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20 恐怖の一夜!

 そのお屋敷は古めかしいゴシック形式でした。

 なんでも建てられた当初は修道院で、それがスピードマンさんのご先祖の手に渡って以来、ここを本宅としているとの事です。

 まだ日は明るいのにかかわらず、なんとなーく『いかにも』な感じがしますね。

 これは先ほどのスピードマンさんのお話もまんざら嘘では無いのかもしれない、そう思うと一瞬身震いしました。

 そして案内された部屋は暗くて狭くて埃っぽい部屋……、なんてことはなく、壁も床もきれいに磨かれた、窓の大きな明るい部屋でした。

 考えてみれば私は客人として遇されるためにここに来たのです。

 私が想像していたような後ろ暗い部屋をあてがわれるはずは有りませんよね。

 私は急いで外出着を脱ぎ、案内してくれたメイドさんに手伝ってもらいながら室内用のドレスに着替えます。

 そして迎えに来たレディ・スピードマンと一緒に伯爵の待つダイニングルームに向かうのでした。






§ § §






「ミス・シドニー、食事はお口に合いますかな?」


「えぇ、伯爵。とても美味しいです」


 と、無難に答えておきますが、実は緊張しているので味はよくわかりませんでした。

 これ以上食事の事を聞かれる前に急いで話題の方向を変えなければなりません。


「このダイニングルームはとても広いですね。それと素敵な家具も沢山あります」


 すると伯爵は嬉しそうに、


「いやいや、ウチは古いばかりで大したことはありませんよ。貴女のお知り合いであるエンジェル氏のご自宅の方が素晴らしいのではないですか?」


「おじさま……ゴホン。エンジェル氏のお宅も立派だと思いますが、ダイニングルームはこんなに広くありませんし、備え付けてある家具もこんなに精巧な細工は無かったです」


「おや?そうですか。まぁ実を言うと我が家は古くとも、質の良い物を備え付けてあるつもりでしてね。……それは別として先ほどエンジェル氏の事を『おじさま』と言いかけましたが、ご親戚か何かなのですか?」


「いえ、エンジェル氏は親戚ではありません。しかし、とてもとてもよくして頂いてます。……おじさまと言いかけたのは私の信愛の現れで、エンジェル夫妻も親しい者ばかりの時はそれを許してくれているのです」


「そうですか。エンジェル氏のお噂は私も良く聞きますよ。なんでも爵位こそ無いものの、とても資産をお持ちだとか」


「……はい、私の村の大部分もエンジェル氏の土地と伺ってますし、父の教会にも多大なご寄付をなさっているとか。それ以上の具体的なお話は私も存じません」


「そうですか、エンジェル氏にはお子はいらっしゃらないと聞きましたが事実なのですか?」


「はい、お子様はいらっしゃらないはずです」


「するとエンジェル氏の資産は誰が受け継ぐのでしょう?」


「えっ!?……私は存じ上げませんが、普通に考えたらご親戚のどなたかやエンジェル夫人に渡るのではないでしょうか?」


 すると伯爵は満足そうに頷きます。

 ????

 なんでしょう?なぜエンジェル氏の事を伯爵はそんなに気にかけているのでしょうか?

 私は疑問に思いつつも顔には出さずに食事を続けます。

 その後も喋るのはなぜか伯爵ばかりです。

 私はそれに相槌をうったり、頷いたりして失礼の無い様に対応しています。

 なぜかスピードマンご兄妹は特に話しかけてくる事も無く、もくもくと食事を続けているのです。

 むー、本当は楽しい食事のはずなのにこれではちっともくつろげませんね。

 伯爵との会話はやっぱり緊張してしまうのです。

 これだと先ほど話題に出たエンジェル夫妻とのお食事の方が楽しく過ごせましたね……。

 とはいえ、今日は初日ですしね。

 スピードマンご兄妹も私と同じように緊張して、何を話したら良いか分からないだけかもしれません。

 私はそう思う事にしました。

 そして、そんな食事も終わりを告げます。






§ § §






「それでは失礼いたします」


 そう言いながら、メイドは部屋を出て行きました。

 ドレスを脱ぎ、寝間着に着替えた私はベッドに腰を下ろすと「ふぅ……」と、ため息を吐いてしまいました。

 そして今夜の事を考えます。

 何かね、スピードマンご兄妹が押し黙るのは、伯爵がいるときだけみたいなのよね。

 伯爵が所用で席を外すと、スピードマンご兄妹も以前と変わらず話しかけて来るのですが、伯爵が戻ってくると途端に口が重くなって会話が続かないのです。

 なんででしょうね?

 そんな事を考えていたその時、視界の隅でカーテンがはらりと揺れるのを見ました。

 私は一瞬、ドキッとします。

 そうです、昼のスピードマンさんの怖いお話を思い出してしまったのです。

 私は意を決して、恐る恐るそのカーテンに近づいていくと……!

