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22 謎のお部屋!

 私達が小さな森を抜け(アビー)に戻ると伯爵はすでにお戻りになっていました。

 私達の姿を見る成り伯爵は言います。


「ミス・シドニー、お疲れではありませんか?よろしければそのまま(アビー)を案内しますがいかがです?」


「お気遣いありがとうございます。特に疲れてはおりません」


「そうですか、では我が(アビー)を案内いたしましょう。……サラー!」


「はい、お父様。ではミス・シドニー、これからお父様と私でご案内いたしますね。質問などがあったら遠慮なくおっしゃってください」


 そして、お二人に連れられて、私は様々な部屋へ案内されました。


「――という、由来がこの家具にはあるのですよ。見た目は少々古びていますがね。わかる人にはこの価値はわかると思います。貴女はどうですか?ミス・シドニー」


「えっと、はい。とても素晴らしく立派だと思います」


 私は先ほどから似たような言葉を繰り返しています。


「とても立派ですね」「とても素晴らしいです」「本当に素敵だと思います」


 ……突き詰めるとこの三種類の言葉しか口にしていないのです。

 だってね?

 私にそんな家具の価値なんてわかるはずないじゃありませんか。

 私にわかるのは古いとか新しいとか、そのぐらいしかないのです。

 敷物の事とかを言われても同じです。

 私には生地や折り方の種類すらわからないんですもの。

 それでも折角案内してくれる伯爵やレディ・スピードマンの機嫌を損ねるわけにもいきませんものね。

 なので私は表面上はニコニコしながらも、必死で取り繕っています。


 伯爵は私のそんな気持ちを知ってか知らずか、私が定型文を繰り返すたびに、


「やはりミス・シドニーもそう思いますか」


 などどいいながら、顔をほころばせています。


「次の部屋は、ここは図書室ですな」


 おぉー。

 この部屋は今までの部屋とは違って私は本気で驚いています。

 天井まで届くような高い本棚に、本がぎっしりと詰まっているのです。

 埃っぽい書庫独特の匂いの中に、革とインクの匂いが混じっているような、そんな匂いが充満しています。

 そして私は本の匂いが好きなのです。


「これは素晴らしい図書室ですね」


 私は心からそう思いました。


「ここにはどのような本があるのですか?娯楽小説などもあるのでしょうか?」


「娯楽小説ですか?そのような物はここにはありませんな。ここにあるのは学術書や宗教書、あとは領地に関する報告をまとめた物だけです」


 えぇー!!

 こんなに本があるのに娯楽小説はないの?

 その答えに私はガッカリしました。


「……そうなのですか」


 それが顔に出てしまったのでしょうか?


「おや、そんなにガッカリなさらずとも。若い方にその様な本が流行っているのは私も知っておりますが、あくまでここはわが(アビー)の図書室ですからね。娯楽目的の本は収納してないのですよ。でも我が家に全くないというわけではないのですよ。その様な本は子供たちが持っているはずです。サラー?」


「はい、お父様。ミス・シドニー、その通りです。娯楽小説は私やカルロスお兄様が持っています。もし読みたい本がおありでしたら何時でもお貸ししますわよ」


 おぉ!

