく普通の部屋があるだけでした。

 私に与えられている部屋より広く、大きく取られた開放的な窓からは太陽の光が温かく部屋を照らしています。

 すでに主はいない部屋にも関わらず、ベッドはきちんと整えられており、床や家具の上にもチリ一つ落ちているように見えません。

 そして部屋の一番目立つ所には女性の肖像画が掲げられています。

 これがきっとレディ・スピードマンのお母様なのでしょう。

 だって、その優しく微笑む顔は彼女に似ているのです。

 彼女同様に、とても美しい女性でした。


 私はしばらく魅入られたようにその女性の肖像画を眺めていましたが、ふと我にかえると、次に訪れたのは酷い恥ずかしさでした。

 だって、ここは秘密やおどろおどろしい感じも一切しない、ごくごくふつーの部屋何ですもの。

 私は酷い思い違いをしていたのです。

 伯爵がこの部屋を私に案内しなかったのも、人に見られてはいけない秘密があるから、などでは無く、レディ・スピードマンが言うように、人が亡くなった部屋で縁起が悪いからなのでしょう。

 そのような部屋は家族ならともかく、お客様を案内する部屋としてはふさわしく無いですものね。


 私は恥ずかしさで顔が染まるのを感じながら、急いで部屋を退出しました。

 その時です!


「おや、ミス・シドニーではありませんか、そんな所で何をしているのです?」


 と、私に声がかけられたのでした。

 私は飛び上がるぐらいびっくりすると、恐る恐る声の方向に向き直ります。


「す、スピードマンさん!ど、どうしてここにいらっしゃるのです?外出していたはずではなかったのですか?」


 そこにいたのは、数日前から所用で出かけていたというスピードマンさんでした。


「どうしてって……私の部屋へ戻るには、この廊下を通るのが一番の近道ですからね。それに用事はもう済みました。だから急いで帰宅したのです」


 スピードマンさんはそれだけ言うと、いじわるそうな笑みを浮かべながら口を開きます。


「次は貴女が私の質問に答える番ですよ、ミス・シドニー。なぜ貴女はここいるのですか?母の部屋から出てきたように見えましたが?」


 そう言いながらニコニコと笑みを絶やさない彼に対して、私は恥ずかしさのあまり何も答える事が出来ずにしばらく押し黙ってしまうのでした。

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