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21 古文書の正体!

「う、うーん」


 翌朝、私はメイドがカーテンと鎧戸を開ける音で目を覚ましました。

 どうやら、いつの間にか眠ってしまったようですね。

 ん?見るとメイドさんが床に散らばっている古文書に不思議そうな顔をし、拾い上げようとしていますね。

 私は慌ててそれを阻止します。


「そ、その紙は私が後で拾っておきますので、そのままにしておいて!」


「了解いたしました」


 不思議そうな顔をしながらもそう言って用事の済ませたメイドさんは退出していきます。

 扉の向こうにメイドさんが姿を消した瞬間、私は急いでベッドから跳ね起きると、床に散らばっている古文書を拾い集めました。

 どんな興味深い事が書いているのだろーか?

 あんなに奥深く隠されていた理由は一体?

 そんな思いを胸に秘めながら、恐る恐る一枚目に目を通しました。

 そして、そこには思いもよらない衝撃的な内容が記述されていたのです。


 ……えっと請求書?


 そうです。それは数々の品物に対する請求書だったのでした。

 一枚目だけでなく二枚目も……ぶっちゃけ全部同じでした、はい。

 つまり、つまること、つまれば、これは古文書などでなく、以前この部屋に泊まった何者かが残した請求書だったのでした。

 恐らくタンスの奥の方に紛れ込んだのに気づかないで立ち去ったのでしょう。

 そして、この部屋を掃除するメイドなどにも今まで気づかれなかったのに違いありません。


 すべてを把握した私は「はふぅー」とため息を吐きます。

 あの恐怖の一夜はなんだったのでしょうか?

 よくよく考えてみれば、いくら古びていると言ってもこのようなタンスに古文書などあるはずが無いじゃありませんか。

 全ては私が生み出した妄想に過ぎなかったのです。

 もぅ、でもこれは半分はスピードマンさんのせいだからね!

 そうです、彼があんな怖い話をしたばっかりに、きっと私はそう思ってしまったのです。


 そうやって責任の半分をスピードマンさんに押し付けて気持ちを落ち着かせたところで、昨日指示された朝食の時間が迫っている事に気が付きます。

 私は慌てて着替えると、急いで朝食室に向かったのでした。






§ § §






 急いだお陰で、朝食の時間には遅れずに済みました。

 そしてその朝食も、無難に終えた私はスピードマン伯爵に散歩へと誘われます。

 どうやら敷地内を案内してくれるみたいですね。

 伯爵と二人っきりでは無く、レディ・スピードマンも一緒ですよ。

 スピードマンさんは用事があるとかで、朝食を済ませると場所で何処かへ出かけてしまったので一緒ではありません。

 うー、残念。


 というわけで、現在進行形でお二人にトコトコ着いて行っています。


「ミス・シドニー、昨日はぐっすりと眠れましたか?」


 伯爵からそう、問いかけられます。

 私は一瞬、言葉に詰まってしまいました。


 実は昨日、部屋に備え付けられてあるタンスを気になって調べていたら古文書らしき物を発見したんですが、そのタイミングで不意に明かりが消えてしまったんです。私は怖くなってベッドで一晩中震えていました。


 なーんて言えるはずもありません。

 かといって嘘を吐くのも心苦しいので、嘘じゃない範囲で無難に答えておきます。


「実を言うと、良く眠れなかったんです」


「ほほぅ、そう言えば昨夜は風雨が吹き荒れてましたし、ミス・シドニーのような若い娘さんがなかなか寝付けなくても仕方ないのかもしれませんね。私はあの程度はどうという事もありませんが」


 そう言って伯爵は納得してくれます。

 ……よし!うまくごまかせたようですね。


「でも今日はとても良い天気です。昨日の嵐が雲を全て吹き飛ばしてくれたように感じます」


「ははは、そうかもしれませんね。ミス・シドニーは詩人的な言葉をお持ちだ」


 そんなこんなの会話をしながらも、伯爵は私を一番眺めが良い場所に案内してくれました。

 それを見て私は、「うわぁ~」と声を上げました。

 伯爵が自慢するだけあり、とても素晴らしい庭園だったのです。


「すごいですね!こんな素晴らしい庭園は今まで見た事がありません」


 これはおべんちゃらでは無く、心からそう思っていっています。

 庭と、その背後にある、伯爵館の対比が素晴らしい眺めだったのです。

 綺麗に整えられた庭と奥に鎮座する荘厳な建物。

 さすが歴史ある(アビー)というだけありますね!