 これは思ってみない言葉ですね。


「ありがとうございます。若しかしたらお借りする機会があるやもしれませんが、その時にはぜひお願いいたします」


「入用の本がありましたらぜひ子供たちに。サラーだけでなく、カルロスも快くお貸しすると思いますよ。では次の部屋に参りましょう」


 そうして、私達は図書室から去りました。

 そしてまたあまり興味の惹かれない部屋の案内が続きます。

 そして、いい加減ニコニコしながら誉め言葉を言うのも辛くなってきたころに、それは起こったのです。


「ミス・シドニーもそろそろお疲れでしょう。戻ってお茶などはいかがですか?」


 と、伯爵が言ってくれましたが……。

 これが数分前なら、なんの疑問もなく「はい」と言ってことでしょう。

 でも伯爵がこの言葉をかけて来たのは、レディ・スピードマンがとある部屋のトアに手をかけて開きかけたときだったのが私には『なぜか』気になってしまったのです。


「あの?このお部屋は?」


「この部屋は大したものはありませんよ。実は先ほど使用人にお茶の準備をするように指示しておいたのです。そろそろ準備が整っていると思いますよ」


 そう言う伯爵の目は、『何か』を感じさせるものでした。

 この部屋は他人に見られてはいけない『何か』がある、そんな雰囲気です。


「で、でも「おい、サラーさっさとミス・シドニーをご案内するんだ、早くしなさい」


 私の言葉を打ち消すように、伯爵は強い口調で、レディ・スピードマンに命令しました。

 その時レディ・スピードマンの顔に、一瞬の陰りが浮かぶのを私は見逃さなかったのです。


「はい、お父様。ミス・シドニー戻りましょう。お疲れになったでしょう?美味しい紅茶を飲んで休まれたほうが良いと思います」


 この部屋には絶対何かがあるんだわ!

 そしてそれを伯爵は隠そうとしているが、レディ・スピードマンは私に見てもらいたいようね。

 一体何があるのかしら?

 この(アビー)にはやっぱり隠された秘密があるの?


 私は二人に連れられながら戻る時に、そんな思いで頭がいっぱいになるのでした。






§ § §






 お茶は確かに美味しかったです。

 なんでも伯爵が外国から取り寄せた特別な物だとか!

 そしてお茶もそうですが、特に目を引いたのはその素晴らしい茶器の数々ですね。


「お茶も大変美味しいですが、この茶器もとても素敵ですね。お茶の美味しさをこの器がさらに引き立てているように感じられます」


 私のこの言葉に伯爵は満足そうに頷くと、


「えぇ、そうでしょう。これは一見シンプルに見えますが、その実、とても良い品なのです。正直私はお茶の味にはこだわる方ではありませんがね。器によって味が何倍にも引き立てる効果があるのは分かりますからね」


「この器は全てお父様自ら選ばれて、お買いになったのですよ」


「そうだな、サラー。その通りだ。私はどちらかといえば新しい物よりは古くても良い物を選ぶが、これは比較的新しい作品です。王都に行った時見つけましてね。その場で購入したというわけです」


「まぁ、王都でですか?」


「えぇ、王都は流行の発信地ですがね。私は基本、スグすたれるような流行りの物よりも、何年たっても色あせない様な古い物を選びますが、これだけは違います。いずれは王都でもこのような茶器が流行るはずです」


「そうなのですか。茶器を見る目があるというのは素晴らしい事だと思います」


「……私の見る目は茶器だけではありませんがね」


 そう言って伯爵は私に視線を移しながら不敵に笑いました。

 ???

 なんでしょう、なにか伯爵が私を見る目に違和感がありますね。

 気のせいなら良いのだけれど……。


 そしてその後も会話は続きます。

 私は伯爵が席を外した時にレディ・スピードマンに先程の部屋の事をコッソリと聞く事にしました。


「あの……先ほど案内しかけたお部屋の事なのですが、あのお部屋は一体……?」


「……あの部屋ですか?私のお母様のお部屋です」


「そうなんですか、なぜ伯爵は私が入るのを止められたのでしょう?」


「……お母様はあの部屋で亡くなられました。きっと人が亡くなった部屋をミス・シドニーに案内するのはふさわしくないと思ったのでしょうね」


「そうなんですか……」


「先ほど森でお母様の話題になったでしょう?ついお母様の事を思い出してしまって、貴女にも見て貰おうと思ったのですが。冷静に考えれば浅はかな考えだったかもしれません」


 レディ・スピードマンはそう言って頭を下げます。

 私は「そんなことありません」と言いながら、伯爵が止めた理由が本当にそれだけなのだろうか?

 という思いが頭をよぎるのでした。

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