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19 素敵なドライブ!

 私は両親に急いでお手紙を書きました。

 そしてお兄様と共に返事は届きました。

 内容は、エンジェル夫妻が認めるならOKという事でした。

 まぁ両親はスピードマンご家族がどのような方か分かりませんものね。

 そこで実際に会った事があり、それなりのお付き合いがあるエンジェル夫妻に判断をゆだねたのでしょう。

 勿論エンジェル夫妻からもOKが出ましたよ。

 なんていったってこのお二人は私には甘々ですものね。

 私が一生懸命お願いすれば大抵の事は許してくれるのです。


 そして今日は出発の日、私はスピードマンご家族と共に二カ月ほど過ごしたここ(チェルトナム)を去る日がやってきました。


「ミス・シドニー、伯爵に失礼が無い様にな」


「メアリー、体には気を付けるのですよ。それから喉を冷やすことなく、夜には喉をちゃんと包むのですよ」


「はい、おじさま。おばさま、体には気を付けます」


 こうして私はエンジェル夫妻に手を振りながら、チェルトナムを後にしたのでした。

 先頭を行く四頭立ての馬車にはスピードマン伯爵とレディ・スピードマンが乗っています。

 そして私はというと、その後ろから着いて行く二頭立てのカブリオレと呼ばれるタイプの馬車に乗っています。

 その私の隣にはスピードマンさんが華麗に馬車を操っているのです。

 つまり、つまること、つまれば私はスピードマンさんと二人っきりという事なのです。

 きゃー、なんということでしょう。

 これはスピードマン伯爵がそう薦めてくれたことなのです。


「どうですか?ミス・シドニー。乗り心地は悪くありませんか?」


「はい、大丈夫です。スピードマンさんは馬を操るのがとってもお上手ですね」


「僕が?ははは、そんな事はありませんよ」


 そう言って謙遜したように笑います。

 しかし、その馬を操る手さばきは華麗で、無暗に馬を駆り立てるような事はしません。

 以前乗ったグレーヴスさんの操る馬車とは大違いなのです。

 あの人はスピードを出せばそれがうまいと勘違いしているような人でしたからね。

 あー、嫌な事を思い出してしまいました。

 ここはスピードマンさんとの楽しいお話に集中しましょう。


「でも、お隣に人を乗せるのに慣れてる感じがします。……普段から女性を乗せているのではないのですか?」


「おや、そう思いますか?」


 そう言ってスピードマンさんは不敵に笑いました。


「えぇ、ミス・シドニーのご想像通りですよ。私は隣によく女性を乗せる事があります。誰だと思いますか?」


「えっ!?そ、それは……」


 私はとっさの事でうまく答える事が出来ませんでした。

 これはやっぱり恋人や婚約者を普段から乗せている、という事なのでしょうか。

 ……やっぱり、スピードマンさんのような素敵な男性なら、そのような方がいてもおかしく無いですよね。

 だから女性の扱いに慣れているのかな……

 そんな事を思っていると、


「えぇ、貴女が今ご想像通りの人物です。サラーですよ。妹を乗せてドライブに行くのです。家族でも親戚でもない若い男女が二人っきりで馬車に乗るのはあまり褒められたことではありませんからね」


 その答えを聞いて、私はほっとしたような気分になりましたが、今のこの状況はどう思えば良いのでしょうか?

 私、気になります!

 顔に血が上るを感じます。

 きっと、傍からみたら赤面してるのかもしれませんね。

 そんな私の様子を知ってか知らずか、スピードマンさんは「フフッ」っと笑うと、


「貴女は特別ですよ」


 と、囁くように言ってくれたのでした。

 私は思わず舞い上がりかけましたが、


「貴女は妹の友達ですからね。サラーはああ見えて本当に親しい友人は少ないのです。父の影響が大きいせいですね。その父にも貴女は気に入られているようですよ」


「そう……なんですか?」


「えぇ、本当は僕がそばについててやるべきなんですがね。僕には牧師としての役目があります。牧師館に滞在しなければならないのですよ。そのおかげで、妹は家に一人切りの場合が多いのです」