 暗い夜に受ける印象と明るい昼間にうける印象が全然違うのです。

 伯爵は私の言葉に満足そうに頷くと、


「まぁ、自分で言うのもなんですがね。わが国でも上位にはいる庭園だと思っていますよ。勿論、実際に整備しているのは庭師ですが、その庭師を選んだもの私ですし、指示も私自ら出してますからね」


「そうなんですか。でも本当に素晴らしいです。きっと庭師も伯爵にそこまで言われると光栄でしょうね」


「エンジェル氏もきっと素晴らしい庭園を持っていると思いましたが、それを見慣れているであろう貴女にそこまで褒められると光栄ですね」


「エンジェル氏ですか?エンジェル氏も庭園を持っていますがこんなに素晴らしくありませんし、ここまでの広さはなかったです」


 私はそう言うと伯爵はさらに嬉しそうに笑いました。

 どうもエンジェル氏の事を気になさっているようです。

 なぜでしょうね?

 お金持ち同士、なにか張り合うものでもあるのでしょうか。

 そして素晴らしい庭園を十分に堪能した私は、レディ・スピードマンの案内で木々の生い茂った丘へと足を進めます。

 その途中で、伯爵は何か用事があるらしく、先に館へと戻られましたが、私には好都合なのでした。

 だって、伯爵がいるとなぜかレディ・スピードマンの口数が少なくなってしまうんですもの。

 私も伯爵も前では委縮してしまいますし、いないほうが都合がいいのです。


 レディ・スピードマンから案内されたそこは、木々から零れ落ちる日の光が美しい散歩道でした。

 といっても昨夜の嵐のせいか、多少地面がジメジメしていたのですが、それを抜きにしても素晴らしい場所だと思えます。


「とても良い感じの場所ですね」


「ふふふ、ミス・シドニーならそう言ってくれると思いましたわ。知っていらっしゃるかしら?こういった場所を散歩するのは森林浴って言うんですって」


「森林浴ですか?」


 聞いたことない言葉ですね。

 どのようなものなのでしょう?


「はい、私もお母様から教わりましたの。このような木々が生い茂った場所には身体によい独特の芳香があるんですって。それを体に浴びる事を森林浴というみたいですよ」


 そう言いながらレディ・スピードマンは大きく伸びをしながら大きく息を吸います。

 そして私に振り返りながら言います。


「ミス・シドニーもやってごらんなさい」


「こ、こうですか?」


 私は言われるがまま、手を上に大きく上げてゆっくり息をすって吐き出します。


「……そうですね、何か身体が軽くなったような気がします」


「そうでしょう!でもお父様そんなの気のせいだ、迷信だっていって取り合ってくれませんの」


「そうなのですか」


「えぇ、でも貴女にはちゃんと効果があったようでうれしいわ。この道もお母様が好きな散歩道だったのよ。思い出の場所なのです」


「……お母様は亡くなられたのですか?」


「はい。その時、私はまだほんの子供で、子供の時はお父様のようにこのジメジメした道があまり好きではありませんでした。でも今ではお母様の思い出が残るこの場所が大好きなのです」


 そう言って、レディ・スピードマンは遠くを見るような目をし、私はその横顔をみつめる事しか出来ないのです。

 そして、その後はなぜだか私は話しかける事が出来ないまま、その小さな森の散歩道は終わりを告げて、私達は館へと戻ったのでした。

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