14 呼び出されました!
朝です。
とても気持ちの良い朝です。
昨日のスピードマンご兄妹とのお散歩は私の心に計り知れない充実感をもたらしました。
只のお散歩で、ここまで心が晴れやかになるなんて!
今なら何が起こっても大抵の事は許してしまうかもしれませんね。
そして、嬉しい事は連続して起こるものなのです。
私宛にお手紙が届きます。
差出人はエステラなのです。
不思議でしょう?
最近、ちょっとだけスレ違いがあったとはいえ、エステラとは頻繁にあうのですから。
お話しがあるならその時にすれば良いだけですよね。
私は不思議に思いながらも開封します。
『親愛なるメアリーへ
たった今、とてもとても嬉しい出来事が起こりました。
お願いです、メアリー。そのお話しをぜひ貴女の耳に直接お入れしたいの。
遅くてももう数日すれば、正式に貴女にも伝えられるはずですが、それより前にお伝えしておかないといけませんもの。
というわけなので、この手紙を受け取ったら、すぐにでも来て欲しいのです。
でもメアリーには何も言わなくてももう分かっているかもしれませんね。
貴女は何でもお見通しですもの。
かしこ
貴女の親友 エステラ・グレーヴスより』
???。何だろうこの手紙は……。
全く要領を得ませんね。
でもドライブをお断りした件で、エステラとも若干気まずくなってしまったと思っていたので、これは渡りに船かもしれません。
というわけで、私は朝食を澄ますと、早速エステラの泊まっているホテルへ出向きます。
すると出会うなりエステラは急いで私を部屋に招き入れて、二人っきりになると。
「メアリー!とってもお会いしたかったわ」
と言って私をガシっと抱きしめてきます。
「えっ!?ちょ、エステラ苦しいです。どうされたのですか、一体」
「私、貴女と親友以上の関係に成れる事がうれしいの、メアリーもそうでしょう?そうだといって!」
と言われても、何のことかさっぱりわかりません。
「落ち着いて、エステラ。最初から説明してくれないと分からないじゃない」
するとエステラは抱きしめていた手を離すと、
「まぁ、メアリー。どうしても私の口から言わすつもりね。もぅ、いぢわるなんだから」
そう言って、顔を赤らめながらモジモジし始めます。
いえ、本当にわけがわからないんですが、モジモジしてないでちゃんと説明してよ。
そしてエステラは私のそんな気持ちを知ってか知らずか、意を決したように口を開くと、
「私、私ね、貴女のお兄様からプロポーズされたの。そして私はそれをお受けしたわ」
と、トンデモ無い事を仰るじゃ無いですか。
「えぇ”-!ほ、ほんとなのよね?」
「こんな事、冗談なんかじゃ言えませんわ。私、貴女と姉妹になるのよ、ふふふ、メアリー宜しくね」
余りの事に私はぽかんとします。
そりゃーね?お兄様がエステラに好意を持っていたのは知っていまたよ?
でも、このタイミングでお兄様がプロポーズするとは思っても見なかったのです。
というか、お兄様はまだ学生ですし、職にもついてないんですが。
まぁ将来的にはお父様の後を継いで、聖職者になるつもりだそうですけど、今現在としてはまだ学生なのですよ。
「で、でもお兄様はまだ学生で、結婚には早いと思うんだけど……」
「えぇ、勿論正式な結婚は卒業後になると思うわ。だから残念だけどスグに結婚するというわけではないのよ」
「……エステラは、その……。お兄様で本当に良いの?」
ぶっちゃけエステラはとても美人さんです。
反面、お兄様は身内のひいき目から見ても平凡な顔立ちで……。
はっきりいって外見上はつり合いが取れないと思うのですよ。
「私、実の所、お兄様が、貴女のお兄様を家に連れて来た時から気になっていたのよ」
「そうなの?」
「えぇ、誠実そうな方だなって。それに、ご長男でお父上の財産もお継になられるのでしょう?」
「えっ!?……私はよくわからないけど、そうなの……かな?」
うーん財産ねぇ。
ぶっちゃけウチは貧乏ではないけど、そんな財産のあるウチじゃないと思うんだけどな。
たしかにお父様は聖職禄っていうの?
