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12 嘘を吐かれました!

 登場人物紹介

 メアリー・シドニー……主人公。田舎牧師の長女。勘違いしやすい性格の十七歳。

 ドン・シドニー……主人公の兄。エステラの事が好き。

 エステラ・グレーヴス……グレーヴス夫人の娘。とても美人。二十二歳。

 ステファン・グレーヴス……エステラの兄。ドンの親友。虚栄心が高く嘘も辞さない性格。メアリーにグイグイくるが……。

 カルロス・スピードマン……牧師。エルズミア伯爵の次男。二十六歳。

 サラー・スピードマン……カルロスの妹。とてもとても美人。

 エルズミア伯爵……カルロスとサラーの父親。






§ § §






 そうして一夜が明けます。

 昨日の夜の出来事のお陰で、その晩は気持ちよくグッスリと眠れて、朝はとてもよい気分ですね。

 私は朝食を澄ますと、エンジェル夫人の許可を取ってからさそっくスピードマンご兄妹の元へと向かいます。

 今度こそ、レディ・スピードマンに会って謝らなければなりませんからね。

 そして狙い通り無事に会う事ができたのでした。


「ミス・シドニー、昨日は折角尋ねていらしたのに、お会いできずに申し訳ありませんでした」


 と、向こうからご丁寧に謝って来たので、私は慌てて謝り返します。


「そんな!謝らなければならないのは私の方なのです、私自身の意思では無いとはいえ、結果的に私から約束を破ってしまったのですから……。申し訳ありませんでした、レディ・スピードマン」


「えぇ、兄から聞いております。なんでもグレーヴスさんという方が、私達が出かけるのを見たとおっしゃったそうですね」


「はい、そうなのです!私、そのお話しをすっかり信じてしまいました。それで、その方と一緒に出掛けても良い、という気持ちになってしまったのです」


「そうですか……。きっと誰かと見間違えてしまったのね。私達は出かけてなどいませんでしたから。その方も間違えただけで決して嘘を吐いたのではないと思いますよ」


 そう言ってレディ・スピードマンはニコリと微笑みます。

 その微笑みは、まるで天使のようです。

 きっと男の人ならたちどころに虜になってしまうのに違いありません。

 女性の私から見ても、そう思わせる素敵な微笑みだったのです。


「……そうですね、私もそうであれば良いと思っています」


 私はとりあえずそう言っておきましたが、実の所、グレーヴスさんはわざと嘘を吐いた可能性が高いと思っているのです。

 でもそれは私とグレーヴスさんの問題であって、レディ・スピードマンに聞かせる問題でもありませんからね。


「では、ミス・シドニー。改めてまたお散歩に行きましょうよ」


「はい!ぜひお願いいたします!」


 レディ・スピードマンは、その私の勢いに、一瞬びっくりしたような顔をみせると、スグにくすくすと笑うと、


「まぁ!そんなにすぐ即答していただいて嬉しいわ。そうねぇ……では明日辺りはどうでしょうか?兄もきっとご一緒出来ると思います」


「明日ですね!はい、問題ありません。予定なんて全然無いですもの。あったとしても貴女とのお散歩には絶対に行きますから」


 そうして、思いもよらない約束が出来た私は、るんるん気分で自分のホテルへと戻ったのでした。






§ § §






 そして午後になり、部屋で本を読んでいた私に、またもや招かざる客が現れました。

 そう、一時は顔を見るのも嫌になったグレーヴスさんです。

 一緒にお兄様やエステラも来ています。

 そして私に会うなりいきなり捲し立てます。


「この間はいきなりのお話で少し驚かれたようでしたからね」


「えっと……。申し訳ありません、グレーヴスさん。何のお話ですか?」


「この間中止になった、トウイツケナム行のお話しですよ。ドンやエステラとも相談したのですが明日行くことになったのでこうして貴女に伝えに来たのです」


「えっ!?明日ですか?」


「そうです、問題ありませんよね?明日は楽しみに待っていてください。今度はきっと雨も降りませんよ」


 と、一方的に話を纏めようとします。

 へへーんだ、でも明日は私は先約があるもんね。

 これは危なかったですね、お断りするにしても、先約があるのと無いのとでは難易度が大違いですからね。

 というわけで私は早速お断りします。


「明日でしたら私は行かれません。先にお約束があるのです」


 この一言で簡単に引き下がってくれればいいな、と思っていたのですが。


「えっ!?ど、どういうことですか?」


「明日はレディ・スピードマンとお散歩に行くお約束をしたのです。前回は結果的に私の方から約束を破ってしまいましたからね。今回はそのような事は絶対にしませんよ」


 それを聞いたグレーヴスさんだけでなく、なんとお兄様やエステラまで批難の目を向けてくるではありませんか。


「メアリー、お前は本当にタイミングが悪いな。その約束は取り消せないのかい?」


「そうよ、メアリー。約束を取り消すのは破った事にはならないわ。取り消して私たちと一緒に行きましょうよ」


 と、口々に勝手な事を言い始めます。

 私は若干むっとして言い返しました。


「いーえ。貴方達が何と言おうと、このお約束は破る事も取り消すことも『絶対に』いたしません!」


 その言い方が気が障ったのか、三人でごちゃごちゃと言い始めました。


「メアリー!お前、そんな言い方はないだろう!」


「メアリー、お願いそんな言い方しないで、私達は親友じゃなかったの?」


「ミス・シドニー。散歩ぐらい延期しても平気でしょう?」


 ……もぅ!うるさいですね!