「レディ・スピードマンは外出したり、家にお友達を呼んだりはされないのでしょうか?」


「外出はしますよ、父が許してくれた場合は、ですが。家に呼ぶのは難しいでしょうね。父は騒がしいのが嫌いなんですよ」


「そうなんですか。大きいお屋敷で一人だなんて寂しいですね」


「ウチの屋敷は歴史のある建物(アビー)ですが、反面古い建物でしてね。貴女もウチに来たら気を付けてください。この世ならざる者に出会ってしまうかもしれませんよ」


「まぁ!それは本当なんですか?」


「貴女は自分が動かした覚えがないのに、いつの間にかなくなっている本や、あるべき場所に無く、絶対にないはずの場所で見つかる文房具などを目撃しても冷静でいられますか?」


「……それは他の人が勝手に動かしたのではないのですか?」


「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。でも今の貴女にはそれを判別する事ができないでしょう?それに、貴女にあてがわれる部屋にも注意した方が良いでしょうね。僕達家族が使ってない部屋には理由があると考えるべきです」


「ど、どのような理由なのでしょうか?」


「そうですね……昔、その部屋で誰かが無くなって以来使われてない部屋というのはどうでしょう?そして貴女はその部屋をあてがわれてしまうのです。そして、その部屋はいかにもな雰囲気を漂わせています。その部屋に貴女を案内するのは年老いたメイドで、そのメイドもその部屋に入るのには躊躇しているようなのです」


「そ、そんな恐ろしい部屋があるのですか?そ、それでその後は何がおこるのでしょう?」


「貴女はそのメイドに促されて、その恐ろしい部屋に入ります。そこはやや大きな部屋のわりに古びた家具が少ししかなく、部屋の中央にはよくわからない男性の絵が掲げられています。そしてその絵は部屋に備え付けられた小さなランプの光の加減によって表情を変えるように見えるのです」


「……そ、それで、その後は?」


「そして、メイドは用事を済ませると不自然なほど駆け足でその部屋から出て行きます。そして別れ際に言うのです。『この辺りには何か不思議なナニカを見たという者がいるのですが、私は見た事がありませんし、お客様も”きっと”大丈夫だと思います』そう言ってメイドは駆け足で行ってしまいました。部屋に残されたのは貴女只一人です。貴女は不安に駆られて部屋を見回しますが、その時肖像画の男性と目があうと、その絵が笑ったように見えたのです」


「そ、それで!先を教えてください!」


「貴女はびっくりして絵を見直します。でもその時にはもう絵の表情は元に戻っていました。貴女は勇気を振り絞り小さなランプを持つとその絵に一歩、また一歩と近づいて行ったのです。そしてあと一歩で絵に手が触れる、しかしその時です!ランプが風もないのにかき消すように消えてしまったのです。貴女は小さな悲鳴を上げると慌ててベッドに戻り、布団をかぶります。そして恐ろしい一夜が明けました。貴女は恐る恐るベッドを出て絵を見た時、大きな悲鳴を上げました。なぜか絵は見た事も無い女性の絵にすり替わっていたのです」


「や、やめて、それ以上怖い話は!」


 そう言いながらも私はドキドキしながらスピードマンさんのお話を聞いていました。

 いつの間にかスピードマンさんの腕にぎゅーとしがみついています。


「ふふふふ、ハハハハ。申し訳ありません。貴女を必要以上に怖がらせてしまいましたね。その後の出来事は、貴女のご想像にお任せいたします。勿論、このお話の最後はハッピーエンドでお願いします。ほら、そろそろ我が家が見えてきましたよ」


 そう言ってスピードマンさんは私の様子がそんなにおかしかったのか、笑いながら前方を指さします。

 そしてそれに促されるように私も目をやると、そこには大きなお屋敷が見えて来たのでした。

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