一定の教会財産を自分のものにできる権利を持ってるけど、田舎の村での話だし、そんな大きな金額ではないと思うんだけど。
「ところで、お兄様は、いまどちらにいらっしゃるの?」
「貴女のご両親の同意を取り付けに、朝早く帰っていったわ。結果はスグ手紙で知らせてくれるって。……あぁ、私は不安だわ!貴女のご両親はこの結婚を認めてくださるかしら」
「それなら大丈夫よ。お父様やお母様ならきっと反対はなさらないと思うわ」
「そう、それを聞いて安心したわ」
「じゃ、私は一旦、ホテルに戻ってよいかしら?エンジェル夫妻にお兄様の婚約の事をお伝えしたいの」
「そうね、急に呼び出したりしてごめんなさい。メアリーにもご用事があったんじゃない?」
「ううん、大丈夫よ。こんな目出度い事だもの。謝る必要なんてないわ」
そう言って私はエステラと別れてホテルを出ます。
エステラとお兄様が婚約ねぇ、あまり実感がわかないなぁ……。
などと考えていると、
「ミス・シドニー!」
と、ホテルの前で不意に声を掛けられます。
げげっ、その声は!
そう、空気の読めない嘘つき男であるグレーヴスさんでした。
「ちょうど、良かった、貴女に挨拶をしに、ホテルまで行こうと思っていたのですよ」
「……そうでしたか。それでどんなご用件で、ですか?」
「僕もしばらくここを離れる事になったのです。あ、ご心配なく、一時的な物でスグに帰って来ますから」
「そうでしたか、お気をつけて」
「貴女も今、エステラからプロポーズの話を聞いたのでしょう?これで僕達も親戚ですね」
うぐ!
それはちょっと考えたくないことですね……。
「……お兄様とエステラが結婚されたらそうなりますね」
「結婚しますとも、貴女のご両親も反対はなさらないでしょう?ウチの両親も同じです」
「で、でもお兄様はまだ学生ですもの。実際に結婚するのはまだまだ先になると思いますよ」
「そうか、それはその通りだな。ドンと同じく僕もまだ学生だったんだ」
と今気が付いたようにグレーヴスさんがいいます。
「そうです、ですから私達が親戚になるとしても、まだまだ先のお話です」
「そうか、ドンは卒業するまで結婚はしないつもりなのか。僕だったらとても卒業を待つことなんて出来ないな」
「あら?グレーヴスさんは学生の身分で結婚をするおつもりなのですか?」
「えぇ、愛する人から同意を得たのなら、スグにでも結婚したいですね。そう、今からでも」
そう言って、グレーヴスさんは意味深な目で私を見ました。
……無視です、そう無視しましょう。
「そうですか、でもお兄様にはお兄様の考えがありますから」
「そういう話だったら、ドンの結婚よりも、僕が結婚するほうが早いかも知れないな」
「そういったお相手がいらっしゃるのですか?」
「まだ同意は得ていませんがね、貴女もお気づきなのでしょう?」
「……いえ、私は存じません」
一体なんの事を言っているのでしょう?
考えたくもありませんね。
「……貴女はずるい人だ。今はそういう事にしておきます」
「所でグレーヴスさん、お出かけになるのではなかったのですか?もうご用事がないのであれば、私も急いでホテルに戻らなければならないのです」
「おっと、そうだった。僕がこの街から離れるのは、ホンの僅かな期間ですが、僕にとってはとても長く感じる事でしょう……。お引止めしてしまってすみませんでした、ミス・シドニー」
「はい、それでは、さようなら」
私はそれだけ言うと、素早くその場を離れようとします。
すると後ろから声がかかりました。
「しばらくしたら僕も貴女のご両親にご挨拶へ行くかもしれませんね」
でも私は、その声は聞こえないフリをして振り向かずに立ち去ったのでした。