13 楽しいお散歩!
そして私はスッキリとした目覚めで翌朝を迎えます。
お天気の方も雲一つない快晴です!
私は『神様ありがとうございます』と心の中で感謝の念をたっぷりと送っておきました。
朝食の時間中も私は楽しみでソワソワしっぱなしです。
そしてスピードマンご兄妹が迎えに来られ、何事にも邪魔される事は無く、私はついにご兄妹とお散歩をする事が出来たのでした。
私達はセントラルパークをのんびりと歩きます。
とても気持ちのよい気分です。
「ふふふ、貴女達と一緒にお散歩していると風景がいつものと違って見えて来ます。まるで外国の風景のようです」
「おや?そんな事はないでしょう?」
「そんな事あるんです。ほら、ここから見える風景なんてまるで『ダグラス』のイメージにピッタリとは思いませんか?」
「『ダグラス』ですか?この間の劇場の演目の」
「はい、主人公のマチルダと恋人のダグラスが逢瀬を重ねる場所がありましたでしょ?私はこんな風景だったと思うのです」
「そういえば、ミス・シドニーも『ダグラス』を劇場で鑑賞していらっしゃいましたね。あのようなお芝居が好みなのでしょうか?」
「はい、あの作品は最終的には悲恋に終わってしまいます。しかしそこに至るまでの誤解やすれ違いがうまく読者の心をとらえていると思います」
「私はお芝居だとはわかっていても、あの作品には肯定できませんね」
「どうしてでしょう?スピードマンさん」
「あの作品は不義や神の祝福を得てない結婚を主題にしていますからね。最も不義については誤解ではあるのですが、主人公がソレを明確に否定しなかった為に全員に不幸が訪れてしまいます」
むー。
相変わらずスピードマンさんはお堅いですね。
この『ダグラス』という物語は簡単に言うと、若いマチルダが敵国のダグラスに恋をし、神の祝福を受けない結婚をするところから始まるのですが、いろいろあってダグラスは死んでしまうのです。
そして嘆き悲しんだマチルダはその後、男の子を出産するのですが、その子を捨ててしまいます。
その後、とある貴族に見初められ、正式な結婚をしますが、十数年後、捨てた子供に偶然出会い、いろいろと世話を焼いているうちに、不義を疑われてしまうという物語なのです。
「おっしゃっている事は分かるのですが……。しかしあの物語の主題はそこではなく、一度は捨てた子供とは言え、捨てきれない母子の愛情や、夫の愛を失うのを畏れ、本当の事を告白できないマチルダの心情などではないでしょうか?」
「しかし、元々はといえば、神の祝福を受けない結婚をしたマチルダが悪いと言えます。あれは時間をかけてでも周囲を説得し、正式な結婚をするべきでした」
「それは、そうかも知れませんが……」
確かにそれはそうなんですが、それだと物語にならないよーな気がします。
「もぅ、お兄様ったら、それじゃお話にならないじゃ無いの」
今まで黙って聞いたいた、レディ・スピードマンからも一言がはいります。
「ごめんなさいね。ミス・シドニー。お兄様はこのようにいつも物語のアラを探してしまうの。幾らお仕事が聖職者と言ってもその見方はどうかとおもうわ。でもだったら見なければ良いと思うでしょ?でもお兄様はそう言った物語は大好きなんです」
「私の性格をわざわざ説明してくれる素敵な妹を持って幸せだよ、サラー」
そう言いなら、スピードマンさんはヤレヤレと言ったポーズを取ります。
「良い物語を見ない人間は人生を損していると思うね。思うところは色々あるが、確かに『ダクラス』は面白い作品だよ」
「そうなんですか、男の方はあまりそう言った物語は見ないのかと思っていました」
「おやおや、ミス・シドニー。それは偏見ですよ」
「そうよ、ミス・シドニー。お兄様ったら、私の本まで私より先に読んでしまうんですもの」
「えっ!?」
「ふふふ、驚くでしょ?お兄様ったらひどいでしょ?私が本を置いてちょっと出かけた事があったのよ。そして戻ってきたら本が置ていた場所にないの」
「あれはちゃんと説明しただろ?本が放置されていたから僕が責任を持って預かっていただけだと」
「あら?じゃなんでその後スグに返してくださらなかったんですか?本が返って来たのは結局数日後だったじゃないですか」
すると、スピードマンさんは降参したという態度で、
「わかった、わかったよ、サラー。僕はあの本が読みたかったんだ。誰しも途中まで読んだ本は最後まで読み切りたいだろ?よくもミス・シドニーに妹の本を取り上げる、ひどい兄の正体をばらしてくれたね?これで君の復讐は満足かな」
これを聞いたレディ・スピードマンは満足そうに微笑むと、クルっと私の方へ向き直り、
「さぁ、これでお兄様の正体がミス・シドニーにもわかったでしょ?お兄様と仲良くなったら貴女の本まで取り上げられてしまうかも知れないわよ」
そう言ってレディ・スピードマンは意味ありげな笑みを私に送るのでした。
すると慌てた様子でスピードマンさんが言います。
「そんな事はありませんよ、ミス・シドニー。サラーは大げさにいってるだけなのです」
その様子をみたレディ・スピードマンはいたずらっ子のように笑い始めます。
私もつられて笑いました。
そして楽しいお散歩はまだまだ続くのです。
私はお散歩の間中、今日のお散歩が実現してとてもとても良かったと心の底から思うのでした。