 なんということでしょう!

 単に鎧戸の隙間から風が吹き込んでいるだけでした。

 デスヨネー。

 あの時のスピードマンさんのお話しとは部屋の様子が何もかも違うのです。

 部屋には男性の肖像画など無いし、案内してくれたのも若いメイドです。

 嫌な雰囲気なども微塵に感じさせない、普通、よりも豪華な客室です。

 私は一瞬馬鹿げた考えをした自分に苦笑しながら窓の外に目をやりました。

 見ると外はいつの間にが雨風が強くなっているようです。

 時折窓に強い雨音がぶつかります。

 さて、馬鹿な事考えてないで寝よっと。

 私はベッドに戻ると、部屋の明かりを消そうとして……不意にソレが目に留まりました。

 なんて事のない古い家具です。

 なのになぜか目が留まったのです。

 そのまま寝てしまおうとも思ったのですが、どーしても気になるので確かめる事にしました。


 一歩また一歩とその家具に近づきます。

 近づいてランプの明かりに照らして見ると、それは何か複雑な飾りがついたタンスですね。

 この飾りは銀や金で出来ているのかな?

 細かな細工がしてあり、非常にお高そうであり、いわくありげにも見えます。

 私は昼間のスピードマンさんの怖いお話を思い出し、喉がゴクリと音を立てました。


 と、とにかくしらべなきゃ!

 私は何かに急き立てられるように行動します。

 錠前がついたタンスですが『なぜか』鍵はつけっぱなしになってますね。

 錠前は銀色ですが、鍵は黄色に輝いています。

 私は恐る恐る鍵に手を触れると、震える手で回しました。


『ガチャン』

 とその小さな錠前に似合わない大きな音が部屋に響きました。

 私はかすかに震える手でタンスの引き出しを開けましたが……。

 なんということでしょう!

 ……中身は空っぽなのでした。


 私は思わず「ふふっ」っと笑います。

 そりゃそうですよね。

 これは客室に用意されたタンスです。

 つまりはお客様の荷物を入れるようになっているのです。

 つまり、つまること、つまれば何も入ってなくて正解なのです。

 私の恐怖心がすぅっと引いて行くのを感じました。

 やっぱりスピードマンさんのお話はただの私を怖がらせるための作り話だったのです。

 そうと分かれば畏れる事はなにもありません。

 それでも私は行き掛けの駄賃とばかりに全部の引き出しを確かめる事にしました。


「えい!」


 二つ目の引き出しを開けます。

 勿論なにもありません。


「とぅ!」


 三つ目の引き出しを開けます。

 勿論空っぽです。


「やぁ!」


 四つ目の引き出しを開けた時、私の目に何かが入りました。

 空っぽのはずの引き出しに何かが入っていたのです!

 私は、再びわずかに恐怖心が湧いてくるのを感じました。

 恐る恐るそれを取り出してみますが……。

 なんということでしょう!

 それは綺麗に折りたためられたベッドシーツだったではありませんか!

 ……そうです、ただのベッドシーツです。

 私は再び苦笑しながらシーツを戻します。

 そして最後の引き出しを開けます。


 ……。

 勿論何もはいってませんでした。

 これで全部の棚の確認が終わりました。

 私は十分に好奇心を満たした充実感でいっぱいです。

 さて、寝よっと。


 そして引き出しを閉めてベッドに戻ろうとしたとき、『ソレ』に気が付いてしまったのです。

 アレ?最後の引き出しがうまく閉まらないよ?

 そうです、最後に開けた引き出しだけ、閉めようとすると、わずかに閉まらないのでした。


 おかしいね?

 なんで?

 何かが引っかかってるの?


 私は最後の引き出しだけ、タンスから全部引き抜きます。

 そして奥をランプの明かりで照らして見ると――!

 なんということでしょう!

 奥に『何か』が押し込められてるではありませんか!


 これは!

 明らかになにかを隠す目的で押し込められてるわね!

 私はそれを震える手で取りだしました。


 なにこれ?

 巻物?

 ま、まさか古文書!

 そうです、これはきっとこの(アビー)の秘密を記した古文書なんです!


 私は取り出した『ソレ』を震える手でランプの光に翳そうとしました。

 その時です!

 窓が不意にガタガタ!と大きな音を立てると、『何か』が外から入り込む気配がしてランプの火をかき消してしまったのです!


「きゃっ!」


 私は小さな悲鳴を上げると、古文書を放り投げて急いでベッドへと駆け込みます。

 ス、スピードマンさんが言ったことは本当だったんだ、この部屋には何か大きな秘密があるんだ!

 私は布団を被りながらブルブルと子ヤギのように震えていました。

 そしてそのまま恐怖にかられながら、いつの間に眠りに落ちてしまったのです。

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