 人の約束を気軽に取り消せだとか、延期しろと言う人たちといっしょに出かけたくないのですよ!

 ……などとは言えないので、私は溜息をつくと妥協案を提示します。


「そうだわ、明日は行かれないけど、明後日なら大丈夫よ、おばさま達もきっと行っていいと言ってくれるわ」


 本当は行きたくないのに、これで精いっぱいの妥協をしたつもりだったのですが……。


「明後日はダメだ、僕が約束がある」


 と、グレーヴスさんがおっしゃるじゃないですか。

 はー?

 人に約束を取り消せとか言っておいて、そんなこと言うなんて何のつもりでしょうね。


「では、そちらのお約束を取り消したらいかがですか?そしたら明後日皆でいけますよ」


 するとグレーヴスさんは怖い顔をして押し黙ってしまいました。

 ほら、やっぱり自分の約束を取り消すのは嫌なんじゃないですか。

 結局、グレーヴスさんは自分勝手な人なんですよね。

 その後も、いろいろと言われましたが、私は決して首を縦に振る事はありませんでした。

 そして三人は説得する事をあきらめたのか、挨拶もそこそこに帰っていきます。

 私はその後ろ姿を見ながら、自分の意思を貫き通した事に、ある種の満足感を得ました。

 その日はそれで終わったと思っていたのですが、その後トンデモ無いことが待っていたのです。

 なんと一時間ほどするとまた三人がやって来たのですよ。

 そして開口一番こう言い放ちました。


「ミス・シドニー。問題は全て解決しましたよ。これで明日一緒に出来掛ける事ができます」


「????、一体なんの事ですか、グレーヴスさん」


「えぇ、貴女の代わりに僕がレディ・スピードマンと話を付けて来たんですよ。僕達と一緒に出掛ける予定があるから貴女とは明日行けないと伝えてあげたのです」


「……はっ?」


「僕達の方が先に約束していたと聞いたらレディ・スピードマンも了承してくれましたよ」


 ……なんということでしょう。

 グレーヴスさんは、そう言ってドヤ顔をしています。

 私は瞬間的にその憎たらしい顔を張りたくなるのを必死で押さえつけました。

 もしこの場にいたのが二人っきりでしたら張り倒していたかもしれません。


「なんという事をしてくれたんですか!私は先に貴方達と約束していたという事実などありません。なぜそんなウソをレディ・スピードマンに言ったのですか!」


 私はそう叫ぶと、慌ててホテルを飛び出しました。

 後ろから何やら喚き声が聞こえましたが当然無視です、無視!

 急いでレディ・スピードマンの誤解を解かないといけません。

 私はわき目もふらず早足でスピードマンご兄妹のホテルへと向かいます。

 私はホテルに着くとスグ使用人に、


「今すぐレディ・スピードマンにお会いしなければならないのです、取り次いでくれるまでここを動きません!」


 と、言いました。

 私のその勢いに使用人は面食らった様子でしたが、スグ奥へと引っ込むと戻ってきて、


「お待たせしました。お会いになられるようです」


 と言って私を招き入れます。

 私はレディ・スピードマンの姿が目に移った瞬間、一気にまくしたてます。


「先ほどグレーヴスさんが何かを言ったと思いますがそれは全て嘘です、信じないでください。私は貴女の約束が先にあるので一緒には行けないとちゃんと言ったのです。でもグレーヴスさんはその約束を取り消すことを私に強く求めてました。でも私は決してそれに従う事は無かったのです。私の説得をあきらめたグレーヴスさんは今度は貴女に嘘をついて約束を取り消して来たと言ったのです。それを聞いた私はそれは嘘だと言いに来たのです」


 私は息を乱しながらも、言いたいことは全部言い切りました。

 すると、私の余りの勢いにレディ・スピードマンは驚いた様子で、


「お、落ち着いてくださいミス・シドニー。もっとゆっくりお話しになっても大丈夫ですよ。確かに先ほどグレーヴスさんとお会いしました、そのお話しですか?」


「はい、そうです。グレーヴスさんは自分の約束が先だったとか言いませんでしたか?それは全部嘘なのです。私はそんなお約束はしていません」


「はい、確かにそう言われました。私もおかしいなとは思ったのですが、やっぱりそうだったのですね」


 そうしてレディ・スピードマンはニコリとほほ笑むと、


「その為にわざわざ急いで来てくださったのですね。私の為に」


「と、当然です、だってグレーヴスさんとはそんなお約束はしてないのですから。私は貴女としかお約束はしていないのです」


 と言って私は俯きます。

 本音を言えば一番はスピードマンさんとお散歩する事が大事だったのよね。

 でもそんな不純な動機はみせられません。

 そしてその後はレディ・スピードマンにお茶に誘われ、いろいろとお話をして楽しい時間を過ごしました。

 そして最後にエルズミア伯爵も紹介されます。


「ミス・シドニーは以前、カルロスと踊っていた方ですね。これからもカルロスやサラーと仲良くしてあげてください」


「……勿体ないお言葉ありがとうございます。私の方こそぜひ宜しくお願いします」


 こうしてレディ・スピードマンからの誤解がすっかり解けたばかりか、思いもよらぬエルズミア伯爵にも正式に紹介された私は心を弾ませながらホテルへと帰ったのでした。

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